「……と、とにかくありがとう。ちょっと落ち着いたよ」
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
今回も後書きに設定が載っています。今回のはけっこう真面目に……あ、いや、毎回真面目ですよ?
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「よく毎日ああも賑やかにしていられるな」
「アレンさん!」
騒々しい二人に気を取られていると、いつの間にか背後にアレンが立っていた。
「いつからいたんですか?」
「ロジャーとの愛がどうのってあたりからだ」
「けっこう前ですね」
アレンは夕飯をのせたトレーをテーブルに置くとユウキとウィスを連れて席を立ち、二人に注文の仕方を説明していく。お金が、とユウキが口にしたのは、既に代金が支払われた後だった。
「おいユーキ、あのまま行かせて良かったのか? 機体をバラす勢いだったぜ」
「いくらアリスさんでも、壊れるまで分解したりはしませんよ……多分」
彼女ならもしかしたらやりかねない、という考えが脳裏をよぎって、ユウキが乾いた笑いを浮かべる。そんな彼を見たドミニクは、からからと笑いながらユウキの背中をバシバシと叩いた。
「ま、もしもの時はここで雇ってもらえよ。今のご時世、パイロットは食いぶちに困らないからな」
「僕はテルスに戻れないと困ります!」
「明日も早いというのに、よくやる」
そうは言いつつもアリスの性格についてはアレンも既に慣れたらしく、それほど気にする様子もなく夕飯に手をつけた。
アレンの言葉に記憶を刺激され、ユウキは今日した会話を脳内で順に遡っていく。
「そういえばアリスさんもそんなこと言ってましたね。何かあるんですか?」
「軍の次期採用機を決めるコンペだよ。この間の騒動の時にラボの設備もだいぶやられちまったせいで機体の修理が予定よりかかって、明後日がコンペだってのにようやく出発なんだ」
「お前たちも来るか?」
発言者のアレンと元々表情の乏しいウィスはともかく、ユウキとドミニクは突然の依頼に目を見開いて驚いていた。
「そういうのはアリスの台詞だろ。お前が言うとは思わなかったぜ」
「ここに残っても時間の浪費にしかならない。ユウキには備えが必要だ」
「備え? あぁ、そういうことな」
「えっと、どういうことでしょう?」
ドミニクは何か理解したようで、無言でユウキの肩に腕をまわしてニヤリと笑う。一方のユウキは全く話が見えておらず、あたふたと二人の顔を交互に見ている。
「まぁそれは後のお楽しみってことで。腕、どうしたんだよ」
自分の腕がどうかしたのだろうかと一瞬考えたユウキだったが、すぐにパルチザンの両腕のことだと気付く。
あちらの世界で出会った研究所の人たちのことや、銃弾が通らないほどの装甲を持った巨大な敵との戦闘について話すと、アレンとドミニクは興味深そうに聞いていた。対してウィスは黙々と食事に手を伸ばしている。
話が終わる頃には周りもだんだんと混み始めてきて、四人は食堂を後にした。ユウキとウィスは客室へと案内され、その道中で明日の予定について簡単な説明をされた。
アレンたちが去っていくのを見送った後、ユウキが部屋の前で小さくため息をつく。それを聞いたウィスがドアノブにかけた手を止めた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと考え事をね……」
ユウキが何でもないよと手をひらひらと振ってみせても、ウィスはユウキの顔をじっと見続けている。
誤魔化して部屋に入ってしまおうかとも考えたが思い直し、ユウキは通路を見渡して誰もいないことを確認した。
「今日……っていうのが正しいかは分からないけど、竜成のところから転移した時、あっちは夜だった。でもこっちに来たら夕方だった。もっと言えば、僕たちは竜成たちの世界に約三日いたけど、アリスさんは僕たちが転移したのは五日前だと言ってた」
「次元穿孔システムによって世界の境界に開けた門を通ることで次元転移している。時間のズレは次元の狭間を通過するときの影響だと考えられている」
やはり説明になると、ウィスはかなりよく話す。しかしユウキの意図していることとは若干のズレがある。
「いやそういう話じゃなくて、僕が心配してるのはテルスに帰れるかってことだ。戻れたとしても、ゴルコンダ・プロジェクトが発動した後じゃ意味がない……」
険しい表情で足元を睨みつける。天井の照明をぼんやりと反射する白い床を見ていると、テルスで最後に見たガルティエの紫のテイムリッターが頭をよぎり、ユウキは思わず爪が食い込むほどに強く拳を握った。
「次元穿孔システムに手を加えようとすると術式が消去されるよう設定されている。よって、任意の次元転移も転移先の選択も不可能。テルスに帰還できる時期について考察を重ねても、明確な答えを出すことは出来ない」
「なるほど。つまり、打つ手がことを考えるだけ無駄、潔く流れに任せることも必要ってことか」
「? わたしは現状を説明しただけ」
「……と、とにかくありがとう。ちょっと落ち着いたよ」
「そう。なら良かった」
今度は止まることなくウィスとユウキはあてがわれたそれぞれの部屋へ入っていく。若干照れくさそうにしているものの、ユウキの顔はいくらか明るくなっているように見えた。
翌朝、言われた時刻に外へ出てみると、格納庫に巨大な輸送機が横付けされていた。
ちょうどカーマインとセルリアンを搬入している最中で、その足元ではロジャーが他の職員と数枚の書類をめくりながら話している。
「おはようございます、ロジャーさん」
「おぉ坊主か。嬢ちゃんも元気そうだな」
「ロジャーは……眠いの?」
パルチザン(ver.1.2)
ボルケンβとの戦闘で中破したパルチザンを双葉博士が補修した状態。
無事だった右腕とゴウダイナーにも使用されている人工擬似筋肉で両腕を新調。さらに、膝下まで覆うようなデザインから「ブーツ」と呼ばれるスラスター内臓の脚部パーツも装備された。
パワーは初期値よりも高くなり、両腕とブーツの装甲に使われたダイノニウム合金によって実体武器への防御力も向上。スラスターによって三次元的な挙動が可能になった。
ダイノニウム合金から得られるダイノエナジーをスラスターの動力にまわしているが、燃費が悪く多用はできない。プラーナエクステンションによる出力調整にユウキが慣れていないこともあり、使い勝手はよくない。
総合的に判断すれば性能は上がっているものの、そのポテンシャルを活かしきれない。調整の時間をもっと取れれば……という双葉博士の恨み節が聞こえてきそうである。
良くも悪くも、タイトルの「継接のパルチザン」を象徴している状態。