「これからボクと一晩かけて愛を語らう予定なんだ」
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日間13位に浮かれて緊急投稿です。
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今回の後書きは、みんな大好きロジャーさんです(笑)
モニターに映っている作業場の壁が螺旋を描くように歪んだかと思うと、直後にコクピット内のほとんどの光源が一斉に消えた。
不意打ちだった初回を含め三度の次元転移を経験したユウキは、その暗転が一瞬のことであることをもう知っている。
再び点いたモニターに映っていたのは荒涼とした大地だった。赤茶色の土は夕日に照らされて一層赤みを増していて、ところどころに転がっている大岩はその影を長く伸ばしている。
緑の植物もなければ、人々で賑わう街も見当たらない。少し離れた場所にある唯一の建築物は、敷地を囲う塀や建物の一部が崩れており、今まさにその補修作業が行われている。
「ディアナ社のラボ、だよな」
「そう。データに周辺の位置情報が記録されている」
パルチザンでラボの付近まで進んだが、ユウキはそのまま敷地の中にまで入ることはしなかった。
一応は警戒しつつ、クレーンやタンクローリーなど数台の建設用車両がしている作業の邪魔にならないようにという配慮だった。しかし、前半分に関しては不要だったとユウキはすぐに気付くことになる。
「あれ」
ウィスが画像の一部を拡大すると、そこには窓から顔を出して手を振っているアリスが映っていた。
遠くからでも分かるほど瞳を輝かせながら何か叫んでいるようだが、さすがに工事の音にかき消されてしまって聞き取ることはできない。
アリスもそれに気付いたのか、今度は窓から身を乗り出して大きく身振り手振りを始めた。
「そんなにバタバタしても、肝心の内容がはっきりしないんだよな」
「たぶん、そこで待てと言ってる」
「あのジェスチャーで分かるのか?」
「なんとなく。アリスは夢中になると余計な動きが増える。パルチザンの修理をしている最中もそうだった」
そんな話をしているうちに、いつの間にかアリスは部屋に引っ込んでいた。ウィスの言葉を信じてそのまま待つこと数分、ラボの方から白衣をはためかせたアリスが走ってくる。
ハッチが開くのと同時にウィスがコクピットから飛び出していき、先に昇降機を使って降りていった。
「おー、ホントにウィスちゃんだ! また会えて嬉しいよ」
「わたしも嬉しい」
「やぁユーキくん。今回は元気そうだね」
忠犬の如くそばに張り付いているウィスを従えたアリスが、遅れて降りてきたユウキの顔色を見て微笑みかける。
「えぇ、ちょっとだけ頭がクラクラしますけど、大したことありません。というより……むしろアリスさんの方がなんだか疲れてませんか?」
「実はね、この間の騒動でボクの秘書をしてくれている子が怪我をして、いま入院中なんだ。ずっと彼女に任せてた仕事も自分でやらなきゃいけなくてね、なかなか忙しいんだよ。それはそうとユーキくん! なかなか面白いことになっているじゃないか」
アリスの興味と視線はすでにパルチザンへ、正確にはその両腕に向けられている。
アリスがパルチザンを最後に見た時は、左手にシールドを装備し背部にはロジャーお手製のブレードがマウントされている状態だったが、今のパルチザンはそのどちらも装備していない。
「面白いかどうかは分かりませんが、あっちでも色々ありまして……」
「あっち! 色々! ふふふ、道中退屈せずに済みそうだよ」
「道中? どこかへ行くんですか?」
「あぁそうなんだ。出発は明日の朝の予定だったから、今日来てくれて良かったよ。詳しい話は中でしよう。ボクは先に行っているから、機体は格納庫へ搬入しておいてくれ。五日前に使った場所は覚えているね?」
「は、はい大丈夫です」
「じゃあ頼んだよ。ウィスちゃんはボクと一緒に来るかい?」
「行く」
矢継ぎ早に用件を伝えたアリスはウィスを引き連れてラボに向かう。二人の背を見送りながらユウキは昇降機に足をかけた。
「……五日?」
久しぶりに一人でコクピットに収まったユウキは、アリスの言葉をふと思い出して首をひねった。
格納庫へはすんなりと通してもらえた。ラボの人間はパルチザンを見ても特に騒ぐ様子もなく、それぞれが自分の作業をしている。
アリスがどこまで話したのかは分からなかったが、パルチザンに驚くのは前回で終わっているようだった。
「よっ、ユーキ。まだ自分の世界に帰れてなかっただな」
「ドミニクさん! 別の異世界を経由して、またここに来ちゃいました」
「異世界って他にもあったのか。飯は?」
「いえ、まだです」
「なら一緒に食おうぜ。土産話でも聞かせてくれよ」
ニヤリと笑ったドミニクは格納庫の出口に向けて歩き出す。ユウキはボルケンβとの戦いを思い出しため息をつきつつも、置いていかれないように足早にその背中を追いかけた。
「なるほどなるほど。あのおかしな反応はダイノニウム合金ってやつのせいだったんだね」
「そこ、声デカいぜ〜」
ドミニクに連れてこられたラボの食堂にアリスの興奮気味の声が響いていた。白を基調とした床と壁紙に対してテーブルや椅子は赤で統一されており、全体的に洒落た印象を受ける。
時間帯的にまだ数えるほどしか利用者はおらず、ウィスとアリスは長テーブルの一角に陣取ってお茶を飲んでいた。
既にウィスから色々と聞き出しているらしく、アリスは瞳を輝かせながら何度も大きく頷いている。
「ダイノニウム合金」という単語をこの世界で耳にしたことがなんだか可笑しくてユウキはクスリと笑った。
「ドミニク、聞いたかい? 二十メートル級の人型兵器でビームだって!」
「ビームって、アニメかよ。同じ話を何度もするのは面倒だろうし、俺はアレンとおやっさんが来てからゆっくり聞かせてもらうさ」
「残念ながらロジャーは来ないよ。これからボクと一晩かけてじっくりと愛を語らう予定なんだ」
アリスが流し目で甘ったるい声を出しながらわざとらしく身体をくねらせる。
本人としては艶やかな大人の女性を最大限演じているつもりなのだろうが、いかんせんアリスの身体は起伏に乏しい上に普段の態度が態度なだけに、どうしてもコメディー感が出てしまう。
ドミニクは肩をすくめながら鼻で笑った。
「どうせアイメンドール愛だろ?」
「いやいや。今夜のテーマはパルチザンだから、アームドウェア愛だよ」
「大差ねぇよ!」
「おっと、今の発言は聞き捨てならないね。アイメンドールとアームドウェアの技術体系についての講釈を二時間ほどしてあげようじゃないか!」
「よく毎日ああも賑やかにしていられるな」
ロジャー・ベック
アレン、ドミニクと共にデバッカーをしている技師。46歳、日焼けの似合うのゴリマッチョ。
アイメンドールの構造を熟知している。整備はもちろん、武器のメンテナンスから機体のチューンナップ、果てはトレーラーの運転手にオペレーターまで、あれこれこなしてくれる(お話的にも)便利なお人。
ロジャーもアレンたちと同じ基地に配属されていた元軍人だが、バグズ掃討作戦には参加しなかった。
最近はデザイアシリーズの仕様書と格闘するデスクワークな日々を送っていて、かなり参っている。
初期設定、というか作者の昔の小説ではロジャーの要素は全てアリスが受け持っていたが、晴れて単体デビューした。苦労性のおじさまキャラは尊いものである。