「そんなことを言っているから、貴方はそこで醜態を晒しているのですよ!」
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「ギスティロ様、投下位置に到着しました」
『ヒメルρ』は戦闘用メタルリザードの運搬と遠隔操作、そして特殊な迷彩機能を持ったメタルリザードで、いわば指揮官のような役割りがある。
この飛龍型メタルリザードのコクピット内で部下の報告を聞くギスティロは、苦虫を噛み潰したような顔で大野エネルギー研究所を睨みつけている。
基地に戻ったギスティロはドクトルτからの叱責を受けた。ドクトルτに崇拝にも似た感情を抱いている彼にとって、ドクトルτの不興を買うことは何よりも恐ろしいことだった。
雪辱を晴らすことを誓ったギスティロは、メタルリザードの開発を担当しているドラクス博士と協議を重ねながら急ピッチでボルケンβの修復を進め、今までしたことのなかった二日連続での襲撃に打って出た。
「リモートコントロールへの反応、正常。増設ユニットの動作確認。駆動系、多段式粒子砲、その他各部異常なし」
「よろしい。ではボルケンβ、投下!」
「投下!」
ヒメルρから離れたボルケンβは赤い光に包まれながらゆっくりと降下していく。雑木林が広がるそこは研究所から見て裏側で、市街地区画とは反対側に位置している。
昨日と同じくボルケンβが研究所近くの平野に降り立つと、ヒメルρは周囲に溶けるようにその姿を消した。
過去三回の襲撃では、ヒメルρが姿を表すとすぐに国連軍の戦闘機が出撃してきてメタルリザードを着地させる前に攻撃を仕掛けてきていたが、今回はそのような歓迎が行われる気配はない。
少し訝しみながらもギスティロはボルケンβを前進させるよう命じた。ボルケンβが一歩を踏み出したその時、研究所がある丘全体を震わせながら出撃口が開いていき、丘の中腹にゴウダイナーが姿を現した。
「国連軍が出張ってこないとは、貴方もずいぶん信用されてたようですね! 大野竜成!」
「申し訳ないが彼はお休みだ、ギスティロ」
「その声……何者ですか」
「昨日付けでゴウダイナーのパイロットを拝命した、国連軍日本支部所属、轟曹長だ。よろしく、などとは言わない。すぐにでもそこから引きずり下ろして、国際裁判所へ送ってやる」
「クク、ククク……ハーハハハハッ!」
「何がおかしい!」
嘲笑の色に染まったギスティロの声に、轟の語気が自然と強いものになる。
「いや、これは失礼。無知というものはつくづく罪なものだと思いましてね。無能な指揮官の下についてしまった貴方があまりに不憫で、つい笑ってしまいました」
「いつまでも減らず口を叩けると思うな! ダイノ、ビィーーム!」
轟の声が森に響く。しかし、ゴウダイナーは何の反応も見せない。
「おや、どうしました? どこか故障ですか?」
「くっ……ならば!」
ゴウダイナーが丘を駆け下りていき、勢いそのままにボルケンβの胴体を正面から殴りつけた。しかしボルケンβの赤褐色の装甲には傷一つ付いていない。
お返しとばかりにボルケンβが無造作に尾を振る。轟は回避しようと後方へ跳ぼうとしたが、ゴウダイナーは轟のイメージ通りに動かない。
ボルケンβの尾の直撃を受けたゴウダイナーは、木々を巻き込みながら地面に倒れこんだ。
「ゴウダイナー横転! なおもメタルリザード接近!」
「えぇい、曹長は何をしている!」
「ダイノエナジーのパワーメーター安定しません! あれではまともに操縦できません!」
「なら早く原因を突き止めろ! これ以上の醜態を晒すんじゃない!」
司令室に氷室中将の怒鳴り声が飛ぶ。オペレーターの兵士たちがキーボードを叩き続けているが、事態は一向に良くなる気配を見せない。
「ふっふっふ。轟さん、でしたか。私の口をどうするというのですか?」
「く、くそ……機体が万全ならお前などーーぐわぁ!」
倒れたままのゴウダイナーに、ボルケンβが二度三度と尾を振るう。攻撃のたびに激しい衝撃がコクピットを襲い、轟は割れたヘルメットの破片で切った額から血を流している。
「機体が万全? そんなことを言っているから、貴方はそこで醜態を晒しているのですよ!」
「ど、どういう……意味だ」
「おや、双葉博士から聞いていませんか? 貴方はゴウダイナーに……いえ、ダイノ粒子に選ばれなかったのですよ」
「お、俺は、ゴウダイナーを起動させたぞ」
ついに我慢できなくなったギスティロが、堪えきれずに大声で笑いだす。
「起動させるだけなら並の人間でも可能でしょうが、メタルリザードやゴウダイナーに必要なのはより強力で爆発的なパワーなのですよ。ですがダイノ粒子の真価とも言えるそのパワーを引き出すことが出来る人間はほんの一握り、まさに選ばれし者だけなのです!」
「それが、大野くん……なのか」
「今頃理解しても手遅れですよ。哀れですねぇ。その後悔と共に、潰れてしまいなさい!」
ボルケンβの背部装甲が展開してミサイルが次々に撃ち出される。ダイノニウム合金の装甲で覆われたゴウダイナーはミサイルにも耐えるだけの強度がある。
しかし、このまま連続して直撃を受けていれば無傷で済まないことは明らかだった。




