「お前も大人になったんじゃな」
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一同が和やかな雰囲気で会話する中、双葉博士が竜成に向かってこっちへ来るようにとこっそりと手招きする。何事かと隣にやってきた竜成に双葉博士が小声で話しかけた。
「さっき連絡があったんじゃが、ゴウダイナーが起動したそうじゃ」
「それなら氷室から直接聞いたよ。ったくあの野郎、言いたい放題言いやがって」
チッと舌打ちをするわりに竜成はそれほど深刻そうな表情をしておらず、双葉博士は竜成の顔をじっと見上げている。
「明後日にはゴウダイナーをカスカベ基地へ輸送するそうじゃ。お前はこれでいいのか?」
「全然気にしてないってわけじゃないけどさ。さっき薫に『俺がゴウダイナーに拒否されたわけじゃなくて、他にも認められた人がいたってだけだ』って言われて気が楽になったよ」
フッと笑いながら竜成が肩をすくめる。
「俺より上手く平和を守れる人がいるなら、その人を信じてもいいんじゃないかって、今はそう思ってる」
「そうか……お前も大人になったんじゃな」
「ん? どういう意味だよ」
「一人っ子ゆえか、昔は何でもかんでも自分のものだとわめいておったじゃろ」
「なっ! そんな話はいいから、博士はさっさとユウキさんのロボット直せよ!」
目元にしわを寄せて遠くを見つめるような目をする双葉博士を残し、耳まで赤くなった竜成はユウキたちの会話の中に戻っていった。
やがて本格的に補修作業が始まると、竜成と薫は明日も学校があるからと家に帰った。
竜成の『本当の』家は研究所に隣接した一軒家なのだが、身寄りのない今は双葉博士の家に住まわせてもらっており、要するに薫の家で暮らしている。
一方、ユウキは双葉博士と打ち合わせを繰り返しながら操作室と作業場を行ったり来たりし、ウィスもそれに付いて回っていた。
しかし、パルチザンのシステム的な部分や術式に関する知識はユウキよりもウィスの方が詳しく、後半になると打ち合わせは双葉博士とウィスが行うようになっていき、ユウキは二人からの指示を待ってパルチザンのコクピットの中で待機しているだけになっていった。
二日後、竜成たちが終わるとすぐに大野エネルギー研究所にやってきた。研究所の一般開放は急遽休みとなったのだが、前日よりもさらに多くの国連軍の隊員や技術スタッフ、専用車が研究所の周りに集まっている。
普段は使われていない竜成の実家の方の入り口から研究所に入った二人は、昨晩ユウキたちがいた作業場ではなくゴウダイナーの格納庫に面した司令室へと向かった。
「おぉ、これはこれは! 初戦でメタルリザードを撃退したヒーロー、『前』パイロットの大野くんじゃないか!」
扉を開けた瞬間、開口一番に氷室中将の芝居掛かった大きな声が司令室中に響いて、竜成の目つきが一瞬で鋭くなった。司令室の隅にいる双葉博士も辟易した表情で我関せずを決め込んでいる。
「愛機との別れに駆けつけたのだね。君は今までよく戦ってくれた。君の、そしてお父様、大野博士の意志は、この国連軍日本支部がしかと受け継いでいくと約束しよう」
司令室には国連軍のスタッフの他に、テレビ局から来たであろうビデオカメラを構えた人の姿もあった。
竜成に話しているものの、氷室中将の視線はチラリチラリと赤い小さな明かりが灯っているカメラの方へ向いている。
「君が大野くんか。一度会ってみたかったんだ」
軍服の若い男が竜成の前まで歩いてきて、右手を差し出した。
「ゴウダイナーのパイロットを務めることになった轟だ。これからよろしく頼む」
若いといっても二十代後半だろう。身長は竜成よりも頭一つ高く、体も大きく厚い。
もちろん氷室中将のような意味での大きいではなく、日々の鍛錬によって生まれた力強さを感じさせる。それでいて威圧感のようなものは感じさせない、朗らかな雰囲気を持っている。
「あなたがパイロットなら、俺が『これから』することなんてないッスよね?」
「ゴウダイナーの操縦に関して俺は初心者だ。君に教えてほしいことがいろいろあるんだ。よろしく頼む」
轟の言葉を聞いて、まだ少し険しい表情をしていた竜成も息を小さく吐いて肩の力を抜いた。それから自分も手を出すと、轟の右手がさらに伸びて竜成の右手をガチッと握りしめた。
「……中将の言葉なんだが、まともに受け取らないでくれ。あの人が性格悪いのは支部内でも有名なんだ。ほとんどの軍関係者が君を高く評価していたってこと、覚えておいてくれ」
さらに一歩近づいた轟が、竜成にだけ聞こえるような小声で囁く。ぽかんとしている竜成を見て、轟はニッと笑ってから手を離した。
「ゴウダイナーの移送は、基地周辺への影響を考え夜間にーー」
半ば氷室中将の会見と化していた中継を、突然の警報が遮る。モニターの前にいた国連軍の兵がメタルリザードの反応があったことを報告すると、途端にざわめきが司令室中に広がった。
「轟曹長、緊急出動だ! 今すぐゴウダイナーに搭乗し敵を迎撃せよ! 日頃の訓練の成果と我ら国連軍の正義を示せ!」
「はっ!」
背すじをぴっと伸ばし敬礼した轟は、ゴウダイナーのコクピットでもある小型飛行機に乗り込むため格納庫へと走っていった。
今までであれば自分が通っていた扉を見ながら、竜成は駆け出しそうになる思いを堪えていた。