「竜成はいつも一言余計なのよ!」
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残された竜成は歯を食いしばりながら今にも飛びかからんばかりに氷室の背中を睨みつけ、薫は竜成の制服の裾をキュッと握っている。
ユウキは黙っていたが竜成が衝動的な行動にでそうになったら止めに入れるよう警戒していたし、ウィスの表情もよく見ると目が鋭くなっていた。
やがて氷室たちが通路の向こうに消えると、竜成は細く息を吐きながら肩の力を抜いた。張り詰めていた空気が少しだけ緩み、薫とユウキが二人同時にため息をついた。
「あの人は昼間の声と同じくらい、好きじゃない」
ウィスが呟くと、三人は揃って笑い出した。
「正義の国連軍中将がギスティロと同じなんて……はっはっは、ウィスさんも言うね!」
「わたし、何かおかしなこと言った?」
「いや、大丈夫だ。みんなウィスと同じ気持ちだってことだよ」
「でも、ゴウダイナーが動いたって本当なのかな」
一通り笑い終わった後、薫がぽつりと漏らす。竜成もそのことは気になっていたようで、暗い表情で憎らしげに歯を食いしばった。
「あんなヤツにゴウダイナーを任せるなんて……」
「中将が前線に出るわけないんだから、パイロットは別の人よ」
「……たしかに」
「国連軍の中にもいい人がいるって話、シンドウさんがしてたでしょ? その人『も』乗れたってだけで、竜成がゴウダイナーに嫌われたわけじゃないんだからね」
「そうか、そうだよな。うん、なんかすっきりした。薫にしては良いこと言うじゃねぇか」
「べ、別に慰めたわけじゃないんだからね。だいたい、竜成はいつも一言余計なのよ!」
「イテテ、やめろって。それにしても、ゴウダイナーの意志か。ホント、親父も厄介なものを残してくれたぜ」
薫に腕を叩かれる竜成の表情は、どことなく先ほどよりも明るくなっている。ちょうどそのとき連絡が入り、四人は双葉博士が待つ部屋へ戻ることになった。
出てきた時には気がつかなかったが、ただエレベーターに乗っているだけではあの作業場があるフロアに行けないらしい。
通常の最下層である地下二階に着いてから薫が順番にボタンを押していくと、扉が閉まったエレベーターがさらに降り始めた。
そのことをユウキが尋ねると、竜成が「いざという時のために親父が準備した『裏の』司令室なんだ」と答えた。
ゴウダイナーの収納や本格的な作業はできないまでも、分解したゴウダイナーの一部を修理することは可能な設備が整えておいたのだそうだ。
「おぉ、やっと来たか。シンドウくん、あのロボットはどうやって動いているのかね」
「は、はい。えぇと、操者のプラーナをアームドウェアの全身に巡らせることで、操者のイメージ通りに動かすことができている、と聞いています。すみません、システム的な部分は詳しくなくて」
ユウキが部屋に入ると、待ちきれないという表情で待ち構えていた双葉博士に質問を浴びせられた。
「ちょっとおじいちゃん」と孫娘に注意されても、すっかりテンションの上がっている双葉博士は興味深そうにユウキの話に耳を傾けては、ノートに何かを書き殴っていく。
「おそらくじゃが、パルチザンを元通りに直すことは出来ん」
「やはりそうですか……」
「おじいちゃんでも無理なの?」
「うむ。あの左腕を解体したものがこれじゃ」
大画面に映されたパルチザンの映像の上に、さらにもう一枚画像が追加された。
元はダーニングの物だった焼け焦げた深緑色のシールド、黒いすすで汚れた灰色の装甲、そして長さがばらばらのワイヤー状の物質が並んで映っていた。
「ダイノニウム合金で新しい腕を作ってあげればいいんじゃないの?」
「バーカ、そんなわけないだろ」
「私、ハードのことは全然だもん」
竜成が少し呆れたように言ったので、薫は拗ねた様子で唇を尖らせた。
「そもそもの技術形態が違うんだ、ただ形だけ復元したって使い物にならないだろ。このワイヤーみたいなやつだって、なんの部品なのかも分からないんだぞ」
竜成が画像の一部を指差して画面をトントンと叩いた。ほとんどのワイヤーは長さが不揃いで黒ずんだ色をしているが、数本の長いものはぼんやりと淡く光を放っている。
「それはトランスヴァイン。操者のプラーナをアームドウェアの全身に伝達させていて、実際にアームドウェアを駆動させる働きもしている。トランスヴァインはアームドウェアの神経であり筋肉。あと、機能を失うと光を発さなくなる」
「やはりそうなんじゃな。やはり元通りにするのは不可能じゃ」
「いえ、匿ってもらえただけでありがたいです。いろいろご迷惑をおかけしてーー」
「何を言っておる。話はまだ終わっとらん」
ユウキの言葉を遮って双葉博士が新しい画像を画面に映した。まだ書いている途中のようだが、それは設計図だった。
「ゴウダイナーに使われている人工筋肉を流用した補修案じゃ。パイロットのイメージ通りに動くトランスヴァインに追従して人工筋肉が実際にロボットを駆動させるんじゃ」
設計図を指差しながら双葉博士が説明していく。
「腕一本に必要なトランスヴァインは半分以下にできる計算じゃから、材料を無事な右腕から都合すればよい。だが、まだ理論段階じゃ。完成させるため、お前さんに手伝ってもらうことがたくさんあるからの」
「本当にありがとうございます。僕に出来ることなら何でもします!」
「お礼なんていいんですよ、シンドウさん。あれはおじいちゃんが楽しくてやってる時の顔ですから」
顔を見合わせて苦笑する二人だったが、ユウキがふと気になっていたことを思い出した
「そういえばウィス、次に次元穿孔システムが起動するまでどれぐらいだ?」
「三日後」
「ふむ、それだけあればおそらく十分じゃな。どうせわしは明日もゴウダイナーには触れられんじゃろうからな」




