「この声、好きじゃない」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
今回も後書きにパルチザンの設定?を載せています。「おい、またかよ」なんて言わず、そっちも見てやってください。
四つ脚の怪獣が先ほど不時着したものと同型のヘリコプターに囲まれている。正確には『怪獣を模したロボット』なのだが、その大きさは桁違いだった。
全身を赤褐色の金属で覆われたそれは、足だけでパルチザンほどの高さがあり、胴体部分を合わせればパルチザンの倍はあるように見える。
そこからさらに長い首が伸びていてその先に頭があるのだから、全高で考えればパルチザンの三倍は優に超えているだろう。
ヘリコプターから放たれたミサイルが次々に怪獣を襲った。しかし効いている様子はなく、怪獣が歩みを止めることはない。
その長い尾はただ一振りするだけで巨大な鞭となって、ヘリコプターを打ち砕いた。背中の装甲が開くとそこから巨大なミサイルが放たれ、上空を飛ぶ戦闘機を撃ち落とした。
「止まれ!」
外部スピーカーの音量を最大にしながら飛び出したパルチザンが、マギアマグナムを構えて怪獣の前に立ちはだかる。
ユウキの勧告に従ったのかは分からないが、怪獣は突然現れた小さな人型ロボットの前で止まった。
「おや、どこのオモチャですか?」
怪獣から男の声が発せられた。癇に触る話し方なうえに、図体に比例してか声量も大きく、ユウキは思わず眉にしわを寄せた。
「国連軍がそんなものを持っているとも思えませんし、まさか研究所のロボットというわけではありませんね」
「こっちのことはいい。この先には行かせない!」
「ふんっ。ドクトルの野望を邪魔立てをするのなら踏み潰してあげましょう」
怪獣が再び動き出し、大きく足を踏み出す。ユウキ自身はそれなりの距離をとっているつもりだったが、怪獣の歩幅は予想以上に広かった。
パルチザンは危うく蹴り飛ばされそうになり、後ろに跳んで距離をとる。モニターに映った照準を怪物の胴体に合わせ、マギアマグナムを構える。
「いけっ!」
昨晩アレンとドミニクに教わって初めて銃を撃った時の感触を思い出す。引き金を引くとマグナムが火を噴き、弾丸は狙い通り怪物の胴体、首の付け根のやや下の箇所に命中した。
「ハハハハハ、そんな豆鉄砲がボルケンβに効くものですか!」
怪獣、ボルケンβは無傷だった。パルチザンは続けざまに銃弾を放ったが、首、足、胴体、どこに当たっても効いている様子はなく、赤褐色の装甲は変形すらしていない。
「くっ、装甲が厚すぎるのか」
「どうしましたどうしましたぁ? こちらとしてはアレが出てくる前に終わらせたいのです。さっさと行かせてもらいますよ!」
男の高笑いと共にボルケンβの速度が上がる。雑木林の縁まで下がったところで逃げきれなくなったパルチザンは、仕方なく二頭の間を抜けてその背後に回るしかなかった。
「このまま行かれるとマズい!」
「何がまずいの?」
「よく分からないけど、世界の危機らしい」
「終わった」
「え?」
「術式を組み終わった。光弾の使用が可能」
「了解!」
アリスに『用意ができたら使うんだよ』と言って渡されていたリモコンを取り出す。
手のひら大のリモコンに唯一ついている真っ赤なボタンを押すと、マギアマグナムの下部に付いていた実弾のマガジンが外れて地面に落ちた。
代わりに、左腰に取り付けてあったマギアクリスタルの欠片が詰まったマガジンを差し込む。
「『焼き尽くせ、灼熱の大地。我が敵を捉えよ、紅炎の矢!』」
ユウキが唱え終わるとマグナムの銃身の先に光の輪が現れる。引き金を引くと銃口から蒼く輝く光の弾が放たれ、ボルケンβの後ろ足に命中した。
「敵機の損傷は軽微」
ウィスの言う通り、光弾はボルケンβの脚部を破壊することはなかったが、当たった所には弾痕が残っていた。
しかも、まるで劣化したペンキが剥がれ落ちて金属の下地が露わになったかのように、赤褐色だった装甲は鈍い鉄色に変わっている。
「効果があるだけ、さっきまでよりもいい!」
ボルケンβの後を追いながら一発、また一発と同じ脚を狙いながら光弾を撃ち込んでいく。
六発目の光弾が命中して、左の後ろ足が四分の一ほど変色したときだった。金属を勢いよく潰したかのような大きな音がして、ボルケンβは突然その歩みを止めた。
「いったいどうしたのですか!」
「後方の脚部にエラーが出ています! これ以上進行すると、過負荷で脚部が圧壊します!」
「まさかダイノニウム合金が破られるなんて……」
少し前まで余裕たっぷりだった男の声に動揺の色が混じる。
「しかし、ボルケンβならばここからでもやりようはあります。まずは何としてもその小さいのを今すぐ破壊しなさい!」
歩みを止めたボルケンβの背中が開いていき、次々とミサイルが上空に撃ち出される。パルチザンはボルケンβに接近してミサイルをやり過ごそうとすると、ボルケンβは長い尾を振り回してそれを阻止した。
「誘導弾、六」
「えぇい!」
ユウキはパルチザンを雑木林へ逃げ込ませながら、降ってくるミサイルにマギアマグナムを向けて連射した。
ミサイルのうち幾つかは光弾に当たり、別のものは木々に直撃して爆散したが、最後の一発がパルチザンに迫る。
そしてミサイルは、ユウキがとっさに構えたシールドに命中した。爆発の衝撃で吹き飛ばされたパルチザンは、叩きつけられるような勢いで着地した。
その左腕は肘から先が無くなっており、機体のはるか後方に転がっている。
元はパルチザンよりも小型なバグズからの攻撃を想定して作られたシールドはボルケンβのミサイルに耐えきれず、丸めた紙切れのようにぐちゃぐちゃに歪んでしまっている。
「左腕大破。両脚にも異常反応。これ以上の機体ダメージは次元転移の精度に影響する」
「転移どころか、身の安全が問題だぞ」
「はぁーはっはっはっは! 小さいわりに意外としぶとかーー」
再び調子よく話し始めた男の声が急に小さくなる。機体の外からは男の声が聞こえてくるので、正確にはコクピット内のスピーカーの音量が下がっただけらしい。
「この声、好きじゃない」
「……あぁ、僕もだ」
パルチザン(ver.1.1)
アリスによって改修を施された後のパルチザン。
術が使えなくなったパルチザンに攻撃手段を用意しただけなので、機体性能は変わっていない。
武装は不要になったダーニングのブレードと、加工したマギアクリスタルの欠片を弾倉に詰め込んで光弾を撃てるようにしたマギアマグナム。左腕にダーニング用のシールドを装備している。
次元転移のタイムリミットの関係で塗装まで出来ず深緑色のままな右腕の覆いがアリスの中で心残りになっていることを、誰も知らない。




