「……人違いだけど」
いよいよ第2章スタートです。
今回は後書きにパルチザンの紹介を載せてみました。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
内臓が宙に浮き、全身の血がいつもとは逆に流れているかのような感覚に襲われる。つい一日前にも体験したおかしな感じが体を巡って、ユウキは目をぎゅっと閉じた。
しかしその感覚はほんの一瞬で消えて、後には頭痛と気持ち悪さが少しだけ残った。
「転移完了」
相変わらず淡々と喋るウィスの声を聞いてユウキがうっすらと目を開くと、コクピットのモニターには一面緑色の木々が映っていた。
「ここは……どこだ?」
「森」
「それは分かる」
「谷」
「いや、そういうことじゃなくて」
ウィスは、なら何? とでも言いたげに小首を傾げている。
「世界の話だよ。テルスじゃないのは分かるけど」
「さっきまでいた世界ではない」
「こんな景色、写真でしか見たことないな……ちょっと開けるぞ」
そう言ってユウキはコクピットを開いた。四方を坂に囲まれたそこからでは、辺りの様子はほとんど知ることが出来ない。斜面には緑の葉をつけた木々が並んでいた。
手付かずの自然というよりも手入れされた里山といった印象で、適度に空間を開けてはえている広葉樹や針葉樹が青々とした葉を茂らせている。
暖かな風がコクピットに運んできた爽やかな空気を吸い込むと、ユウキは気分の悪さが少しだけ和らいだような気がした。
「……平和だ」
「そうとも限らない」
ポツリと呟いたユウキの言葉をウィスが即座に否定する。何が、と言い返そうとしたその瞬間、キーンという音が上空を通過していった。
何事かと空を仰ぐと、編隊を組んだ三機の戦闘機が彼方を飛んでいた。
「なんだ、あれ」
「進行方向にも何かある」
ユウキはコクピットを閉じて自分でもモニターを確認するが、カメラからの映像は斜面を映すばかりで何も分からない。
センサーを切り換えてみると、丘の向こうに大きな熱源反応とそれを取り囲むように動き回る複数の小さな物体の反応があった。
スピードと軌道から考えると、先ほど飛んでいった戦闘機はこの小さな反応の方で間違いない。
「これは……戦闘中か」
「加勢するの?」
「いや、ここで様子を見る。他所の世界の事情にむやみに首を突っ込むのもまずい」
「そうなの?」
「そうなんだ。一応、光弾の術式の準備を進めておいてくれ」
「分かった」
ウィスとそんな会話をしながらユウキがモニターを見ていると、小さな反応のうちの一つの軌道が突然フラフラと蛇行し始めた。ユウキはすぐにモニターをカメラからの映像に切り換える。
「まずい、落ちるぞ」
制御を失ったヘリコプターが一機、パルチザンの方に向かって高度を落としながら向かってきている。
二つあるローターの片方から黒煙が上がっていて、やがてヘリコプターは轟音と共に雑木林の中へ不時着した。
マギアマグナムを腰のハードポイントに懸架し、ユウキはパルチザンを走らせた。木々を倒さないよう注意しながら走っても、パルチザンはものの十数秒で墜落したヘリコプターのそばに着いた。
「関わらないんじゃないの?」
「人助けは別だ!」
パルチザンがシールドを地面に置き、ヘリコプターを両手で掴む。その扉を強引に本体から剥ぎ取った。
紙くずのようにぐちゃぐちゃに曲がった扉をシールドの方へ放り投げると、ユウキはコクピットを開いた。
「何かあったら知らせてくれ」
ユウキはそう言い残して、飛び出すようにパルチザンを降りる。ヘリコプターの中に入ると、真っ黒な防弾チョッキとヘルメットを身につけた男たちがぐったりとしていた。
全員気を失っているだけで、命に別状はないらしい。ひとまず安心したユウキは男を一人ずつ担ぎ、ヘリコプターの外へ運び出していった。
「うぅ……」
「動かないでください、折れています」
最後の男は他の者よりも年齢が少し上に見えた。その右腕は曲がってはいけない方向に曲がっていて、ユウキが近くにあった枝で添え木をしようとしたのだが、彼は黙って首を横に振った。
「ここはいい。君は早く、行くんだ」
「いや、でも……」
「ふっ。聞いていたよりも、繊細そうな男だな」
痛みから途切れ途切れになりながらも、男は冗談めかしてニヤリと笑ってみせる。誰と勘違いしているのだろうか、と考えながらも、ユウキは黙って応急処置を済ませた。
「他の人たちはあなたよりも軽傷です。じきに目を覚ますはずです」
「そうか、ありがとう。メタルリザードが研究所へ乗り込むのを止められなければ、世界は危機に直面することになる。軍人として恥ずかしいが、頼んだぞ……大野、くん」
そのまま男はがっくりとうなだれた。呼吸があることを確認してから、ユウキはその場を後にしてパルチザンに戻った。
「ウィス、この近くに大規模な施設はあるか?」
「山の上にある」
「そこに向かってるのはどっちの反応だ」
「大きい方」
「これからそっちを叩く。プラーナエクステンション、戦闘レベルにセット」
パルチザンの両目に灯っている光が一瞬強くなる。シールドを拾い上げ、マギアマグナムを右手に持ち直す。
「加勢しないんじゃないの?」
「詳しくは分からないけど、その大きいやつが施設まで行くとマズいらしい。止めてくれって頼まれたんだ……人違いだけど」
森を走り抜けると、視界は一気に開けた。それと同時に戦闘の様子がモニターに映し出され、ユウキの口から「なんだあれ……」と呟きがこぼれた。
パルチザン(ver. 1)
テルスで作られたアームドウェア。型式番号は「DBSーP01」。全高は十一メートルで、ダーニングよりも頭一つ大きい。カラーリングは明るく白に近い灰色。
開発されたばかりの機体だが、「定住派を誘き寄せるための餌として使い捨てる」という計画を練っていたレオン・ガルティエらによって設計図に細工が施されたため、性能的には既存のアームドウェアにやや劣る。次元穿孔システム以外は特筆すべき点のない、最新鋭機とは名ばかりの劣化版。
パイロットのイメージをそのままアームドウェアに反映させる「プラーナエクステンション」によって、人間に近い動き挙動をとる。




