「正確にはあと十一時間四九分」
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
方「々」と言うほどいるかは謎ですが(笑)
実家の犬の体調がマズいということで急遽帰省してきた楠たすくです。
十六という年齢を考えれば致し方ないとはいえ……
人の生き死にの香りなど微塵もない第十一部、楽しんでいただけたら幸いです。
アリスがアレンとドミニクにぐちぐちと小言を言っている中、それまで黙っていたウィスがユウキの袖を少し引っ張った。
「ん? どうした?」
「パルチザンを調べて分かったことがある。あの機体は自動で次元転移するように術式が組まれている」
「止められるか?」
ウィスがふるふると首を振る。
「不可能。次元座標も自動で入力されるから、転移先も不明」
「ここじゃない世界に行くことになるんだろうが、また出たとこ勝負ってことか。システムが起動するのはいつなんだ?」
「今から十二時間後」
「十二時間!?」
「正確にはあと十一時間四九分」
ユウキの素っ頓狂な声に、アレンたちが何事かと振り返る。ユウキがウィスから聞いたことをかいつまんで伝えると、アリスはショックで愕然とした表情を浮かべた。
「こ、これからパルチザンを隅から隅まで調べ尽くそうと思っていたのに……」
「結局それか」
「仕方がない……徹夜決定だね!」
口調こそやや暗いアリスだったが、表情は妙に輝いている。その顔と今日一日で分かった彼女の性格から、ドミニクは何かを感じ取り頬を引きつらせた。
「一応聞くが、徹夜して何するつもりなんだ?」
「クリスタルが壊れてしまったパルチザンのために、武装を用意するんだよ。ほら、攻撃手段がないと困るだろ?」
アリスの言っていることはもっともなのだが、ユウキは恐縮して申し訳なさそうにしている。
「俺たちが言うのもなんだけどよ、新型を直さなくていいのか? コンペ前に慣熟訓練だって要るんだぜ」
「そうですよ。そこまでしていただくわけには……」
「修理費の見積もりとか、ラボの半壊と新型機の強奪未遂の報告とか、せめて今夜くらいは忘れたいんだよ。そう、ボクは現実逃避がしたいんだ!」
「大声で言うことか」
我関せずといった様子で黙っていたアレンが珍しく口を開く。
「これはDシリーズの更なる機能向上のためでもあるんだ。というわけで、行くよユーキくんウィスちゃん!」
「ぼ、僕もですか!?」
瞳を輝かせながらキッパリと言い切ったアリスはウィスを伴ってユウキを連行していき、アレンとドミニクは生暖かい視線を送りつつ閉口するしかなかった。
「で、俺たちはなんで呼ばれたんだ?」
アリスたちが部屋を出てから一時間ほど過ぎた頃。
シュミレーターの中にいたアレンとドミニクは、アリスから連絡を受けて格納庫へとやってきた。
「君たちにちょっとした仕事を頼みたいんだ」
「ちょっとした、ねぇ……」
それぞれ何を想像したのか、アレンとドミニクの表情に不安がよぎる。そんな顔色は全く読まず、アリスは持っていた端末に地図を映して二人に見せた。
「慣熟訓練がてら、マギアクリスタルの回収をしてきてほしいんだ」
「回収? あぁ、昼間に割れてそのままにしたやつか。慣熟訓練ってことは、あのダッサいやつで行くのかよ」
「だ〜れ〜の〜せいでああなったと思っているのかな、君は!」
不服そうな言い方をしたドミニクに、語気を強めたアリスが端末をぐりぐりと押し付ける。アレンは黙って、昨日と比べて格段に見栄えが悪くなった新型機を見上げていた。
カーマインとセルリアンには、ダーニングの腕が装着されていた。それぞれの各部装甲は鮮やかな赤と青に塗装されているのだが、それだけに深緑の両腕が変に目立っている。
回収したマギアクリスタルを入れるためにと左腕に設置された小型のコンテナが、いかにも急いで取り付けたという感じを醸し出している。
「あまり小さいと使い物にならないらしいから、回収するのは拾える大きさの欠片だけでいいよ。ウィスちゃん達が行ってしまう前に仕上げなきゃいけないんだから、急ぎで頼むよ!」
「へいへい。しっかし注文の多いクライアントだぜ」
「聞こえているぞ。ま、それは褒め言葉として受け取っておくよ」
「もう諦めろ。ーーアレン・ウルフグラム、カーマイン、出るぞ」
たらたらと文句を垂らすドミニクを伴って、アレンはラボを後にした。その不平も、新型機の高い運動性と追従性を実感した頃には大人しく作業を行なうようになっていた。
「起きて」
「……知らない天井だ」
「寝ぼけている時間はない。起きて」
まだぼんやりとしているユウキにウィスが眼鏡を渡す。
受け取った眼鏡をかけボーっと部屋を見渡すこと数秒、一気に脳が覚醒したユウキは壁にかかった時計へと目をやり、それから安堵のため息をつく。
パルチザンの改修プランを立てるのに遅くまで付き合っていたユウキとウィスだったが、出発前に少しでも休んでおいた方がいいと言われて、二人はそれぞれ充てがわれた部屋に戻って眠りについた。
すでに用意の出来ているウィスを先に行かせ、ユウキも急いで身支度を整えてラボに向かった。
「遅くなりました!」
ユウキが姿を表した時には、アレンたち全員がパルチザンの前に並んでいた。一晩で姿を変えたパルチザンを見て、ユウキは感嘆の声を上げた。