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成長期の食事模様・1




 いつものように教室でお弁当を食べ終わり、図書室で借りた本を読もうと思って気付いた。一冊借り忘れた。しかもこれから読む次の話の本を。残りは少ないから簡単に読み終えちゃうだろうし、そうなると図書室で借りた方がいいよね。読み出す前に。

 そう思いながら教室を出て、曲がり角で軽い衝撃を感じた。


「ご…めんなさい」


 またぶつかってしまったと思ったら、先日顔見知りなった統矢君。出会った時もこんな感じだったんじゃないだろうか。そう思ったらすぐに言葉が出てこなかった。


「ああ、こっちこそ悪い。大丈夫だったか?」


「大丈夫。ちょっと吃驚しただけ。なんか先日会った時もこんな感じだったかなって思ってね。


 にこっと笑えば、そうだなと統矢君の表情が和らぐ。うん。険しい表情よりもこっちの方がいいよね。年相応という感じというか、可愛いというか。中身がこれだから可愛いと思うんだろうか。それはわからないけど、中身が何歳であれ男の子に対して可愛いって思う事は多々ある。

 

「そういえばそうだったな。何処か……って図書室か。本が好きなんだな」


 途中で言葉を止め、私の進行方向を見て気付いたらしい。


「うん。読むの好き。ただちょっとドジちゃってね。飛ばして借りちゃったの」


 次に読む本を。


「そうなのか。昼は食べたのか?」


 何か純夜が龍貴が言いそうな言葉を言ってくる統矢君に思わず笑みを零しながら、私は縦に頷く。


「早いな」


「お弁当箱が小さいから。統矢君は……やけに小さくない? そのお弁当箱……」


 珍しく、ここの図書室は静かに汚さずに片付けるなら食べても良い事になっている。私が向かう先から歩いてきたって事は多分図書館で食べていたんだろうけど、時間は兎も角統矢君の持っているお弁当が入っているであろう袋は小さかった。


「他にもパンとか食べた?」


「いや、食べてないな」


「お腹いっぱいになるの?」


 成長期の男の子が。


「いや。ならないけどパンを買うのはちょっとな。金貯め途中だし」


「そうなんだ……」


 お弁当の他に昼食代を貰っているかどうかはわからないけど、お金を貯めたいから我慢するという気持ちが分からなくもないけれど、それにしても小さすぎる。


「……兄が差し入れ貰うからこのサイズでいいって言ったらこうなっただけだ。訂正も面倒だし俺はこれで十分だ」


 私の探るような視線に観念したのか、統矢君が降参とばかりに話してくれた。というか兄弟仲は悪そうだなぁって思ったけど、本当に悪いんだなと再確認。そして母親は何で兄を優先して統矢君のお弁当箱も小さくしてしまったのか。

 その辺りはよく分からないけど、不快な感じがして眉間に皺を寄せてしまう。成長期の男の子が食事を我慢するのは駄目だと思うんだよね。


「うーん……」


 目の前にいる統矢君を無視する形になったけど、私は腕を組んで考え事に没頭する。なんだろう。このもやっと感は。上手く言葉に出来ないけど、何か嫌な感じが胸の中で燻っている感じがする。

 結構年の離れている、自分の子供であってもおかしくない年齢の統矢君。お腹すいたのを我慢しながらこの後の授業を受けるってどうなんだろう。

 それは駄目。成長期の男の子はドンドン食べなさい。


「明日から作って押し付けるから、教室に来て」


「え??」


 統矢君の表情に浮かぶのはこれでもかと言わんばかりの戸惑い。


「成長期の男の子がそれじゃ駄目です。薬のお礼もあるし、私が成長期の男の子が食べたいのを我慢するって事には耐えられないから、C組までお弁当を取りに来て。統矢君が取りにこないと無駄になるからね。

 他の人にはあげないからね。

 わかったら頷こう」


 勢い任せに言い切ったら、統矢君が無意識であろう頷きをした。勢いに負けたのはわかっているけど、これは私の自己満足だからいいんだ。


「でも大変じゃないか……というか、薬の事は……」


「兄と統矢君は別です。兄の事で統矢君が責任をとる必要は全くないの。とりあえず統矢君は取りに来る。そうすれば万事解決で私も気分がいいの」


「……本音を言えばすっごい有り難いけど、結構強引だな」


「うん。強情で強引です」


 胸を張って頷いたら笑われた。何かのツボに入ったのかな。


「今日はとりあえずお菓子で応急処置するから、今からC組に行こうね」


「……本を借りに行くんじゃなかったか?」


「後回し!」


 言い切ると、身体の向きをかえて今来たばかりの道を戻っていく。図書館の本は放課後借りにいけばいいし。というかお菓子を渡すだけだから、十分時間は余るんだよね。

 後ろの統矢君からは背中越しに戸惑いが伝わってくるけど、親切の押し売りをする事にしたから気にせずにドンドン歩いていく。

 あのお弁当箱は小学生レベルだと思うし、母親は何を考えているのか。統矢君の家庭事情が全く分からないし聞く気もないんだけど、せめてご飯は満足に食べさせようよ。

 今は大切な成長期だよ。

 この時は高校生の璃音じゃなくて、アラフォーが子供にご飯を食べさせるような感覚で行動していているから、お弁当=ラブなんて図式は全く頭の中になかった。

 元々お菓子を作れば他の人に押し付けたりもしてるから、同級生の男の子にお弁当を作るって事は付き合ってるんじゃないの?

 なんて噂も全く囁かれず。

 私ではなく統矢君の心の距離が縮まった事にも全然気付かなかった。






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