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体育祭準備編・3



 こうやってみると、海藤君は身長が高い。肩に手を回せない変わりに、お互いの腰に手を回す。二人三脚って同じぐらいの身長の方が良いんじゃないかなぁ。

 歩幅も違うし。けれど高校三年生の男の子に言うのは可哀想だから黙っておく。私は女子にしては高いけど、男の子が165cmしかないなら低いに分類されてしまうだろう。



「海藤君がこういう種目に出るのって珍しいね」


 100mを何回か走った後の休憩時間に、疑問に思っていた事を聞いてみた。今までの海藤君は、個人種目にしか出た事がない。だから聞いてみたんだけど、海藤君はぐるっと視線を一周させた後、表情全体で人懐っこい笑みを浮かべる。

 私の作ったレモンの蜂蜜漬け食べながら、それを咀嚼し終えた後に口を開く。


「体育祭は今年までだし、清宮は外部受験だし。思い出作りって事で協力頼む!」

 

 ぺこり、と頭を下げる海藤君。いやいや。頭は下げなくて良いから。今までさぼり気味だったから、今年は頑張るかな、とか思った所だったから、頭は下げなくてもいい。そう思って海藤君にお願いをして、下げた頭を上げてもらう。


「本当にそういうのは良いから。成宮学園で過ごすのは今年で最後だから、私も丁度いいかなって思ったんだ。さぼり気味だったし。私の方こそ思い出作りになると思うよ」


「そうか。そう言ってもらえると助かる! というか嬉しい!」


 にかっと笑う海藤君。気味は相変わらずわんこ属性だね。中学の頃から変わっていない笑顔を前にして、安堵していいのか心配すればいいのか、お姉さんは分からないよ。

 龍貴もこうやって無邪気な笑みを浮かべるけど、時々黒い事を知っているから、年下の龍貴よりも海藤君の方が心配になる。将来、変な壷なんて買わされないよね……?

 そんな心配をされているとも知らずに、海藤君は笑みを絶やさない。本当に出会った頃から変わらないね。


「じゃあ、練習再開するか」


「うん。そうだね」


 時間はもうじき18時だ。これで練習を少しして、今日はまっすぐに家に帰ってご飯を作って、その後はのんびりとお風呂に入りたい。

 たっぷりのお湯の中に、何の入浴剤を入れようか。ちょっと豪華な感じがする薔薇の入浴剤を入れようかな。それを考えただけでちょっと心が弾んでしまう。

 お風呂に入る時のちょっとした楽しみ。そろそろ終わりそうなものもあるから、ドラックストアに入浴剤を買いに行こう。それすら気分転換になりそうだし。

 そんな事を考えながらも、視線はまっすぐに前を見つめた。これからまだ走るのだ。その後の楽しみはこれが終わってからだ。中途半端に考え事をして、転んだなんていったら洒落にもならない。

 声を合わせて足を出すタイミングを合わせる。練習を重ねる度に時間は縮んでいって、随分と早くはなったと思うんだけど、海藤君は更にその上を目指している。

 1秒でも時間を縮めようと、練習に余念がない。

 それに引っ張られるように、私も練習に打ち込む。やっぱりこうやって身体を動かすのは気持ちが良い。疲れるけど。

 でも、これは図微分と呼吸が合ってきたんじゃないだろうか。間違いなく練習の成果だ。


 100mを5回走った所で、今日の練習は終わった。

 トータル15回。5回ごとに休憩を挟んでいるから、疲労感はまだマシなのかもしれない。でも、結構へとへとです。今日は毎月楽しみにしている本の発売日で帰りに寄ろうと思っていたけど、その気力は既にない。寧ろ精神力に余裕がないわけじゃないけど、体力的にはマイナスだ。寄れる体力がない。

 ご飯はしっかり食べないといけないから、下準備をした材料たちが大いに役にたってくれるだろう。

 これだけ疲れて食欲が落ちたりなんかしたら、風邪をひいてしまいそうだ。

 純夜も練習で疲れているだろうし、しっかりと食べてもらわないと。ただ、お腹がすくと思ってがっつり食べれるようなお肉メインの下準備はしているけど、これだとあっさり食べれるものも作った方が良いと考えを改める。

 しかし、と私は海藤君の方を見た。

 海藤君の体力は半端じゃないね。部活には入っていないはずなのに、どれだけ鍛えているんだろう。私も剣道はおじいちゃんから習っていて、体力的にはそれなりにあると自信はあったけど、ここ数日間でボロボロに崩れ去った気がする。

 道場に行く時間をもっと増やそう。ここ最近行ってないし。

 グラウンドで海藤君と別れ、私はジャージ姿のまま帰路に着く。勿論考えている事は自身を鍛える事だ。

 おじいちゃんに再度鍛えてもらわないと。久しぶりに顔も見たいし。おじいちゃんの好きな和菓子を作って持っていこうかな。金曜日にお菓子を作って、土曜日に行こう。突然行って驚かすのも好きだけど、今回はおじいちゃんに相手にしてもらいたいし、携帯片手に電話をかける。

 電話の相手はおばあちゃんだったけど、問題は全くない。いざという時は、道場だけ貸してもらえばいいし。その後の雑巾がけも身体を鍛えるのには良い。

 さて、土曜日の予定はこれで大丈夫だけど、とりあえず今日は夕食作りだ。動きすぎてお腹がすいたというより、あっさり食べたい気分。両親は関係ないから、下準備のお肉を出すとして……純夜はどうなんだろう。

 そうだ。野菜たっぷりのスープを作ろうかな。お肉も勿論食べるけど、食べやすいように

小さめにカットしたお肉を焼いて、キャベツとかコーンとかを添えればいいか。



 お皿にお肉を盛り付けた後、きゃべつやコーンを彩りよく皿に盛り付けるんだけど、別にサラダはちゃんと作っておく。

 なんだろう。野菜を食べたい気分。

 玉葱とアスパラとミニトマトのサラダに梅ドレッシングを用意する。これは好みがあるから各々でかけてね、と言った所だ。

 手早くテーブルに置いていくと、リビングから少しだけ顔を出して、3人に聞こえるように下から呼んだ。ご飯だよ、と。

 初めの頃は聞こえるのかな?と疑問しかなかったんだけど、純夜が言うには私の声はよく通るらしい。

 私の声に反応し、3人がほぼ同時に下に下りてきた。

 純夜は私と同じで、体育祭の準備で疲れたような表情をしているのは分かるけど、何故か両親までげっそりとした表情を浮かべている。どちらかというとやつれたような。朝のあの元気さはなんだったんだろうか。

 疑問に思うものの、どうせ仕事で何かがあったんだろうとあたりをつけて、私は席につく。テーブルの上にはドレッシング類の他に、沸かしたウーロン茶をいれたハンドルピッチャーを机の上に置く。

 お肉料理の時は、必ずと言って良い程ウーロン茶を沸かして、冷蔵庫で冷やしておく。これは前世からの習慣かもしれない。

 全員が揃った所で、手を合わせていただきますというと、それぞれが動き出した。けれどサラダのドレッシングは皆梅にするらしい。

 私も梅ドレッシングで食べるけど、皆そんなにさっぱりしたいんだろうか。

 両親はこれからも続く修羅場に備えて食べているように見えたけど、純夜もそんな感じに見えた。私も同じようなものだろうけど。

 小さめにカットして食べやすかったのと、キャベツを添えていたからなのか、お肉は案外あっさりと食べ終わった。そして焼いただけなんだけど、コーンは美味しい。ほんのりとした甘さがいいよね。

 そして気がつけば、別で作ったサラダは空になり、皆が満足そうにごちそうさま、と言いながら食器を流しへと持っていく。ウーロン茶も売れたけど、他のも満足したようだった。梅ドレッシングが終わって良かった。その都度作るから、出来れば使い切りたいのが本音だったりもする。

 しかし、疲れ果てて食欲が落ちても不思議じゃない3人に見えたけど、そんなにお腹がすいていたんだね。下準備をしっかりとしておいて良かった。


「姉さん、ごちそうさま。今日も美味しかった」


 純夜が食器を運びながら言ってくれる。


「そっか。美味しいなら良かった」


 うんうん。美味しいって言ってもらえるなら、それだけで作った価値があるっていうか。照れくさいけどね。

 明日もちゃんと力になるものを作るからね。


 さて、この後は一休みのためのミルクティでも淹れようかな。ほんのりと身体に染みる甘み。美味しいよね。ミルクティ。





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