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体育祭準備編・2




「ただいま~」


 既にへとへとな感じの声を絞り出し、私は両肩に下げていた買い物袋を下へと下ろす。1時間の練習後にこの買い物の量は無謀だったかもしれないと思いつつも、無事に家にたどり着けたから良しとしておこう。

 袋の中には、半月分程の食料が入っている。これらを全て下準備して冷凍しておく。私が凝っている為か、我が家にはメイン冷蔵庫と大きめの冷凍庫がある。

 今ある冷蔵庫も十分大きいのだが、それだけだと足りずに冷凍庫を買ってもらったのだ。冷凍庫のメインはお菓子。お菓子の生地を入れていたり、パンの生地を冷凍させたりと、十分過ぎる程活躍してくれる冷凍庫だ。

 私は棚を開けて、同じ大きさのタッパを幾つか取り出す。今から大量に作るのは、約半月分の料理だ。ボウルに調味料を入れ、下味用のタレを大量に作る。それをビニール袋に少しずつ入れ、お肉をその中へと放り込む。タレにつけた肉は、色々な料理にアレンジ出来るから問題ない。それを作りながら玉葱を刻み、袋に入れて冷凍庫へと放り込む。玉葱は凍らせておいた方が、あめ色になるまでの炒める時間が短縮出来る。

 他には里芋の皮むき。これも冷凍庫いきだ。里芋は冷凍食品のものを買っても良かったんだけど、偶々安売りされたさといもがあったから、大量に買ってしまったのだ。冷凍の方が味が染み込むのが早い。

 里芋のにっころがし用のものや、トン汁用の里芋を袋に入れて冷凍庫へと入れる。トン汁用の里芋は、5mm程度の大きさに切ってから袋へと入れた。ついでにじゃがいもや人参。トン汁に必要なものもその袋へと入れておけば完璧だ。

 元々下準備しているものもあるから、とりあえず買ってきたもの全てを合わせれば、半月分程の食事の下準備が完成する。

 暫くお菓子作りはやめておこう。具材で一杯になってしまった冷凍庫に、これ以上何かを入れるのは厳しいものがある。まぁ……お菓子を作る余裕はなさそうだけど。

 せいぜい冷凍してあるクッキー生地を包丁で切って、焼くぐらいの余裕しかないと思う。

 ちらりと横目で時間を確認すると、帰ってきてから1時間。これだけの準備をして1時間で済んだのなら十分早い。ちなみに、野菜を切る時にに今日の夕食分の材料を切って、既に煮込んである。

 今日のメニューはシチューとシーザーサラダ。明日のお弁当になるようなおかずはないから、お弁当に入れるものは明日の朝作らないといけない。

 こういう時にすごく助かるミニトマトは買ってある。後は出汁巻き卵。他はどうしようかな。そういえば、ミニハンバーググラタンを作って冷凍してある。それをレンジで温めて入れておけば、十分なおかずになるような。けれど食べ盛りの男の子2人。彩を気にするよりも、お肉系の料理を作って入れた方が嬉しいような気がする。

 でも身体の事を考えれば、野菜も入れたい。そうだ。明日はアスパラやえのきを肉で巻いたものを入れよう。

 それでおかずは十分だろう。あまりメニューが被っても嫌だしね。この辺りは悩み所なんだよなぁ。


「ただいま。姉さん」


 明日のお弁当のメニューを決めていた時に、リビングに顔を出す純夜。


「おかえり。純君」


 今日はいつもよりも遅い帰宅の純夜。それが表情に出ていたのか、疲れたとばかりにソファに身体を沈め、背もたれに寄りかかる。わかりやすい態度で答えてくれた。


「体育祭の練習?」


 濡らしたタオルをレンジで軽く温めてから、純夜に手渡す。


「うん。気持ち良い……」


 蒸しタオルを両目の上にのせて寛ぐ純夜。相当疲れたらしい。いつもよりほんの少しだけ甘くしたミルクもレンジで温め、テーブルの上に置く。普段はコーヒー好きな純夜だけど、こうして疲れた時はいつもより甘くしたホットミルクを飲みたがる。

 ちなみに私はココアを入れて、ソファに腰をおろした。ここまで疲れている純夜は珍しいんだけど、どうしたんだろう。


「姉さんの種目は決まった?」


 ソファに沈めていた身体を起こし、礼を言った後にミルクに口をつける。表情が柔らかくなった。今の純夜に丁度良い甘さのミルクを飲んで、一息つけたとばかりに身体から力を抜いたように見えた。

 純夜の事よりも、先に私の話を聞くらしい。特に問題があるわけじゃなかったから、それにはすんなりと答えた。


「100m走と玉入れと二人三脚……と、仮装リレー」


 最後に言った仮装リレーは抵抗がある所為か、少し声が沈んでしまう。開き直った気でいたけど、最後の仮装リレーだけは回避出来るなら回避したい。今更だけど。無理だって事は重々承知している。

 私の溜め息に、純夜は目を閉じ、私と同じように溜め息を吐き出す。その様子に、私は引っかかるものを覚えて聞いてみる。


「……ひょっとして、純君も?」


 その溜め息は、私と通じるものがあるような気がする。


「うん……俺と、龍もなんだ……」


 この仮装リレーは男の子が4人出ていてもいいし、女の子4人でも全く問題はない。ただ、1走目には、変なクジを引いても恨まれない人が選ばれる。2走目は体力のある人。大体は男の子が選ばれる。

 昨年はかぐや姫の着物を着た男の子が、自棄になって、何故か写真撮影会が行われていたね。男の子だったけど、顔が可愛かったのだけは覚えてる。このリレーの怖い所は、やっぱり衣装が全くわからない所だろう。

 女の子が男装する分にはいいけど、その逆は大半が可哀想な事になる場合が多い。清々しいほど似合わないなら笑い話にしてしまうけど、逆に似合ってしまった子は、何故か同性からラブレターを貰ったとか。

 ……線の細い純夜は似合いそうだよね。着物とか。


「……龍は、クジをひく係りなんだ」


「そうなんだ」


 確かに、龍貴の人柄なら恨まれない気がする。


「純君は?」


「4走目。姉さんは?」


「私も同じ」


 衣装の順番は決められているから、これがいいとか選べないんだよね。


「でも、今年は出場するのが多いね」


 純夜の意外そうな言葉。そうだね。今までは最低2つの種目に出ていただけだった。最高は5種目まで。最低2種目だけ出ていた私が4種目に出る。これまでの事を考えれば倍になったのだ。十分多い。私は両手の指先を絡め、溜め息を落とす。


「二人三脚は海藤君にパートナーに選ばれちゃったんだ。仮装リレーは、今年が最後だから……だって」


「そうだね。姉さんは外部受験するしね」


 流石純夜。あれだけの説明で解ってくれた。


「うん。それと二人三脚の練習で、いつもより帰るのが遅くなるかも」


「そっか」


「うん」


 私もだけど、純夜も口数がいつもより少ない。解るよ。その気持ち。

 何か今日は、本当に疲れたよね……。





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