近すぎる距離感・3
「これ」
放課後の廊下を歩いていた最中、曲がり角を曲がったら突然何かを押し付けられた。図書館に行こうと思っていたんだけど、目の前には男の人。
「?」
これ、と言われても、と袋に視線を落とせば、絆創膏やら消毒液とかそんなものが入っていた。
「あの…」
それらを渡される意味が分からずに尋ねようとしたけど、その顔を見た瞬間首を傾げてしまう。
目の前に立っていたのは、今朝会ったばかりの人物に程よく似てる人。
「今朝会った人の身内の方ですか?」
髪の分け目も違うし、雰囲気も全くの別物。だからそう言ってみたんだけどね。
「よくわかったな」
意外そうな表情を浮かべられた。そうは言うけどわかりやすいよ。今朝のイベントの水守君は左目を前髪で隠していたけど、目の前の男の人は右目を隠している。それと、目つきが悪い気がする。
「見ればわかりますけど……何でこれを?」
「兄が怪我をさせたからだ。あんなのを兄だなんて認めていないけどな」
「……」
どうやら、兄弟仲は良くはないらしいです。
――…というか、初めて見るんだけど、この人も純夜の相手なのかな。
これもイベントっぽいし、多分間違いないよね。
Lienは途中までしかやっていないから、私の知らない隠しキャラとかもいるんだろうなぁ。隠しキャラは水守兄の所までしかやってないし。
「ありがとう。私は清宮璃音。貴方は?」
「…俺は……水守統矢。3-Bにいる」
ふむふむ。水守桐矢君の弟というわけだね。兄の方は常に笑っていたけど、それとは対照的に眉間に皺を寄せている統矢君。
「水守統矢君ね。こんなに沢山ありがとう」
袋の中をよく見てみると、冷えぴたとかガーゼ、包帯、痛み止め。学生が購入するにはきついんじゃないかっていうぐらい、沢山入ってる。
「実家が薬局だから気にするな」
内心考えていた事を見事に言い当てられ、つい苦笑を浮かべてしまう。
「うん。正解。実はすっごく気にしてた」
だって、かすり傷だし。病院に行くまでもない程度の怪我。
それを言ったら、思いっきり溜息をつかれた。
「女が傷をつくったのに、大丈夫、とか言うな」
「ただの事故だよ。気にしないで」
イベントという名の事故だったし。
予め覚悟していたから気にならない。
「…変わってるな」
「そう?」
痕も残さず治りそうだから、気にならないんだよね。
けど、この人はどうやって純夜に関わってくるんだろう。まぁ、兄が関わっているんだから、何処かで絡むんだろうな。
その程度の認識で対応してたんだけど、何故か会話が終わらない。
早く図書館に行かないと迎えが来ると……ってこれか!
純夜が迎えに来て、知り合うってパターンだね。
ヤバイヤバイ。すっかり勘違いしてたよ。
「璃音」
それから5分ぐらい話していたら、予想通り純夜が登場。
璃音って呼んでるから、ちょっと感情的になってるのかもしれない。私と統矢君の間に身体を入れ、私の姿を隠すように立ち、睨みつける。
「アンタ今朝の…」
「の、弟さんだよ。お薬貰ったの」
勘違いした純夜に訂正を入れておく。分け目が違うのが最大の特徴だけど、顔は双子だけあって似てるから、純夜が間違えるのも仕方ない。
「そうなんだ。姉がお世話になりました。
2-Aの清宮純夜です。薬はありがとうございました。さ、行こう」
おぉう? やけに冷え冷えとした対応の純夜。
こんな時にツンデレを発揮するんだね。
「早くしないと図書館がしまるよ。借りたい本があるんでしょ?」
「うん。今日入荷で予約してるの。水守君ありがとね! 来週の月曜日甘いもの好きならC組に来てね。お礼にお菓子を渡したいから」
「行くよ。璃音」
「はーい」
頬を膨らませている純夜に連れられ、水守君の前から小走りで遠ざかっていく。少し歩くと曲がり角だから、直ぐに姿は見えなくなったけどね。
「清宮。俺の事は統矢って呼べ」
姿は見えないけど、統矢君の声が響く。
「わかったー」
私を間に挟むイベントはかなり多い。
よくダシに使われているんだよね。純夜に好感度を教えられる璃音らしいけど。私を優先しているように見せかけ、純夜にヤキモチを焼かせて楽しんでいるというか。
ツンデレが多いっていうか…サド気質の人が多すぎなのかな。言葉に迷うけど、純夜が純粋で天然だから、反応が可愛らしいんだろうね。
「璃音はお人好し過ぎるよ」
「そう? 純君の方がそうだと思うけどな」
「……俺は違うよ」
「そうなの? でも自慢の弟だもん」
頬を赤く染めてる可愛い純夜。
お姉さんの自慢の弟です。