体育祭準備編・1
新生徒会が発足してから初の行事だったりする。
毎年の事だからもう慣れたけど、誰がどの種目に出るのかは毎年、それなりに時間がかかる。
長距離は面倒だから出たくないんだよね。毎年100m走とか玉入れぐらいにしか出ていないんだよね。
委員長の竹本君と副委員長の木村さん。2人は1年の頃からずっと委員長と副委員長をやってくれている、ある意味救世主だったりする。
そんな救世主が困る種目。二人三脚。男女のペアで挑む競技なので、これには苦戦する。照れくさいとか。もしくは好きな子と組みたいとか。
思春期の時代に何故これを取り入れるのか。根本的な事を考えながら様子を伺う。100m走は既に出場権を獲得しているから、後は玉入れだけ。玉入れは人気の種目だから、大体はじゃんけんで決める。二人三脚が決まらないから、先に他の種目を決めるらしい。
私はそのじゃんけんでも無事勝ち残り、玉入れ出場権も無事得る事が出来た。
人気のある種目は埋まり、後は人気のないものだけ。
二人三脚なんかは、気になっている同士を組ませるとカップルになりやすい。何て事を誰かが言い出してから、更に人気がなくなったような気がする。そういう目で見られるのが嫌なんだろう。思春期は難しいお年頃なのだ。
でも、共有の時間が出来たら嬉しいと、内心では思っていたりするから、難しさが倍増する。
この辺りは何故か、竹本君と木村さんが裏事情を知っていて、さり気なくペアにしたりするんだけど、その情報ソースは何処からだろう。毎年見ているが、毎年不思議に思っていたりする。
2人ともこのクラスの事は手玉にとれる程慣れたのか、他のクラスだったら1時間じゃ足りない所を、1時間以内で決めてしまう。
今年の、というか、今年も見所は仮装リレーだろうか。第一走者はただ走り、箱から紙を引き第二走者へと渡す。つまり、第一走者はただ走ってクジを引けばいいだけなのだが、ひいたお題によっては、後々ネチネチと言われる可能性がつきまとう。
第二走者は紙に書かれた番号の縦長の着替えられるボックスに入り、仮装をしつつ第三走者に衣装を渡す。
第三走者と第四走者の衣装を持って走らなければならないので、第二走者は大体男の子がやる。リレーのメンバーは4人。
着ぐるみはそのまま着れるからいいのだが、慣れてもいない全身着ぐるみで400mを走りつつ、残り2人分の衣装を運ばなくてはならない過酷な第二走者。
第三走者も第四走者分の衣装を運ぶが、1人分減っただけで随分マシになる。第四走者はただ着替えて走るだけ。各クラスで顔のいい人気のある人が選ばれる。最後の走者は完全にコスプレだ。今年は誰が選ばれるんだろうかと見ていたら、竹本君が何故か私に視線を送ってくる。それに、私はあえて気付かないフリをした。今年も100m走と玉入れに出るから良いじゃないか。
中学のときからずっとそれだけにしか出ていないが、何故成宮学園最後の年に熱い視線を送ってくるのか。
「(最後だからなのかな)」
情報通の竹本君。表立って公言した事はないけど、私が外部受験をするという事を知っているのかもしれない。最後だからといって、あんなに目立つ種目に誘わないで欲しい。
ただでさえ体育祭は写真部が写真を撮りまくり、誰でも買えてしまうのだ。見てる分にはいいけど、自分が出場するとなると話は別だ。
協調性がないと思ってくれても良いからと思っていたら、最終的に多数決になった。理不尽なことに、仮装リレーと二人三脚に出る事になった。何で二人三脚まで……。
私を巻き込んでくれた海藤君の背中を、人差し指で突く。けれど中々振り向かない。運動神経の良い海藤君は、出場上限数まで出るのは毎年の事だ。
頑張れー、と毎年エールだけは送っていたけれど、ただそれだけの事だったはず。それなのに、海藤君は二人三脚に立候補した。ここまではいい。けれどその直後、こう言ったのだ。
「清宮と二人三脚やるんで賛成の人は挙手してくれ」
皆は他人事なので、遠慮なく手を上げる。それによって、私の二人三脚出場が決定した。
一瞬何が起こったのか理解出来ず、首を少しだけ傾けた後、
「はい……?」
と、意味もわからず言葉をただ吐き出した。
出場するつもりなんて全くなかっただけに、状況を把握するのに数秒の時間を要したのだ。
そんな私の言葉は間抜けなものだった。
唖然とした私を余所に、海藤君が私を選んだ理由を述べている。既に挙手してもらって決まっているというのに。
「清宮の足は速いし、毎年落としてる種目だから今年は勝っておこう!」
いや。だからね。海藤君。
君は何を言っているんだと口を開こうとした私より先に、くるりと私の方を向き。
「協力してくれるよな! ありがとう!!」
──……と、会話を成立させる事なく、私の出場が決まってしまった。竹本君と木村さんが黒板に書く私の名前。
納得していない人は私以外にもいたけど、多数決という恐ろしくも理不尽な方法で決まり、1時間で全てを終わらせた。
「そんなに怒るなって。1度清宮とやってみたかったんだ。何処まで早く走れるかって」
チャイムが鳴ってお開きになった所で、海藤君が後ろを振り向きながら言う。
「それでさ、今日から練習したいんだけど、清宮は大丈夫か?」
かなり強引に決め、しかも練習は今日から。どれだけ今年の体育祭にかけているんだろう。
「……1時間ぐらいなら」
夕食の下準備はしてあるから、1時間ぐらいなら大丈夫。思わず文句を言いそうになってしまったけど、それを懸命に飲み込んだ。
決まってしまった後で文句を言うのは、好きじゃない。だから言葉を飲み込む。海藤君に言葉を返しながら、私は家族に何て言おうかな。
とりあえず事情を話して、体育祭が終わるまでは家族に協力してもらうしかないだろうけど。
あぁ。でも純夜は上限の5種目出そうだよね。運動神経抜群の純夜を出場させないわけがない。それを考えると、純夜にも余り頼れないなぁ。両親が台所に立つという恐ろしい光景を想像してしまい、ぶるりと身体が揺れた。勿論寒気を感じてだ。
体育祭までの1ヶ月。凝ったものは作れない。それで許してもらおう。
両親が台所に立つよりはマシだと思う。この辺りも腹をくくって、スケジュール帳に予定を書き込む。
ほぼ1ヵ月。それらが体育祭関係で埋まっていく。特に6月は予定は余り入っていなかったが、19日は私の誕生日だ。面白いことに純夜が20日。龍貴が21日と誕生日が繋がっている。
いつも20日に3人分祝うのが恒例になっていて、毎年ケーキは私の手作りだ。今年は美味しかったお店でケーキを注文しよう。ついでに他の料理も。
ある意味豪華な気がする。スポンサーは両親に頼めば快く引き受けてくれるだろう。と思う。
他のクラスも練習はするだろうから、校庭の隅でも確保すればいいか。どうせやるなら勝ちたいし。負けず嫌いな所が奥からむくむくと沸き起こってくる。やると覚悟を決めたら、気分がすっかりとそっちに切り替わったらしい。
生まれ変わってからはそういう感情はなりを潜めていたんだけど、どうやら消えていたわけではないらしい。
「無理やり誘ったけど、頑張ろうな!」
爽やかに右手を差し出す海藤君。
「そうだね。頑張ろっか」
気持ちの入り方は海藤君の方が比べ物にならないぐらいに上だけど、私は控えめに右手を出して握手に応えた。




