生徒会選挙・3
予想通り、生徒会役員はあっさりと決まった。対抗勢力が出るわけではなく、中等部の頃も生徒会を運営していた面々が当選した。
予定通りという感じで壇上に立つ面々。慣れきっているのか、壇上で挨拶をする様は緊張した素振りさえ見られない。
しかし地味というか……瀬川君がいなくなった新生徒会は、いかにも真面目そうな人物たちだ。頑張れ、と応援するには慣れすぎていて、応援は必要ないという印象を受ける。
まぁ、3年生である私にはあまり関係ないから、やはりというか興味が持てない。純夜や龍貴が特に問題ないって言ってたから、別に良いんだろうと思う。
けれどこれが終わると、受験だなぁ、という気がする。大学部には行かずに外部受験する面々は、新生徒会よりも自分達の受験の事でいっぱいになるのだろう。
受験だからといっても、勉強一色に……はならないような。詰め込みすぎてパンクしても仕方ないし、高等部に上がった頃から受験に備えては毎日勉強しているから、今までのスタンスを変える必要がないというのが本音だ。
折角だから一番上を目指すけど、特に何かをやりたいという目標を持ってそこを目指すわけじゃない。大学で一番上を目指すという挑戦をしてみたいだけなような気もする。将来何をやりたいか。前世では流されて生きてきたから、今回はちゃんと考えたい。
模試の結果は悪くないものだったから、先生からの心配の声もないのは有り難い。3年のこの時期に、難しい表情を浮かべられたらショックだ。
旧生徒会の会長も私と同じ大学を目指すとか。成宮学園で会長職を務める人は、必ずと言って良い程、関東で一番偏差値の高い学校を選ぶとか。会長職のジンクスというか、今まで落ちた事はないらしい。
100%は凄いと思うけど、日々の積み重ねと、これからの勉強で合格する確率を上げているんだと思うけど。
しかし、新生徒会が発足されたという事は、これからは2年生が中心になって行動する。3年生は色々な意味で解放されるという事だ。
私も、これからの行事は見学側にまわれるから、楽といえば楽なんだよね。考え事をしていたら、挨拶は全て済んだらしい、これで教室に戻れる。
一応椅子に腰掛けているけど、身動きが出来ないから体が凝る感じがするんだよね。腕を真上に上げて背伸びをしたいけど、周りには人が溢れているから止めておく。
人の波に逆らわないように歩いて教室へと戻る。今日の行事は終わったから、後は普通の授業を受けて帰るだけ。
外部受験生ように、放課後に補習授業をしてくれるみたいだけど、私は不参加だ。
このペースで進んでいくと、補習を受けるよりも、自宅で買った問題集をやっていた方がいい。それでも不安になるようだったら参加しよう。
参加はいつでも受け付けているみたいだし。
次の授業の教科書を取り出し、机の上に置く。そういえば海藤君ってどうだったっけ。Lienのエンディングで、純夜に選ばれなかったほかのキャラのその後も、エンディングの時に流れていたんだけど、確かこのまま大学部に進むはず。
気になったので、前に座る海藤君の背中を軽く叩いた。
「どうした?」
それにくるりと向きを変えてくれる海藤君。
「海藤君ってさ、このまま大学部に行くの?」
ちょっと気になったので聞いてみれば、海藤君は迷わずに頷いた。
「あぁ。このまま行くつもりだ。清宮は?」
「私は外部受験だよ」
聞き返してきた海藤君に、私は当たり前のようにあっさりと答えた。ゲームの世界だったら、璃音は迷わずに大学部に進んでいた。
外部受験をすると私が言った後、海藤君の表情が残念そうなものへと変わる。少しガッカリしたようにも見えた。
「そうなのか……清宮は頑張ってるもんな」
「うん。頑張らないと受からないし」
何といっても、関東では一番偏差値の高い大学を受ける。頑張らずに合格出来る頭脳は持っていないのだ。
「清宮はこのまま大学部に行くと思ってたよ」
そんな私に、海藤君は言葉を続けた。
「幼等部の頃からここに通ってるし、それに成宮の偏差値は低くないしな」
「そうなんだけどね。でも折角だから一番良い大学を目指そうかと思って」
話している間にドンドンと固まってきた私の将来。大学に通う4年間で何をやりたいかを考えよう。昔の自分とは違い、今は選択肢が多い。
私の決意を感じ取ったのか、海藤君は困ったように笑い、私の机に右肘をつけ、手の平で顎を支える。
「清宮らしいな。そうやって言い切る所は」
「そうかな?」
そんなに言い切っている会話が多かったっけ? 疑問の表情を隠さずに表に出すと、海藤君は笑う。やっぱり、何処か困ったように。
「頑張れ。応援してる」
「うん。ありがと」
海藤君の表情の意味は、結局分からなかった。けれど追求はしないでおく。何かデリケートな問題のような気がしたからだ。年頃の男の子の悩み事を聞いて、解決出来る自信は全くない。
私がそこで話を終わらせられたわけじゃなく、丁度先生が教室に入ってきたから、そこで話が終わってくれた。
内心胸を撫で下ろしながら、気付かれないように先生に顔を向ける。しかし、思春期の悩みといえば恋愛だろうか。海藤君と純夜は既に顔見知りだ。勿論私を通してだけど。
けれど学年が違うから、純夜とは中々会えないんだろうなぁ……。
こればかりは私じゃどうしようもないから、やはり口は閉じておく。純夜は今の所、誰が好きなんだろうか。選り取り見取りで選びたい放題だとは思うんだけどね。




