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生徒会選挙・田端大和視点・1




 清宮璃音。

 女子には秘密裏に、男の間だけで行われる美人ランキングの投票で、必ずと言っていい程上位に入る存在だ。

 腰まである艶やかな絹のような黒い髪を上の方で縛り、一まとめにしている。動く度にサラリサラリと揺れる髪に触れたいと思った男は、かなりの人数になるだろう。

 翳る程の長い睫毛は自前のものに加え、くっきりと二重。化粧はしていないはずなのに、ピンク色の唇がいつもぷるんとしていて色っぽい。

 化粧をしても美人だろうが、化粧をしなくても十分過ぎる程美人だ。それなのに運動神経は抜群。頭脳は明晰。テスト結果が貼り出されたらそれも上位。当然出来すぎた清宮璃音を妬む存在はいるが、それ以上に味方が多い。

 姉が美人なら弟も美人で、完璧姉弟なんて呼ばれている。けれど、特に興味があったわけじゃない。

 可愛いと言われているし、俺も可愛いとは思っているけど、それでも他の男と違って付き合いたいとは思っていなかった。

 高嶺の花というやつだろうか。

 好きになっても面倒な──主に周りが──相手だっただけに、始めから除外していた気がする。他の奴等と奪い合うなんて面倒過ぎる。他にも可愛い子は沢山いるし、その子達だけで俺は十分だ。適当に遊ぶのに困る事はないし。

 それでも気になるのは、顔が好みだからだろうと適当に理由をつけて、観察していた。ただそれだけだったのに、目が離せない事件が発生した。背中を押され、倒れる身体。明らかに擦りむいた両手。アレは痛いだろうなと他人事のように見ていたけど、清宮璃音は犯人には何も言わず、自分で転んだ事にしている姿を見て、どうしてこんなに気になるかがわかった気がする。


 自己犠牲を簡単にやってしまうタイプ。


 俺の嫌いなタイプだ。こちらの心配を他所に突き進んでいく。心配をかけたくないはずの行動が、結果だけ見れば結局心配を掛けている。

 だから、こんなに目が離せなかった。

 理由が分かってスッキリすると、俺は清宮を見なくなった。理由さえわかってしまえば、見る必要なんてない。 それなのに、選挙戦のポスターを見ている清宮の姿を見つけてしまう。いつもだったら、この長い廊下で2人っきりになる事なんてないのに、何故か今は2人っきり。

 奇跡的な瞬間だった。

 俺は思わず清宮に声をかけていた。清宮は他のクラスの俺の事なんて知らないだろう。


「何か問題でもあった?」


「え?」


「熱心にポスターを見てたからさ」


 いきなり話しかけられて、吃驚した表情を隠しもせずに俺を見上げる。

 近くで見ても、文句のつけようのない好みの顔と身体。それは相変わらず変わらない。けれどそれが、俺が清宮に話しかけた最初の言葉だった。

 色気も何もない廊下での会話。突然こんなふうに話しかけられるとは思っていなかったのだろう。


「もうこんな季節になったのか、というのと、受験頑張らないと──…を考えてました」


 何とか言葉を発しているけど、清宮の表情の硬さが、戸惑いを表している気がした。

 だから清宮の弟の話を出してみた。両方とも有名で、お互い仲が良いのは周知の事実だ。


「君……さ。清宮純夜のお姉さん──だよね」


 突然弟の名前を出され、戸惑いが警戒へと変わった気がする。清宮を利用して弟に近付こうとしている人間も多いという話を、誰からか聞いた事がある。誰だったか忘れる程度の相手から。


「そうですけど」


 だから何でしょうか──と言わんばかりの表情。


「似てないね」


 姉弟だけど、2人は全く似ていなかった。美形という共通点だけで、顔立ちは全く違う。男女の違いだと言われればそうかもしれないが、それを考えても似ていない気がした。赤の他人と言われた方が納得する。それは俺の中では褒め言葉だったのだが、どうやら清宮姉弟にとってみたら違うらしい。

 弟の方には話さない方がいいと言われたが、何故かその弟の方が3年の校舎の廊下に立っていた。

 理由は清宮のノートが弟の方に混ざっていたらしい。運がいいのか悪いのか。清宮璃音には分からないように、弟には強く睨まれた。美形はどんな表情をしていても美形だと思っているが、それに本気で睨まれると迫力が半端じゃない事を知った。

 姉が自己犠牲をする所為か、弟の方は姉を傷つける可能性のある相手を、牽制する事は忘れないらしい。

 随分過保護な性格だという事がわかった。

 今回の収穫はこんな所だろうか。

 自分の嫌いな自己犠牲タイプに寄り添う、過保護な弟。

 ついでに、似てないと言われるのを嫌がっているのは弟の方。

 2年も離れているのに、双子みたいにそっくりだと言われてしまう俺からみれば、それは決して相手を貶める言葉ではないが、当たり前だけど、俺とは違う人間だから考え方も様々か。

 俺の前で繰り広げられている仲の良い姉弟のやりとりを見ながら、俺は気付かれないように溜め息をついた。


 俺と弟の顔がこんなに似てなければ、今よりは俺も弟の事を好きでいられたのだろうか。そんな今更な事を考えても仕方ない事はわかっているが、それでも考えてしまう。

 人気ランキング上位の2人を見ていれば、完璧で死角なんてない姉弟に見える。そこで浮かんだ俺の悪戯心。

 もし、この姉弟のどちらかに好きな相手が出来たら?

 この、如何にも良好な関係は崩れるのだろうか?

 ちょっと見てみたい。そんな悪戯心が生まれる。


 けれどそれを確認するには、弟という名の番犬が邪魔だなぁ。清宮璃音に近付くのには。

 あぁ、他にもいたっけな。ランキング上位で、彼女の事を本気で思っている男の数は少なくない。話し掛けれられない男たちが、その大半を占めているけど。


「それじゃーね」


 人気の姉弟たちに笑顔を向け、俺は身を翻して歩き出す。

 どうすれば清宮璃音に近づけるか。

 その事ばかりを考えていた。






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