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生徒会選挙・1



「(へぇ。もうこの時期になるんだ)」


 廊下に貼られたポスターを見て、そんな事を考えた。ゲームでは登場しなかった生徒会。そういえば瀬川君が書記だったけど、逆ハーゲームによくある美形集団じゃなくて、真面目で誠実そうな人たちが殆どだった。

 その中で、瀬川君はかなりの美形で、ファンの子達が多い──…が、親衛隊がいるとかそういうのはない。逆ハーゲームの定番ネタだったらそういう人たちが居て、主人公が何かをきっかけに生徒会メンバーから目をつけられてとか、そういう話に発展しそうだけど、ここではそんな事はない。

 けれど攻略相手以外にも美景が多い。ゲーム中だと、全くといっていい程目だってないけどね。

 現生徒会は夏休みで解散。それまでに引継ぎを済ませ、夏休み明けには完全に新生生徒会が学校の行事を取り仕切る。3年生は受験に備えてといった所だろう。

 外部受験するかどうかで、3年生の生活は全く違うものになる。私は外部受験組だから、それなりに忙しい。ゲームの璃音EDだと、外部受験はせずにそのまま成宮学園の大学部に上がるから、受験とは全く縁のないものだったけど私は違う。

 将来の夢は幾つかあるけれど、当たり前だが成宮学園よりも上の学校を狙う。やっぱり一番はあの最難関である大学の理数系を目標にしている。滑り止めは受けずにそれ一つでいくつもり、私立の滑り止めを受けるぐらいなら、このまま成宮学園の大学部に行けばいいだけだし。

 元々高校に上がった時には外部受験を考えていたから、予習復習を欠かさずに勉強に励んできた。そのおかげで、今更慌てる事もない──…と思いたい。

 昔の自分は理数系が苦手だったけど、璃音として生活していたら、スペックの違いで昔よりも簡単に解けるのだ。それが面白くて、思わず行ける所まで行きたい!という感情通り、外部受験を目指している。だから成宮学園は高等部まで。そう決めていた。

 

 純夜のイベント発生には私がきっかけになるものが幾つもあるから、高等部までは、というのはきっかけの一つ。後はカリキュラムが面白いから、というのもある。

 成宮学園も偏差値は高い方だし、面白いし、それを体験してみたかったというものが大きい。

 このポスターも生徒会選挙とは書いてあるけれど、実際は誰が生徒会長になるのかはもう決まっている。エスカレーター式らしく、中等部で会長をやっていた子が高等部でも生徒会長を務める。会長と、会長推薦の副会長。会計に書記2人に庶務。書記の1人は瀬川君がやっていたけど、もう1人の書記と庶務は2年の子がやっている。

 その子が、会長と副会長になるのは決定事項だ。

 後は1年生の子がやるんだと思う。興味もないからあまりよく知らないんだけどね。でも、ゲームの季節が始まってそろそろ2ヶ月も経つんだよね。

 選挙のポスターを見ながら、しみじみと考えるような事でもないけど。

 そういえばゲームの攻略相手は殆ど出てきたけど、まだ接点のない人物が2人もいる。

それは田端兄弟。兄は3-Bで弟は1-Bにいる。それはゲームの設定通りだ。設定通りだけど、接点を持つイベントに、璃音は全く関係ない。この田端兄弟は2つ離れているが、双子に間違われる程顔立ちはそっくりだ。

 見分け方は、ほんの少し赤茶の髪の赤が強い方が兄なんだけど、純夜は雰囲気で見分けがつく──…らしい。それで気に入られるんだけど、璃音は一切登場しなかったなぁ。関わるとすれば、純夜に好感度を教える時だけ名前を言う感じ。

 流石にこの辺りは手も足も出せないので、ほっておく事に決めている。

 攻略キャラの殆どと知り合いになっているし、私のやる事といったら相談にのるか、愚痴を聞くぐらいだと思う。

 純夜から愚痴を聞いた事はないんだけど。

 腕を組んで考えていた姿が目立っていたのか。それとも選挙ポスターを見ていたから選挙に興味があると勘違いされたのか、後ろから肩を叩かれた。


「何か問題でもあった?」


「え?」


「熱心にポスターを見てたからさ」


 声をかけてきた人物に動揺してしまいそうになるけど、意志の力でそれを抑え付け、首を横へと振る。

 今、私の目の前には赤茶色のくせっ毛の髪を持つ男の子が立っている。赤が強いから多分兄の方だね。じゃなくて、何でここにいるのか分からない。


「もうこんな季節になったのか、というのと、受験頑張らないと──…を考えてました」


 まさか貴方の事を考えていました。何て言えない。言えるわけがない。

 タイミングが良すぎて、逆にこっちが驚いた。田端君の弟とは始業式に顔を見たけど、まぁ、そこそこ似てるかなっていうのが私の本音だ。そもそも、ブレザーの袖を見れば学年は分かる。

 私たちは青。純夜たち2年生は赤。今年の新入生は、昨年まで3年生が使っていた緑だ。そんなモノを確認しなくても分かるけどね。けれど私に話しかけてきたって事は、純夜との出会いイベントが済んだのだろうか。ゲームでの役割を思い出しながら確認してみるけど、やっぱり田端兄弟と関わっていた場面はなかったように思える。

 純夜との出会い場面は珍しく、純夜が休日に1人で買い物に行った時に発生する。偶々寄った店で田端兄弟と出会うのだ。

 純夜の方は彼等を知らなかったけど、彼等は知っていた。純夜の人を引き寄せる魅力っていうのかな。その後は一方的に自己紹介をされた。けれど純夜はその時に雰囲気の違いを見極め、2人の名前を間違える事はなかった。というのがゲームの世界での出来事だ。今、それを確かめる術は私にはない。

 ゲームの内容を思い出していたら、田端兄が話しかけてくる。



「君……さ。清宮純夜のお姉さん──だよね」



 あぁ。やっぱり純夜と接触した後か。



「そうですけど」


 こういうのは珍しい事じゃない。手っ取り早く純夜と仲良くなりたい人が、身内の私に近付くのは何も珍しくない。そういうののあしらい方は随分慣れたけど、相手は純夜を幸せにしてくれるかもしれない人だ。それを邪険に扱って良いものか……悩むなぁ。



「似てないね」



 私が困っていると、田端兄があっさりと純夜の禁句を口にした。私たちは似てなくて当たり前なんだけど、ソレを言われると純夜のブラックリストに入る。表面上は変わらないけど、余程の事がない限りブラックリストから外れる事はない。


「それ……純君には言わない方がいいですよ」


 手遅れかもしれないけど。タイミングが良いのか悪いのか、何故か純夜が3年生の校舎に立っていた。どうしてこっちの校舎にいるんだろう。ここに居るって事は、私に用事があるのかな。けれど純夜の表情はいつもより硬く、どちらかというと不機嫌な表情を隠さず表に出している。

 田端兄ルートは、これで消えたかもしれない。


「姉さん。ノートが俺の方に紛れ込んでた」


 純夜が持っているのは間違いなく私のノート。そういえば昨日宿題をした後、机の端に置いてあった雑誌の上に置いちゃったような。


「ありがとう。純君」


 純夜の手からノートを受け取る。

 私にはいつもの純夜だけど、田端兄に対しては近付くなオーラを発している。純夜の完全な拒絶だ。

 うーん……。純夜は気難しい性格をしているからなぁ。気付かない人が多いけど。この状態で田端兄が好感度を上げるのは相当難しいんじゃないかなぁ。


 この先の事は私にも全く分からない。

 まぁ、いいか。純夜の禁句を簡単に口に出来る人物は、あんまり純夜に近付いて欲しくないし。

 それを聞いた時の純夜は傷ついた表情を浮かべるから見たくない。それは紛れもない私の本音。





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