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そんなに無防備にならないで・清宮純夜視点・1




 小さい頃から“家族”になった俺達。誰も俺たちが本物の姉弟じゃないと気付かない。流石に龍には話してあるが、その情報は胸の奥深くに閉じ込めてくれている。

 璃音にとって俺は、守るべき弟。それは高等部にあがった後でも変わらない。それに何とも言い難い感情が胸の奥で燻っているのだが、それを表に出すような真似はしない。

 この温度差が解決しない限り、口に出せる事ではない。ただ単に、“恋愛対象ではない大切な弟”と最後通知を受け取りたくないだけだ、というのは分かってる。

 高校3年になっても、誰かを好きになった事のない璃音に安堵もしたが、心配にもなった。年上にも年下にも全く興味を示さない。

 この十数年間。嬉しいけど男の影所か、そういう相手すらいないのは確実だ。璃音の性格なら、出来たら家族への報告はするだろう。

 だから安心も出来る。

 その反面、璃音の好みが全く分からない。

 一生独身の可能性もあるんじゃないかと思えてしまう。

 彼氏の話題は怖くて出来ない。いないと確信していても、姉から──…璃音から好みについて話されるのは怖い。


 俺と全く違うタイプだったら?


 もう既に気になる相手がいたら?


 立ち直れる気がしない、今もリビングのソファで横になって眠っている璃音。俺に対して何の警戒心も抱いていない事がわかる。

 幸せそうな表情。

 柔らかな頬を人差し指で突いてみる。

 擽ったそうに身を捩り、突かれた頬を左手で撫でた後、また寝息をたて始めた。完全に無防備だ。

 俺が璃音にどんな感情を抱いているか、全くわかっていない無防備さ。前に図書館で眠る璃音の頬に口付けをしてみたけど、それにも気付いていなかった。

 璃音の寝込みを襲ったようなものだけど、全く気付かない璃音に心配と同じぐらい、怒りの感情が湧き起こる。

 共同の場所で、自宅と同じように無防備な姿を見せる璃音。

 相反する感情に、俺はいつものように溜め息を落とした。

 何度目になるか分からない溜め息。


 自宅での無防備さは悲しくなるが、共同の場所でのそれは許したくない。俺も、他の奴等にも変わらない。そう言われている様で、自分勝手に怒ってしまう。

 璃音から男扱いされたらどうなるのか。俺を好きになってくれていたら嬉しい。でも、そうじゃなかったら?

 璃音は俺を傷つけないように、一生懸命家族のフリを続けるだろう。

 男としては見れなくても、家族としては大好きだと。

 そんな事態に陥ったら、俺は1人暮らしの出来る遠く離れた大学を目指す。璃音と距離をとり、弟ではなく男として意識してもらう為に。

 もし、男だと意識してもらえずに気持ちをぶつけてしまったのなら、俺は二度と璃音と家族のフリは出来ない。仮にしたとしても、薄っぺらな演技をするだけ。

 いずれは両親も気付くだろう。今はまだ気づかれていない俺の気持ちに。

 無防備に横たわっている璃音を見つめながら、俺の額から汗から流れ落ちた。嫌な汗だ。冷たい汗。結局は璃音と姉弟だという事に、甘えてしまっているのは俺自身だ。

 この関係を崩すのが怖い。俺自身がそう思ってしまっているからこそ、璃音は俺の気持ちに気付かないのだろう。

 今度は頬ではなく、柔らかそうな髪を一房手にとり感触を楽しむ。1度も染めた事のない黒の髪は柔らかく、口付けしたい衝動に駆られる。

 こんな時は無防備な璃音が悪いと自分勝手に思いながら、それに口付けた。

 俺も同じジャンプーを使っているのに、俺よりも良い匂いがする。この香りが璃音に合っているんだろう。

 1度本人がばっさりと髪を切ろうとしたけど、家族全員で止めて良かった。ショートかボブの璃音が嫌なわけじゃなく、ただのアレンジのきく今の長さが璃音に似合った気がしたから──……というのは建前で、俺が璃音の髪が好きだから、のばしておいて欲しい。ただそれだけの話だ。

 龍貴もその時は協力してくれたが、理由は俺と同じだろう。小さい頃から俺も龍貴も、璃音の髪に触りたがっていた。

 そんな幼馴染みにも見せたくない璃音の姿。そんなに無防備にならないでと思いながら、俺だけの特権であってほしいと思う。矛盾しているのは自分でも分かってる。それでも相反する思いがあって、俺は答えの出ない感情を意志の力で無理やり心の深い場所へと押し込めた。

 璃音は姉であり、俺の最愛の人。璃音が姉だと、家族の時間ではそう思っている。その時間だけは、姉だと思える。内に燻っている感情に目を瞑れば、の話。

 それを考えると、俺が璃音に恋をしてから相当の時間が経つんじゃないだろうか。一番際の覚えている記憶で、璃音が俺に手を伸ばしてくれた瞬間から、璃音の事を想っている。今更、その感情を完全に打ち消す事なんて出来ない。

 それ所か、今となっては抑える事が難しくさえなっている。



 学校の図書館で、頬とはいえ、我慢できずにキスするなんて、理性が効いていない証拠だ。

 でも、璃音の無防備さをこうして責めながら、その隙を狙ってこうして璃音に触れる。

 これも矛盾だ。

 結局矛盾だらけで、俺の中で整理が追いつかない。

 姉弟じゃなかったら、ただのストーカーだ。その言葉が浮かんだ瞬間、俺は項垂れた。それでも、俺は璃音の可能性を潰したい。俺以外の男と話す機会すら奪ってしまいたい。紛れもない俺の本音だ。



 未だに璃音は目覚めない。

 俺に無防備な姿を見せたまま眠っている。

 何の危機感もなく、安らかな寝息をたてている。嬉しい反面、止めて欲しい。

 やっぱり駄目だな。

 頭の中はごちゃごちゃだ。

 璃音が好きで好きでたまらない。


「俺以外を好きにならないで」


 俺を好きにならないなら、俺以外の男も好きにならないで、ずっと1人で居て。

 そうしたら、俺は弟としてずっと傍に居るから。


 俺だけの傍に居て。





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