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お買い物の裏側・岡本龍貴視点・1



 俺には幼馴染が2人いる。

 隣同士で、両親達の仲が良い。しかも1つ上と同じ年。これで仲良くならないはずがない。しかも、誕生日も近かった為、3人同時に誕生日を祝ってもらったりもした。小さい頃の話だが。

 成長するにつれ、それが照れるというか恥ずかしくなってからはしていないが、プレゼントだけは毎年渡している。誕生日会はしていないが、その日は璃音がケーキを作ってくれている。毎年欠かさずに。

 年に1回。璃音が確実に物を受け取ってくれる日。

 毎年何をあげようかと頭を悩ませているが、必ず“身に付けられるもの”を選んでいる。璃音が身につけてくれるのが嬉しくて、毎年買って贈るのが楽しみに変わっていた。当然のように、俺の気持ちには全く気付かない璃音。

 でも、俺も幼馴染みの関係を崩すのが怖いから、気付かない璃音に対して残念だという感情と、安堵する感情の相反する気持ちに占領されている。

 けれど毎年身に付けられるものだと、段々贈る物をどうしようかと迷う。純夜と被らないように相談するけど、似たようなものは贈らないように気をつけていると、どうしようと頭を抱えるはめに陥ってしまう。

 昨年はブレスレット。

 今年はどうしようかと思っていた時に、友人からの頼み事。いつもだったら断っている所だが、今からリサーチするのも悪くない。そんな事を考えながら、璃音を誘ってみた。

 他に用事が入っていなかったら、璃音は確実に俺の頼みを聞いてくれるだろう。緊張しながらメールを打てば、その返事は早かった。特に何もやっていなかったのか、偶々タイミングが良かっただけなのか。

 多分後者だろう。璃音は本を読んだり、何かに集中していると、メールや電話の音には一切気付かない可能性が高い。周りの音が全く耳に入ってこない。

 それはあまりに無防備で、俺と純夜は心配で仕方ないのだが、本人だけが全く気付いていない。本人に言った所で、気のせいだと笑顔で返されるだけだろう。

 どうしてあそこまで自覚がないのか。不思議で仕方ない。

 それを見る度、璃音を問い詰めたくなる。俺や純夜が近くに居たから、俺達が男として見られなくなっているならまだ分かる。そうだったのなら、俺は男だと璃音に認識してもらうだけで済む。

 それも十分大変だとは思うが、璃音は年上も年下も気にせず、自分が誰かの恋愛対象になるなんて考えてもいない。

 どうしてこうなったのか。

 近くにいる俺達にすら分からない。この件に関してだけは、恋敵でもいいから助言を貰いたいぐらいだ。

 今日もいつもとは違う髪形ですごく可愛い。片方に纏められた髪。下に流している髪を手に取り、キスをしたいと思う俺の下心に璃音は全く気付かない。

 シンプルな服でも、璃音の可愛さは損なわれる事はない。周りの男達の視線がウザイぐらいに注がれていて、それを俺が牽制している事にも気付かない璃音。

 一通り用事も終わり、折角だからとご飯を食べていく事になった。


 お腹がすいているのか、BLTサンドと紅茶。デザートにはシフォンケーキを注文していた。俺も同じもので、デザートだけは季節のフルーツタルトを注文する。デザートは半分ずつ食べるのも、実は楽しみだったりするがそれは言った事はない。純夜にも内緒にしている事だ。

 BLTサンドを頬張った顔さえも可愛い。気取らない所も良いし、口の周りに少しだけどついてしまったソースを舌でペロリ、と舐めるその姿。

 とりあえず周りを威嚇しながら、俺もBLTサンドにかぶりついた。相変わらず美味しい。無言で食べ終え、食後の紅茶を飲みながらデザートを食べる。始めにフォークで半分に分け、璃音と交換する。


「んー。美味しい」


 シフォンケーキを一口。相当美味しかったのか、璃音は満面の笑顔だ。確かにここはデザートも美味しいよな。


「このふんわり感。美味しいよね。あ、でもタルトも美味しい~」


 まさしく至福の時とばかりにウットリとした表情を浮かべる。

 可愛い。

 本当に可愛い。

 無防備なその姿も可愛い。外では牽制が大変だけど。

 周りの男達に威嚇していたら、どうやら俺を彼氏だと認識してくれたらしい。認識しないのは璃音ぐらいだ。牽制の意味も込めて、それらしく振舞っていたのだから、効果があって当然といえば当然だけど。

 彼氏だと認識されるような態度をとらないと、俺が居るのにも関わらず璃音に近付こうとする奴が後を絶たない。

 これ以上ライバルなんていらない。

 ただでさえ、学校では危険人物が山ほど居るっていうのに、外で増やしてたまるか。それは紛れもない俺の本音。

 一通り食べ終わって満足したのか、璃音は俺に満面の笑みを向けてくる。当然のように可愛い笑顔だ。でも、外でそれは止めて欲しい。

 今ので璃音を見る視線が確実に増えた。


「それじゃあ帰ろうか」

 これ以上増える前に。

 席を立ち、当たり前のようにレシートを持つ璃音の手から、俺はレシートを取る。


「?」


 自分がお金を出すのが当然だと思っているのか、疑問を浮かべる璃音に俺は首を横に振る。


「付き合ってもらった礼」


「別に気にしなくていいよ?」


 俺を見る眼差しは、言葉以上にそれを語っている気がする。


「今回のパシリの礼で払うから大丈夫」


 けれど俺がそれを言うと、鞄から出していた財布をしまってくれた。俺がひく気がないという事がわかったのだろう。

 パシリの礼は俺1人分の食事代ぐらいだけど、璃音の分は元々払う気でいたから問題ない。その為にバイトもやっているし。

 カウンターでレシートを出し、会計を済ませた。この程度の出費は痛くも痒くもない。璃音と2人っきりで出かけられるなら、逆に安いものだと思う。

 けれど毎回、どうして璃音は当たり前のようにレシートを持って会計を済ませようとするのか。璃音も純夜も小遣い制でバイトなんてしていなかったはず──…だよな?



「なぁ、璃音」


「ん?」


 先に店を出た璃音の背に向かって話を切り出す。


「璃音ってバイトはしてないよな?」


 趣味代には結構使っているというのは知ってる。編み物だったり、その他の材料代だったり。


「バイトはしていないけど、オークションで作った物は売ってるよ」


「……売る?」


「うん。その売ったお金で材料を買って、また作って売ってを繰り返してるかな」


「そうなのか」


「うん」


 それは初耳だった。道理でいつ見ても材料があったはずだよな。色とりどりのレース糸や毛糸。合成皮だったりと様々だ。時期によって変わるが、その理由がよく分かった。


「材料費と、ちょっとプラスだけどね。新しいものをどんどん作れるから、重宝してるんだ」


 リビングで手馴れた様子で作っていたけど、あれもオークション用だったのかと、今更ながら納得した。沢山作るけど、完成品の殆どを見た事はなかったから。

 今までちょっとだけど感じていた疑問が、これでスッキリとした。

 他で璃音が買うといえば本ぐらいだろう。けれどレシートを持っていく理由には繋がらない気がするが、璃音からしてみたら年上だから。の一言で済まされてしまうのかもしれない。

 小さい頃からずっと一緒にいるのに、中々甘えさせてくれない幼馴染みに、俺は気付かれないように溜め息を落とした。どうせなら、もっと頼って欲しい。頼られないと寂しい。

 璃音には言えない言葉だったけど……。






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