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お買い物・2



 龍貴の友人からの頼まれ事は、私の提案した“ピンクが可愛い十字架”であっさりと決まった。透明の宝石を埋め込んだ十字架もあったけど、“可愛い”といえばピンクだろうと、龍貴と私の意見は全く同じだった。

 プレゼント用に包んでもらっている間、暇潰し程度に店内を歩いてみる。私もこのお店はよく利用する。アクセサリーも、他の雑貨も充実しているのだ。ついつい長いしてしまうのはいつもの事。私好みのアクセサリーもあるけど、それよりも私の心をガッチリと掴んで離さないのは雑貨の数々。

 今も気にいったデザインのレターセットを3つを手に持ちながら、店内を歩く。龍貴といえば、普段は絶対にこないであろう店だけに、並べられた品の数々を興味深げに眺めていた。

 女の子向けのお店だから珍しいんだと思う。それなのに、私の後をついてまわっているから、ゆっくり見れてないんじゃないだろうか。


「龍君は好きなの見てても大丈夫だよ。呼ばれるだろうし」


 その為の番号札を渡されている。


「こーいう女の子向けの店で、1人でウロウロしてもな。璃音の後をくっついてる方がいい」


「そっか」


 結構純夜なんかは抵抗なく見てまわるんだけど、龍貴は抵抗があるらしい。男の子だなぁ……何て微笑ましい表情を浮かべてしまう。

 それが気に入らなかったのか、龍貴の表情が少し不機嫌そうなものへとかわる。


「璃音は男を分かってなさ過ぎ」


 そんな事を口にする龍貴に、私の口から漏れるのは笑い声だけ。何ていうか、年月が経つのは早いなってしみじみと実感する。そうだよね。龍貴ももうじき17歳だもんね。


「ほら。璃音の手──…こんなに小さい」


 龍貴は私の手を取り、手の平を合わせてくる。

 確かに私よりも一回りも大きい手。骨ばっているし、いかにも男の子の手の平という感じだ。くすくすと笑い声を漏らした所で龍貴が指を曲げる。

 私の指と指の間に龍貴の指。少しというか結構くすぐったい。


「男は……」


「龍君は龍君だよ。男云々とかじゃなくて、大好きだよ」


 小さい頃から見守ってきた龍貴。純夜とくっついたら、皆を説得する役目は私が請け負うから心配しないでね。

 そう思いながら、私も龍貴の手を握る。

 大丈夫だよ。

 私は味方だからね。

 エンディングで幸せそうな2人を思い出して、私から笑みが零れた。大切な人たちだから幸せになってほしい。あんなふうに笑っていて欲しい。それが幸せだと、私は疑う事はしなかった。


「……璃音……うん。なんていうか──…ありがとう」


「ん」


 龍貴が突然言葉を詰まらせだしたけど、純夜の件で疲れているのかな。今年になってからゲームのシナリオがスタートして、純夜の周りには色々な男の子が現れている。それで大変なのかもしれない。

 私が出来る事は少ないけど、幼馴染みという事で他の人たちよりは、ほんの少しだけど多めに応援しているからね。

 ここに人目がなかったら、握り締めた拳を龍貴の拳に当てたい所だよ。気分的には同士よ。という感じかな。実際の所は贔屓はほんの少ししかしていないつもりだけど、小さい頃からずっと一緒に居る龍貴に対しては仕方ない。

 だって可愛いし。


「璃音は他に寄りたい所ってある?」


「んー……特にないかなぁ。でも折角外に出たから、ご飯ぐらいは食べよっか」


 先日買い物したばかりだから、特にないんだよね。本はまだ入荷されてないし。丁度目に入った爪やすりを手に取り、値段を確認してみる。

 やっぱりこういうのってホームセンターの方が安いんだよね。

 あ、でもこのストーンは欲しいかも。昔の自分の容姿は普通だったけど、璃音は可愛いから飾り甲斐があるんだよね。ナルシストってわけじゃないけど。小指の爪にちょっとアクセントでつけても可愛いんだよね。 

 どうしようかなぁ、と迷っていたら、番号が呼ばれた。私は目に付いたストーンの袋とレターセットを持ち、龍貴と一緒にカウンターに行ってお互い会計を済ませる。

 今日の夜はじっくりと爪を磨いて小指につけようかな。

 料理を作るのに邪魔にならない小指に、控えめに飾るのが好きなんだよね。ガッツリと飾るのは見てて楽しいけど、料理の邪魔になるから出来ないんだよね。。今度付け爪にやってみて、どんな感じが見てもいいかな。

 肩に掛けていた鞄の中に買ったものを入れて、私は龍貴の方を見た。まだ店員さんに捕まっていて、『彼女さんですか?』何て聞かれていた。品物は未だにお姉さんの手の中。

 何ていうか……獲物を狙う目になってますよ。お姉さん。

 龍貴の容姿が余程好みだったのか、次から次へと質問をぶつけられている。初めは困ったような表情を浮かべていた龍貴だったけど、段々と苛々してきたのか、手を出してから低めの声で呟いた。


「それ、会計終わってるんだけど。それに見て分からない?」


 ひったくるように袋を取り、私の腕をとり歩き出す。

 もしもし龍貴君よ。私は彼女はないっていうか……お姉さんが射殺しそうな怖い視線を向けてきているんだけど。

 何ていうか、普段は歩くフェロモン無敵主人公の純夜が一緒だから、男女共に視線を集めているんだけど、龍貴もかっこいいんだよね。

 攻略相手もフェロモン持ってます?みたいな男の子が多いのがLienの特徴かな。そんなフェロモンを持つ龍貴が、私の腕をとり店の外へと歩いていく。

 ……暫く、このお店にくるのは止めておこう。

 自動ドアが開いて、出て行く私の所をまだ睨んでる。怖。女の嫉妬は本当に怖いんだよね。このお店は気に入っていたんだけど、あの視線は私の顔をしっかりと脳裏に刻み込んでいる表情だ。

 昔、あんな表情をした女性を見た事がある。その時の相手は私じゃなかったけど、今回は残念な事に私に向けられている。

 “怖い”相手がいる店に、態々近付く必要はない。時間さえ経てば忘れてしまうだろう。


「璃音。ごめんな」


 店を出て、自動ドアが閉まると同時に龍貴が一言。


「別にいいよ。気にしなくて」


 どうやら龍貴も気付いたらしい。

 暫くいく用事もないから問題は全くない。


「結構しつこかったしね。龍君は大丈夫?」


 あれはガシガシと精神的に削られた表情だったし。


「俺は大丈夫だ。ただ……」


「私も大丈夫だよ」


 更に謝ろうとする龍貴の言葉を遮り、いつもの笑顔を向ける。

 それでも龍貴は何か言いたそうな表情を浮かべたけど、私が歩き出したからそれに合わせて龍貴も歩き出した。

 謝罪の言葉はもういらないよ、と態度で表してみる。

 密着状態だった身体は既に離れ、ご飯はどうしようか、何て言いながら歩き出す。


「結構お腹すいたな」


「うん。私もすいた」


 じゃ、いつも行くお店のカフェレストランのリーベルでいっか。

 龍貴に聞けば、それでいいと頷く。

 何食べようかなぁ。デザートも美味しいから、それも食べたいしね。龍貴も甘いものは好きだから、違うものを頼んでいつものように半分こずつにしてもらおう。 

 そんな事を考えたからなのか、龍貴が笑った気配がしたけど、それには気付かないふりをした。







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