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近すぎる距離感・2

 バシャバシャと音をたてながら顔を洗う。

 これで靴の痕は消えたかな。

 靴が飛んでくるのまでは覚えていたんだけど、まさか靴底が顔面目掛けて飛んでくるとは思わなかった。

 少しだけどしみたから、傷が出来たんだろうなぁ、とは思う。

 出会いがちょっと険悪な雰囲気だったけど、水守君のフラグが無事たったようで良かった。


「姉さん大丈夫?」


 俺が近くに居れば、なんて言いながら落ち込んでいる純夜だけど、全然大丈夫って言ったら尚更頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう。

 …反抗期?


「大丈夫じゃないよ。顔に傷つくって…」


「擦り傷だから治るのは早いよ」


「そうじゃなくて…」


「顔も洗ったし、教室に戻ろ」


「……」


 力が抜けたように、額を私の肩にのせる純夜。

 すっかり朝からお疲れモードに突入させてしまったけど、幼い頃から純夜と仲良くしてるから、小さな傷一つでも気になってしまうのかもしれない。べたべたというからぶらぶしてたからね。

 抱きしめるように腕を回し、純夜の背中を軽く何度か叩く。


「姉さん何かつけてる?」


「つけてないけど……匂う?」


 ひょっとして悪臭を放ってた? 思わず自分の腕の匂いを嗅いでみるけど、いつもと同じ匂いだよね。


「ううん。そういう匂いじゃないから大丈夫」


「?」


 何が大丈夫なのかがよく分からないけど、顔を上げた純夜の表情は開き直ったかのように見えた。


「行こっか」


「うん。行こう」


 保健室にいるとはいえ、朝礼に出れなければ折角の皆勤賞が無駄になるしね。まだ時間的には大丈夫だと思うけど、教室に行っておいて損はない。


「それお薬塗ってね」


「ん。教室についたらね」


 一応応急処置の道具を持ってきたから大丈夫。それは言わないけど、私の鞄は何でも揃っているという評価を貰っているから納得してくれるだろう。

 心配性の持ち物はある意味半端じゃない品揃えを誇るんだ。こんなの使うの?なんて事はよく聞かれるけど、使う時は沢山必要になったりするから、役にはたってる。



「姉さんの鈍い所は助かるけど、自分の事に無頓着過ぎるよね」


 隣りを歩く純夜がボソリと呟く。


「無頓着じゃないよ。日焼け止めは年中無休で塗ってるし、10代用の化粧水もつかってるし」


 お肌対策はその程度かな。


「色々と自前なのは知ってるよ。そうじゃなくて」


「ん。自前。化粧面倒だし」


「肌の手入れじゃなくて……あれ。何を言おうとしてたんだっけ」


「純君もお肌綺麗だもんね」


「ありがとう…」


 お礼を言われたけど、それを言った純夜の表情はやっぱりいじけているように見えた。更に肩を落としているけど、割合見かける光景だから何も言わないでおく。

 こういう時の純夜と話すと、尚更へこませてしまうんだよね。だから放置をしておいて、復活を大人しく待ってみる。


「今年って璃音厄年だっけ?」


「違うと思うよ。何で?」


 今まで私たち姉弟の会話を黙って聞いていた龍貴が、神妙な表情で尋ねてくる。


「昨日といい今日といい怪我しただろ」


「あぁ、それね」


 ただのイベントだから厄年でも何でもないよ。とは言えないから、とりあえず笑っておく。


「偶々だよ」


「…二日連続ってさ」


「大丈夫大丈夫」


 もう続かないから。


「大丈夫ならいいんだけどさ…」


 なおも言い続ける龍貴に握り拳をつくり、もう一度大丈夫と言い切った。流石にこれが続くようなら厄払いには行くけど、璃音が身体をはるのはこれで終わりのはず。


「ところで純君。そろそろ話そ。折角一緒に居るのに寂しいよ」


 あれから考え込むように眉間に拳をあて、無言を貫いている純夜、


「……」


「一緒に通えるのは今年が最後だし。話してくれると嬉しいな」


「姉さん…」


 ここの高校はエスカレーター式だけど、大学は外部受験するから、通えるのは今年で最後だ。想像したらちょっとしんみりとしちゃったけど、純夜が会話に入ってきたから良しとしておこう。


「少し腫れてるから、ちゃんと冷やしてね」


「うん。ちゃんと冷やすね」


 ちょっと痛かったけど、隠しキャラも出せたし。純夜のフラグを折らずに済んで本当に良かった。

 ホッと胸を撫で下ろす私に、純夜が甘えたように肩に顎をのせ、頬ずりをしてくる。


「心配かけてごめんね。ちゃんと気をつけるから」


「うん。約束」


「ん。約束ね」





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