告白はいつも突然です・2
「お疲れ様」
そう言って、ペットボトルを渡された。
「ありがとう。色々な意味で」
「気にしなくて良いよ。今日は偶々俺だっただけだし」
あっさりと言ってのける瀬川君。
「それでも助かりました。あのままだと、急所を本気で潰そうかと思ってしまいましたから。それだと流石に過剰防衛だと思いますし」
本当にイラッときたから止めてくれて大助かりだった。事情聴取という名目で5時間目で休ませてもらったし。お昼はゆっくりと食べれたのは良かったな。
「出て行くのが遅くてごめんね」
瀬川君が一応謝ってくれたけど、首を横に振った。
証拠集めもあっただろうし。男と女だから痴話喧嘩じゃない証拠が出るまで待ってたんだろうし。
そう思うと、生徒会の人たちって大変だよね。
「この間から思ってたんだけど、清宮さんって人に助けてもらうの嫌い?」
……純夜のストーカーの件、かな。
「1人で出来る事ならやっちゃいますね。今回の事は予想外でしたけど。まさか告白されるなんて全く思ってもいない事でしたし」
「……」
「私の写真を態々持ち運ぶ変な人が居るなんて思いもしませんでしたし。趣味が悪いですよね」
こんな年上を選ばなくても、周りには可愛くて若い子たちが沢山いるのに。何で残念な子になっちゃったのか全く意味が分からない。
私が溜め息を吐くのを我慢していたら、瀬川君が笑った。初めて見せる面白そうな表情で。何でしょうか。その顔は。
「でも、生徒会からしたら、君のおかげで田中を捕まえられたから助かったよ」
瀬川君の何処かホッとしたような表情。そしてその言葉。前からマークしていたというか、前科があるんじゃ。
「被害者が他にも居るんですね。じゃあ、これでも渡しておきます」
私が録音した会話が入っているSDカードを渡す。これの方が、瀬川君が録音したものより距離が近い分だけマシだろうと思う。
私が何人目かの被害者なのかが気になるけど、これ以上この件に首を突っ込む必要はないし、そのつもりもない。
「ご飯も食べたし状況も話し終えた。という事で、教室に戻りますね」
からのお弁当箱を入れた袋を持ち上げながら言うと、瀬川君が驚いたような表情を浮かべた。
「授業出るの? 休んでも大丈夫だよ。あんな写真を撮られて見せられて、精神的に疲れただろうし」
どうやら、私が休めたのは学校側の意思だったらしい。
てっきり事情聴取だけかと思ってた。
「アレはドン引きしたけど、大丈夫ですよ。私より生徒会や風紀員の方が大変でしょう。更衣室の中での写真もありましたし。それを考えたら、被害者が知らないだけでどのぐらい広まってるのかも分かりませんし」
正直女子が加担しているとは思いたくないけど、場所が場所だけに疑ってしまう。恐らく色々な人に売りまくっていそうな気もする。それとも写真じゃなくてデータで売ってるのか。データで売りさばいていたのなら、被害はどこまででも広がっていくだろう。
私の言葉に、そうなんだよね、と言いながら頭を抱える瀬川君。本当にお疲れ様です。これからが本番だと思うけど。
「これありがとう。それじゃあ教室に戻りますね」
丁度授業が終わる鐘の音がした。タイミング的には教室に戻りやすい。中身がこんなのだから、写真のダメージを受けて6時間目も休むという選択肢は用意していない。
逆に瀬川君の方が驚いてたのが面白かったな。私を見る視線が明らかに違ってたし。でもあれみたいな写真は全部処分して欲しいなぁ。私の場合は肝心の所は写ってなかったし。Tシャツの上からジャージを着込んだだけだから、ギリギリセーフだったんだけどね。でも、更衣室に仕掛けられてただろうから、被害者は沢山いると思う。今年からとも限らないし。
仮に去年の夏も撮られていたとしても、純夜が大きめの水着着替え用のタオルを買ってくれたから、てるてるぼーずみたいになったけど、ほぼ素肌は露出していないから大丈夫だと思う。
考えながら歩いていたら、後頭部からぽこん、と間抜けな音が響いた。
「どうしたんですか?」
私の横には武長先生。さっきの間抜けな音は、先生が手に持っている紙を丸めて当てたんだね。
「6時間目も会議で全クラス自習だ。保健室で寝てても大丈夫だぞ」
寧ろ眠れ!と言わんばかりの表情を浮かべられる。
「会議だったんですね。お疲れ様です」
「証拠写真はお前だろ」
私の言葉に、武長先生は声を低めに呟く。相変わらず良い声をしてるなぁ。じゃなくて、瀬川君の仕事も早いね。あの証拠写真で5時間目は会議だったんだ。
「よくわかりましたね」
「生徒会が個人を特定できないように黒く塗りつぶしてたが、分かる奴は分かる」
更に声のトーンを落として喋る先生。相当機嫌は悪そうだ。
「犯人は見つけて下さいね。アレは被害者が知ったらショックで登校拒否になってもおかしくないですし」
私の言葉に、武長先生は痛ましげな表情を浮かべる。
「お前は大丈夫だったか?」
心底心配そうに言われ、私は少し悩む表情を浮かべ。
「撮られてアルバムに保管されてましたが……気分は微妙です。
目の前でストーカーに発展したのも驚きでしたけど。
ネガがあったらシュレッダーにかけて、データだったらそれが入ったパソコンを壊したい程度には不愉快です」
そしてにっこりと満面の笑みを浮かべ、言い切った。
「十分怒ってるな。大丈夫だ。俺も怒ってるから安心して自習をやっとけ」
その言葉の後、さり気ない動作で頭を撫でていく先生。流石に手馴れているなぁ、と関心してしまう。顔は良いし、体格だって良い。
女の人が好きだったのなら、きっと選り取り見取りだったんだろうなぁ…。その辺りは私の関わる所じゃないから、頭から追い出す。自習は何をしようかなぁ。突然の事で先生方もプリントは用意出来なかっただろうし。
真面目に数学の問題集にでも手をつけようかな。折角買ったし。
「(そういえば武長先生も怒ってるって言ってたね。
流石先生。生徒思いだよね)」
そんなモノを買った生徒もだけど、ソレを撮った犯人たちを捕まえて、しっかりとした罰をくだして欲しいと思う。他力本願になるけれど。
でも武長先生があの状態なら大丈夫かな。
けれどゲームだと盗撮騒動はなかったんだよね。ひょっとして、璃音って好きな相手が弟とくっつくだけじゃなくて、裏でこういう騒ぎにも巻き込まれていたのかな。
ゲームじゃ凄く助かる存在なのに、こんな被害を受けていたんだね。純夜にばれないように家だと笑って……なんて不憫な。
でも私の写真が撮られて売られるぐらいだから、ひょっとしたら純夜の写真とかも撮られている可能性も否定出来ないよね。男女共に愛される無敵主人公だし。欲しい人はかなりの人数だと思うんだよね。
心の中だけど、もう1度武長先生にエールを送り、教室に戻った。




