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告白はいつも突然です・1



 場所は3-Cの教室を出た所。窓越しから外の風景を見ていたら、私の後ろに立つ男の子の姿が窓に映る。身長は私よりも高いけど、記憶にない男子生徒だった。


「清宮さん。ちょっと付き合ってもらえませんか? ここだと目立つので」


 割と小さい声で話しかけてきたから、周りには聞こえてはいないだろうけど、どこまで付き合えば良いんだろう。

 そんな疑問一杯の眼差しを男子生徒に向けていたら、また小声で話し出した。


「昼食の時、屋上に来てください」


 私の反応を見て、今じゃなく昼食時に変えたらしい。授業と授業の合間の時間じゃ余裕がない。だから昼食時を指定するのは当然だと思うけど、知らない男の子の呼び出しに応える事は正直面倒だった。

 男子生徒は私の返答を聞かず、自分の言いたい事だけ言うと、自分の教室へと戻っていく。一体何が言いたかったんだろう。別にこの場でも良かったんだけど。


「…まぁ、いっか」


 昼食はお弁当だから何処で食べても良いんだけどね。

 何となく腑に落ちないけど、そろそろ次の授業が始まるから教室へと戻る。英語の授業は集中しないと、通り過ぎるだけになってしまう。生前、英語が苦手だった影響だとは思うんだけどね。璃音の頭脳だから昔みたいな事にはならず、90点台をキープしているから、そろそろ苦手意識を払拭した方がいいかもしれない。

 いつまでも英語の前に気合をいれて、ドキドキとしながら授業を受けるのは疲れるし。よし。前とは違って英会話も学んで喋れるようになったし、ちょっとは自信を持つようにしよう。

 教室に戻り、いつもとは違った精神状態で英語の授業を受けたら、こっちの方がスルッと授業内容が頭に入ってきた。リラックスしながら授業を受ける事も大切だよね。それをしみじみと実感し、忘れかけていた屋上の件を思い出し、お弁当を片手に廊下に出た。


「…何処か別の場所で食べるのか?」


 タイミングよく統矢君と出会う。お弁当は机の上に置き、メッセージを残してあるけど、丁度会ったなら口頭で伝えてしまおう。


「なんかね。屋上に来て下さいって言われたから行ってくる。統矢君のお弁当は机の上に置いてあるからね」


「あぁ。いつもありがとうな……」


「ついでだから気にしなくて良いよ」


 気にしなくて良いとばかりに手をパタパタと振る。けれど統矢君は腕を組み、何かを考えているような素振りを見せた。


「俺も着いて行くか?」


「大丈夫大丈夫。用件聞いてついでにお弁当食べて戻ってくるから」


 そんなに心配しなくて大丈夫という事を伝えて、屋上へと向かう。昼食時の屋上は、生徒会とか委員長達が集まっていたりとか、割合学園内で目立つ人たちが集まっている。そういう人たちが居る確立が高いのに、よく屋上を選べるよね。

 攻略対象によくある生徒会や風紀委員とは一切絡んでないから、どんな人たちかは詳しくは知らない。瀬川君も一応生徒会メンバーだっけ。顔の良い人たちもいるけど、って感じかな。

 それさえも曖昧。ゲームにはちょい役で出たかなぁ、という感じだったから、印象には残ってない。

 そんな事を考えながら屋上へと続く扉を開けたら、珍しく誰も居なかった。

 周りを見回しても全く人が居ない。からかわれたのかな、と思ったら、再び扉が勢いよく開いた。移動しておいて良かった。

 そこに居たのは、肩で息をしながら呼吸を整えているさっきの男子生徒。


「大丈夫ですか?」


 ゼハゼハとしながらも息を整えようとする男子生徒。


「…大丈夫」


 と言って、息を大きく吐き出し、吸い込んだ。どうやら呼吸が整ったらしい。


「来てくれてありがとう。俺は3-Aの田中真吾っていうんだけど、俺と付き合って下さい!」


「……」


 ん? 今聞き慣れない単語が聞こえたような気がする。


「え……と」


 聞き間違いかなって思ったら、いきなり手を握られた。


「俺は本気なんです!! 清宮さんの事が1年の時からずっと好きで好きで、愛しているんです!!!」


 勢いが凄くて、かなり引いている私に気付かずに語り出す。若いって素晴らしいね。と普段なら言いたいけど、いきなりこの距離感はいただけない。


「高等部を卒業したら、俺の嫁さんになって下さい!!!」


 駄目だ。話がいっきに吹っ飛んだ。

 好意を寄せてくれているのは分かったけど、そこまでいっちゃうのはおばさんといえどもついていけないよ。というか、本当に引いた。

 取り合えず最初にやる事は……。


「手を離して下さい。好きと言ってもらえるのは嬉しい事なんだと思うのですが、お断りします。ごめんなさい」


 ペコッと頭を下げた。私の返答に唖然とした表情を浮かべた田中君の隙をついて、手を解放させてもらうと同時に、嫌な予感がして携帯を操作する。録音開始。勿論相手には気付かれないように。


「何でわかってくれないんだ!? こんなにも愛しているのに!! ほら。こんなにあるんだ。これをもっとこれからは一緒に増やそうよ」


 …と言って、取り出したのはアルバム。持ち歩いている人っているんだ。じゃなくて、隠し撮り満載ですね。そのアングルは。って……更衣室での着替え写真まである!?

 シャツの隙間からうっすらのぞくのは多分白のレースのブラかなぁ。殆んど写ってないからわかりにくいけど。斜め後ろからのアングル。これは犯罪決定。色気担当になったつもりは全くない。大きいタオルでてるてる坊主っぽくなってるけど、これは水着の着替え写真だ…。

 ここでか弱い女の子なら泣いてしまうかもしれないけど、中身がアラフォーがこんな事で泣いてたまるか。


「お断りです。明らかに隠し撮りの写真を平然と見せて、ドン引きです。寧ろこれは犯罪でしょう。その自覚はないんですか?」


 真正面から視線を合わせる。すると、ポッと頬を赤らめた。そのリアクション、無理。本当に無理としか言えない。

 中身がアラフォーでもキツイものはキツイって事がよーく分かった。いい教訓になりました。経験値も稼げたし、これで終わりって事でいいと思うんだ。


「産まれたままの璃音の姿が見…」


「ストープッ!!」


 ソレは最後まで聞きたくない。


「そういうのは、お互いの心が通ってからの話で、今現在、私は貴方に対して一切の好意はありません。もう1度言います。ごめんなさい。貴方という存在を認識するのも嫌だし、貴方とお付き合いなんて到底無理です」


 今まで自分の世界に入り込んでいたからなのか、私の否定的な言葉が聞こえていないらしい。都合の良い耳だったけど、流石にこれは理解したらしい。

 田中君の表情が変わった。


「何で? 愛してるのに??」


 不思議そうな表情でこちらを見てくる。


「私は愛していません。3度目ですが、ごめんなさい。お友達付き合いさえも無理です」


 私の言葉に、握られている拳が震え出す。このままでいくと、手が出るかもしれない。屋上は広い。他の人の姿は見えない。ただ1つの脱出口は田中君の後ろだけ。

 じっくりと相手の筋肉の動きを見ていると、案の定手が出た。それを避け、距離を取ってみれば、扉から離れる田中君。私を逃がさないように、直ぐに扉の前に行ける位置に立っている。完全に頭に血が上ったわけじゃないらしい。


「帰りたいから通してくれないかな?」


「俺と付き合うなら退いてあげるよ。勿論このデジカメで、キスシーンを撮って、制服をぬ……」


「それも気持ち悪いッッ」


 田中君の言葉を遮る。それ以上は聞きたくない。

 変態決定。しかも上から目線。


「付き合いきれません。それ所か、ドンドンと貴方の事が嫌いになってます。引きます」


 ドン引きという言葉じゃ足りない程引いてる。


「璃音は素直じゃないんだから」


「……」


 断ったら壊れた? いや、元々こういう性格だと思うんだけど、話が通じない相手をどうやって処理していいのか。昔もこういう事があったけど、その時は先生方の協力を仰ぎながら、結局は力ずくで片付けた。

 参考にならない事を思い出していたら田中君が動いた。田中君の拳が私の鳩尾を狙って動く。それも難なく避けて、田中君が扉から離れないと攻撃を仕掛けられない位置まで下がる。


「鳩尾を殴ろうとするなんて、最低ですね」


「俺が看病してあげるよ」


「いりません。退いて下さい」


 いい加減腹がたってきた。この人が自分勝手で変態で妄想癖があるのもよぉく分かった。


「お弁当も食べたいし、退いて、と言う言葉の意味もわかりません?」


 次に来たら急所を蹴る。容赦なく蹴り上げる。覚悟を決めた時、上から声が降ってきた。


「生徒会と風紀委員が不在の時を上手く選んだつもりだろうけど、詰めが甘いね」


 扉がある上には確かに上れるけど、本当にいるんだ。いない日に何かをやらかさないか、交代制で見張っているのかもしれない。


「ソレってストーカー? 恋愛は自由だけど、その一方通行は駄目でしょう。会話は録音させてもらったから、指導室で怒られようか」


 瀬川君が出てきたら、急に大人しくなった田中君。

 あぁ、そういえば生徒会の書記だっけか。瀬川君は。




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