いき過ぎた鈍感は罪?・2
5冊目を読み終えた時点で手を止めた。時間は午後3時。そろそろ夕食の支度に取り掛からなければとベッドから起き上がる。
両親は外食するって言ってたから、準備するのは純夜と私の分。と、ひょっとしたら龍貴も一緒なのかもしれない。一応準備しておいた方がいいかもしれない。
久しぶりに肉じゃがを作ろうかな。後はきんぴらとつけもの。大根が良い感じになっているから取り出て洗い、切ってから冷蔵庫へと入れる。ついでに梅干も出しておこうかな。
それに出汁巻き卵で十分だろう。あ。そろそろきゅうりを使おうと思っていた事を思い出し、私は軽く塩をきゅうりにふりかけてからまな板の上でコロコロと転がす。ある程度やったら最後まで放置。
料理を作る姿は若いけど、中身は見た目通りではないから、こういう漬物とか箸休めを作っては食べるのが好きだ。春先は山菜取りに行って大量の蕗をとって煮込むんだ。明日葉があったらてんぷらにして…。
料理を作っていると、本を読むのと同じぐらい時間の流れが速く感じる。気がつけばもう4時半になっていた。そろそろ帰ってきてもおかしくない時間だと思っていたら、タイミングよく玄関の扉が開かれた音が聞こえた。話し声は2人。
「おかえり」
「ただいま。良い匂いだね」
「ただいまー。すっげー疲れた」
純夜と龍貴の2人を玄関まで迎えに行ったが、何も言わずに純夜の部屋に行って2人の着替えをタオルで包んで玄関に持ってくる。そしてそのまま2人にタオルに包まれた着替えを手渡す。何故か2人とも泥だらけ。まるで喧嘩をしてきた後のように見える。
「何で泥だらけか聞いても良い?」
腕を組んで仁王立ちしていたのが悪かったのか、純夜と龍貴が何故か正座で座る。
「え…と、何で正座?」
「怒られてるみたいだからつい…」
純夜の言葉に逆に驚く。
「怒ってないよ。ただ心配しただけだよ」
そう受け取られてた事に驚く。確かにこの立ち方はまずかったかもしれない。慌てて2人を立たせると、そのままお風呂場を指差す。
「ご飯は作ってあるから、お風呂から出たらご飯にしようね」
さて、冷蔵庫から作ったものを出さないと。2人を見送った後台所に戻り、レンジに冷蔵庫から取り出したものを入れて時間を決める。でも、まだスタートは押さない。後は出汁巻き卵の準備をして時計を見た。2人は長風呂タイプじゃないので、5分程経った所でレンジのスタートを押す。飲み物はほうじ茶。後は冷たいウーロン茶。
浴室は両親がお風呂好きな為、かなり広い。なので男の子2人が入っても大丈夫。龍貴にとってはドキドキイベントなのだろうか……。当たり前のように2人を行かせたけど。
さて。ここで出汁巻き卵を作り始める。焦げやすいから注意しながら巻いて、無事作り終えた出汁巻き卵を皿に乗せ、包丁で切る。今日のメニューはこれで十分だろう。
急遽作った豆腐とわかめのお味噌汁。声が聞こえてきたから今頃髪を乾かしているんだと思う。
3人分の食器を並べて、後は2人が来るのを待つだけ。
温かい湯気が出ている料理は美味しそうに見える。その時、小さくお腹が鳴った。私も結構お腹がすいたらしい。良かった。2人に聞かれなくて。
その時、タイミングよくドアが開いた。
「ご飯はどれぐらい?」
そんな2人に声をかける。
「いつもので。龍もだよな?」
「あぁ。いつも通り大盛りで!」
タオルを肩にかけ、リビングに入ってくる2人。そんな2人を見て、やっぱり龍貴には酷な強制イベントを発生させてしまったかもしれない。
小さい頃は良いんだろうけど、やっぱり2人を浴室に押し込めるのは駄目だったかもしれないなぁ……。
お詫びに、今度は龍貴の好きな手作りマヨネーズを使ったサンドイッチを作るからね。
「相変わらず料理が上手いよな。璃音は」
食卓に並んだ料理を見て、龍貴がしみじみといった感じで呟く。
「ただの趣味だよ。温かいうちに食べちゃおう」
龍貴の目が食卓に釘付けにたっているのを笑みで答えるけど、一応18禁VerもLienはあるんだよね。そっちはやった事ないけど。あぁ、今の展開が健全か18禁かはわからないけど、どっちに転んでも龍貴には悲しい思いをさせたような気がする。内心土下座する勢いで謝りながら、私は笑顔を作る。
「そうだね。出汁巻き卵も焼き立てで美味しそう」
「本当だ。作りたて?」
「うん」
龍貴の言葉に頷く。
「「「いただきます」」」
3人の言葉が重なる。
うん。やっぱ作りたては美味しい。自画自賛になっちゃうけど。出汁巻き卵は食べ終わりたいと思ったけど、この分でいくと大丈夫そう。
純夜と龍貴は相当お腹がすいていたらしく、次々とおかずとご飯を食べていく。流石男の子2人。
5合炊いたお米があっという間にへっていく。
でも、おかずは作った量が多かったから、明日のお弁当にいれる分は確保されてる。ついつい作りすぎちゃったんだよね。
両親の分まで考慮して作ったというか。いつもの癖だね。
「それで、何で2人は泥だらけだったの?」
2人の食べるスピードが落ちてきた頃に聞いてみる。
「「……」」
それに無言の2人。話したくないんだろうなぁ。それについては。
ゲームでもこのイベントはなかったから、わからないんだよね。うーん……無理やり聞いてもなぁ。
「ん。わかった。話したくなったら話してね」
多分話してくれそうにはないけど。
「ごちそうさまでした」
お腹はいっぱい。自分好みの味付けになっちゃうけど、2人も満腹になったのかごちそうさまを言い、自分の使った食器を運んだ後、純夜はサランラップでおかずの入った皿につけていく。
それを冷蔵庫に入れ、龍貴がテーブルの上を拭く。
「2人ともありがとね」
食器を洗い終え、手伝ってくれた2人に礼を言う。
「それじゃあ私は部屋に戻るね」
後は若い2人で会話でもゲームでも楽しんでね。私は残りの本を読みたいし。今日中には読み終えられないだろうけど。
「姉さんも程ほどにね」
「うん」
目薬でもさして、本を読みまくるとわかっているのか、純夜が心配そうに言う。夢中になると時間を忘れて読んじゃうから、それを心配しているんだと思う。
でも今度は大丈夫。ちゃんとアラームはつけたから。
疲れてお腹もいっぱいになったからなのか、何処か眠たそうな2人をリビングに残し、私は部屋に戻る。
ベッドに乗り、背もたれのクッションを整えた後に本を読み出す。
どのぐらい集中していたかわからないけど、ピピ…とアラームが鳴った。
「んー」
アラームを止めた後、背筋を伸ばす。もう10時かぁ。そろそろお風呂に入って眠ろうかな。準備をしてお風呂場へと向かう。髪を縛っていたゴムをはずし、次々と服を脱いでいくんだけど……あれ? タンクトップがない。用意してきたはずなんだけどなぁ。
バスタオルを巻いて廊下に出るけど、床には落ちてなかった。
リビングに行けば干したのがあるから、それを持ってこようかな。
遠慮なくドアを開けてリビングに入る。明日は雨が降るっていうから、ここに干したんだよね。
スリッパでぱたぱたと音をたてながら歩くと、リビングでテレビを見ていた2人がこっちを向く。
「本は読みお……」
「り……」
「本は中断。丁度良い所で終わったし。あったあった。これでいいや」
洗濯バサミから取り外し、それじゃーお風呂に入るねー。という言葉を残しリビングから出て行く。
「そういえば龍君もいたね。今日はお泊りかなぁ」
どっちもどっちでよく泊まりあうから、それぞれの家にお互いのお泊りグッズは常に完備してある。私も小さい頃は泊まったんだけど、今は全然かなぁ。
「んー。肩凝ったかな。今日は何のアロマにしようかなぁ」
それでぐっすりと眠るんだ。アロマをいれてある籠を手に持ち、今日の気分に合ったアロマを数滴たらす。
うーん。良い香り。髪と身体を洗って、アロマをたらした湯船に浸かる。はぁ、この時間が落ち着くわー。高校の卒業旅行に真美ちゃんと一緒に温泉でも行こうかな。
今日は私が最後だという確認はとってあるから、遠慮なく長風呂を楽しむ。軽く1時間は湯船に浸かっていられるかな。あまりに長すぎてお母さんが呼びに来た事もあるぐらいだったりするけど、その逆もある。
母もお風呂大好き長風呂だし。
でもお父さんと純夜は早いんだよね、10分ぐらいで出てくる。湯船に浸かるのも数分で、温泉に行っても楽しめないって話を聞いた事がある。
だから家族旅行の計画をたてた時は、何処に行くか本気で迷うんだよね。温泉はありつつお父さんと純夜が楽しめるような場所は何処だって。
結局決められなくて、温泉は女友達と行ってたなぁ。
「そろそろ出よっと…」
身体も十分温まったし。髪を乾かしてこのまま眠ってしまおう。




