いき過ぎた鈍感は罪?・1
その日は久しぶりに夢を見た。私は璃音ではなく、昔の私。その私が漸く出来た子供。しかも双子を両腕に抱えて嬉しそうに笑ってる。
何故か子供に純夜と龍貴という名前をつけ、成長を見守る。お母さん思いの良い子で、旦那の顔は見えなかったけど、4人で幸せに暮らしていた。何て幸せな日々。
友達も増え、家に遊びに来るといえばお菓子を作り出迎える。2人の友達は個性はだった。何処かで見たような気がするけど、皆仲良しな所が良い。このまま育てば皆美男子でバレンタインデー何かは忙しいというか、荷物が多いんだろうなぁ、なんて思った。
将来楽しみだ。しみじみと思っていたら、丁度オーブンが音をたてた。開けて確認してみれば、何て良い感じの仕上がり方。
美味しいって言ってくれる可愛い子供達。
あぁ、本当に皆可愛い。
勿論、親馬鹿発言で、うちの子供たちが一番だけどね。
──…そこで目が覚めた。あれ……? 子供たちは?
「……夢…かぁ。でも可愛かったなぁ。昔もやっぱ結婚して子供産んでおけば良かったなぁ」
1人でうっとりしていると、トントンと扉をノックする音が響く。
「どうぞー」
言うと同時に時計を確認。今日は月に1回の家事お休み日だから、問題なく寝坊したんだっけ。でもちょっと眠り過ぎたかな。眠った時間だけ見たらそうでもないけど、日々の習慣って怖いね。
「姉さん。ご飯作ったからさ、一緒に食べない?」
「うん。食べるー」
自然と声が弾んだ。
両親はこの日を2人でデートに出かける。いつの間にかそうなっていた決まり事。そして純夜は私にご飯を作ってくれるようになった。
買い食いの日でもあったはずなんだけどね。でもそれが嬉しくて、この日の為に態々惣菜を買う事はしなかった。純夜が作ってくれた料理を一緒に食べる方が嬉しい。
パジャマの上にカーディガンを羽織り、部屋を出る。
「おはよう純君」
「おはよ。姉さん」
うんうん。我が弟ながら可愛いなぁ。
夢が抜けきれていないのか、純夜の頭に手を置いて優しく撫でる。うーん。可愛い。
「純君は可愛いねぇ」
撫で撫で撫で。手を止めずに撫でていたら、段々と純夜の顔が赤く染まっていく。相変わらず照れ屋の純夜。
「ご飯ありがとね。嬉しい」
「ううん。いつも姉さんが作ってくれてるから……」
「お手伝いしてくれるでしょ。それもありがとね」
やっぱり夢の影響がまだ続いているのかな。いつもだけど、純夜が凄く可愛い。思わず両手を開いて純夜を抱きしめて頬ずり。純夜の方が身長が高いから、踵を上げる形での頬ずりになるけど。
「あ……のね。姉さ……龍。龍の両親と出かけたから、龍にも手伝ってもらったんだ!」
「そっか。3人で食べるのも久しぶりだよね」
龍貴は料理が苦手だから、お皿運びとか並べたとか、出来る限りで手伝ったんだろうなぁ。2人とも良い子。大好き。
「おはよう龍君」
「おはよー。何か機嫌が良さそうだけど、何かあった? (そして純夜がげっそりと……)」
リビングの扉を開けて龍貴に挨拶すれば、そんな言葉が返ってきた。流石幼馴染み。気付くのが早いね。
「夢でね。純君と龍君が私の双子の子供でね。幼稚園に行く頃には、ここ最近知り合った人たちが2人の友達なの。皆小さくて可愛かったなぁ」
うっとりしちゃう。こんなに可愛い子供たちが子供なら、溺愛してしまいそう。その勢いのまま龍貴にも抱きつき頬ずり──む。純夜より龍貴の方が高いから、頬ずりが出来ない。もう少ししゃがんでとばかりに肩を下に押そうとすれば、その意図を汲んでくれた龍貴が膝を曲げてくれた。
ありがとうとばかりに頬ずりを堪能する。
「「……」」
2人の沈黙が重なるけど、機嫌の良い私は全く気がつかない。
「龍。とりあえずご飯を食べよう」
「あぁ。そうだな。璃音。純夜の作ってくれた料理が冷めるぞ」
「!」
それは駄目だね。折角作ってくれたのに。
「それはいけないね。温かいうちに食べたい!」
テーブルの上に並べられた朝食。ベーコンエッグにほうれん草。カリカリのパンにコーンスープ。このパン屋さんのフランスパン大好き。
「「「いただきます」」」
3人同時に手を合わせ、いただきますの挨拶。ベーコンのカリッとした食感も大好き。この絶妙なカリカリ感は純夜にしか作れないんだよね。
私の手伝いもやってくれるから、凄く手際が良い。ゲームでも料理上手だったね。
「美味しかったぁ。純君、龍君。ありがとね」
最後に牛乳の残りを飲んで終わり。今日はこの後の予定は全く決めていなかったんだけど、小説でも読もうかな。今日はほのぼのとした話をいつもよりも気分良く読めそうな気がする。
「姉さん。今日の予定は?」
純夜からの質問に。
「本を読もうかなって思ってるよ。最近読んでないから溜まっちゃった」
「そっか」
「純君はどうするの?」
私の答えに満足気に頷く純夜と龍貴。
「龍とCDでも借りに行こうかなって。借りたら姉さんも聞くやつだから、後で貸してね。音楽追加しとくから」
「そかそか。気をつけて行ってきてね。ごちそうさま」
普段は自分で作ってる所為か、人に作ってもらったご飯って大好き。純夜の料理美味いし。
「後片付けは私がやるから、2人は出かけちゃっていいよ」
洗い物自体は少ないし、手間にはならない。2人からお礼を言われつつ、玄関まで見送る。
「いってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
「行ってくるな」
そんな2人を見送り、鍵を閉めた。
それじゃあ後片付けをさっさと終わらせて、部屋に戻って本を読もう。さっさと、というか3人分の食器だけど、使った食器の数は少ないからあっという間に終わって部屋へと戻る。
よし。沢山読むぞ。気合をいれながら本を用意して、枕やクッションを重ねて背もたれを作る。ベッドの隣りに置いてある小さめのキャビネットの上には、1・5ℓの炭酸ジュースと紅茶。普段は自分で淹れて飲むけど、こういう時はペットボトルの飲み物に頼ってしまう。
それと小腹がすいた時の対策用に、一枚ずつ袋に入ったクッキー。そして読む予定の本を積み重ねる。
これぞまさしく至福の時間。ぺらりぺらりとページを捲る音だけが室内に響く。これはジャンル的にはホラーになるんだけど、怖い話は昔はそれだけで敬遠していたけど、今は軽いものなら読めるようになった。好みの作者さんが書いた話なら読めるんだよね。文章上手いし。
それに、何といっても1回死んでいるからね。怖くなくなった原因の一つはこれだろう。多分。今読んでいるのは、主人公のパートナーがお化けだ。
お化け──でいいのかな。年数が経って妖怪に変化した疑惑のお化けだ。
普通の時は主人公にしか見えないが、この主人公も特殊だ。産まれた時に石を握り締めていて、両親がそれを加工してペンダントにしてくれたのだ。それをお守りとして常に身につけているんだけど、これを触ると誰彼問わずに見えるようになる。
ペンダントの原動力になるエネルギーは、ただ主人公が身につけておけば良い。それだけで勝手にチャージされる。主人公は眼鏡っ子。それを取るとお約束な可愛い女の子。ドジだけど。ものすっごくドジでお化け──イケメン──にからかわれたりするけどね。友人とお化けと協力して問題を解決していく。
勿論お化け関係の問題だ。
主人公の友人はお寺の跡取り息子。霊力は大きいのに上手く押さえ込んでいる主人公に興味を持ち、近付いて秘密を探っていく中主人公の人柄に惚れてしまう。
勿論、そうなったら主人公を見守っているお化けと戦う事になるんだけど、それは毎度の事なので気にしない。
主人公はどっちとくっつくんだろう。無難なのは勿論友人の方だ。だけど小さい頃から見守っていてくれるパートナーのお化けが初恋だけに抜け出せない。
色々と葛藤もあるんだよね。しみじみとしてしまうけど、パートナーのお化けには共感を覚えてしまう。
何といっても1回死んだ私からすると、彼はお仲間な気がしてしまうのだ。
どっぷりと読む事にはまっていたら、用意したクッキーは一切食べずに12時が過ぎていた。ちょっとお腹すいたかな。
そういう時は食パンを焼いて、マーガリンを塗ってカカオシュガーやシナモンシュガーを振り掛けるだけのご飯。簡単だけど美味しい。
「ごちそうさまでした」
皿はたったの1枚。ささっと洗い、テーブルと台所を軽く拭いておく。
よし。続きを読もっと。




