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海藤君の天敵・1




 たんこぶさんこんいちは。2・3日のお付き合いにでは収まらないたんこぶが出来たみたいです。私はあまり気にしていなかったんだけど、保健室では鷹野先生が何度も異変を感じたら直ぐに自分に伝えるようにと言われた。

 打った直後は何もなくても、実は少しずつ血が出ていて脳を圧迫するとかそういう怖い事もあるらしい。

 イベントスタートで、ちょっと地に足がついていなかっただけ。気を取り直して今日から頑張ろう。改めて気合を入れなおし、引き出しにノートと教科書をしまう。



「なぁ、清宮」


「おはよー。海藤君」


「あぁ、はよ。でさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」


 海藤君が言い難そうに、言葉を選んで何かを聞きたいらしいけど何だろう。しかし小声で自信がなさそうに話しかけてくるね。でも久しぶりに海藤君とこうやって話した気がするなぁ。前の席にいるのに。


「最近さ……俺の席で飯を食ってる奴がいるだろ?」


「あぁ。統矢君ね」


「…統矢君……名前で呼んでるのか?」


「双子だから苗字で呼ぶと面倒だしね」


 兄の方は水守兄って呼んでるけどね、あの人は未だに苦手だし、今朝の件でそれを再確認した。


「海藤君と似た名前だね」


「……矢が同じだしな」


「うん」


 今日の予習は済ませてきたし、授業を受けながら確認すればいいね。海藤君と会話しながらそんな事を考える。


「…どうして俺は苗字な……」


「そういえばさ、数学の問い10わかった? ちょっと解らなかったんだ」


「あっ……あぁ。えと、こんなふうに問いてみた」


「ふむふむ。あ、わかった」


 計算式を見せてもらい、改めて問い10を始めからやりなおす。数学は嫌いじゃないけど、時々ミスをするんだよね。ケアレスミス。

 その辺りも直さないとなぁ。


「…でさ、清み…」


「あっ、そっか。そうなるとこっちの問題も違ってた。」


 消しゴムで消して問い11を計算しなおす。問い12からも見直したほうが良さそう。数学は4時限目だからまだ余裕があるね。問題を解きなおし始めた私を見て、海藤君も前を向く。

 人の宿題の内容を見てみると、自分のって気になるよね。

 一応だけどもう一度見直しをして、ノートを閉じる。気がつけば時間ギリギリで先生が入ってきた。良かった。全部終わった後で。

 いつも通りの朝礼を終え、授業の準備をする。


「璃音、おはよう」


 先生が教室を出て行った後、真美ちゃんが私の席まで歩いてくる。


「おはよう真美ちゃん」


「風邪はどうだった? 大丈夫??」


 普段は風邪をひかないように気をつけてる私が、風邪をひいて休んだから気になったらしい。


「昨日まではちょっと寝込み気味だったけど、もう大丈夫。熱は下がったし」


「それは良かった。クラスでも璃音は大丈夫かってちょっとした騒ぎが起こったよね。ねぇ、海藤君」


 真美ちゃんに突然話をふられた海藤君は、飲みかけだったペットボトルを机の上に置き、肩を震わせながら真美ちゃんを見上げる。


「あのな、佐野。何で突然俺にその話題をふる?」


「璃音の前に座っているからだよ。深い意味なんて何にもないけどどうした?」


「わかって言ってるだろ?」


「何の事?」


「わかるだろ?」


「偶々だと言っているでしょ」


「嘘だな」


「嘘? 何の事が? はっきり言ってみたらどうかな?」


 2人のわからない話を聞いていたら、段々と空気が険悪になってきたような。この空気を変えるにはどうしたらいいのか。そうだ。今日はアレがあったんだ。

 100円ショップのシナモンで購入したイチゴがプリントされた紙袋に入っているのは、今朝焼いたばかりのクッキー。生地は冷凍してあったから、切ってから焼くだけという簡単なお菓子なんだけどね。


「2人とも糖分不足? ほらほら。これでも食べて補給して。人間お腹がすくと機嫌も悪くなるしね!」


 ミニコップにカフェオレを淹れて2人に差し出す。


「「……」」


 2人の沈黙が重なった後、真美ちゃんがにこりと笑う。


「ありがとー。流石璃音。相変わらず美味しすぎ! もう1回家に来て淹れ方教えて、両親も知りたがってるの」


「いいよー。真美ちゃんのお父さんもお母さんも大好き。料理上手だからまた習いたいの」


「伝えておくね」


 2人でキャッキャッと話していると、海藤君が出されたクッキーを食べながら、、右手を差し出す。あぁ、クッキー請求だね。

 小袋ごと手渡すと、今度は驚いたように目を見開かれた。何々?なんか問題あった?


「あんまり入ってないけど、どーぞ。こっちは真美ちゃんに」


 少し早めに起きて、オーブンをフル活用していたのが悪かったのか、思いの他作りすぎてしまった。私専用の冷凍庫があって、その大半はお菓子の材料を寝かせたり生地が入っていたりと色々だ。その1棚を終わらせる勢いで焼きまくったのが悪かったんだよね。

 身体を動かしたい欲求が全てお菓子作りにいってしまった。


「璃音は本当にマメね」


「つい情熱が溢れ出して」


「大丈夫よ。いつも溢れているから」


「え? そうかな?」


「璃音は美味しそうな甘い匂いがするしね」


「え? 匂ってる??」


 それは全く気付かなかった。匂うかなと袖口の匂いを嗅いでみても、自分だとよくわからない。


「ねー。海藤君。甘い匂いをしてるよね」


 真美ちゃんの言葉にクッキーを吐き出しそうになった海藤君は、左手で口元を押さえて咽ていた。かなり苦しそう。

 中カップを取り出し、お茶を注ぎ込んで海藤君に手渡す。


「大丈夫?」


 おちゃが飲めると良いんだけど。


「…ゴホ……あぁ」


 少しお茶を飲み、口の中に広がったクッキーをふやかして、二口目で喉へと流し込む。咳は随分と収まったらしい。


「佐野。お前とは一度じっくりと話し合いの場を設けた方がいいな」


「あはは。断る! 海藤と2人っきりで話した所で得をする事はなーーーにもない」


「じゃ、私も行こっか?」


 思わず口を出してしまったけど、それに真美ちゃんは機嫌が良さそうに笑う。


「それいいね。私と話したいなら…」


「本末転倒だろうが!!」


 ついに海藤君が叫ぶように言う。勿論目立たないように小声だったけど。こういう反応をしちゃうから、真美ちゃんにからかわれるんだよね。

 そういえば1年の頃、真美ちゃんと海藤君が噂になった事があったんだよね。

 こんな感じで真美ちゃんがからかい、海藤君が拗ねて、顔を真っ赤にして真美ちゃんと仲直りするから、2人はラブラブカップルという噂が流れて……。

 『あはは。全くあり得ないよ。私が海藤を好きになるなんてあり得ない』っておもいっきり笑っていたけど。泣かして終わりだとも言っていたけど。

 海藤君はそこまで趣味は悪くないって言ってたけど、真美ちゃんは美人さんだよ。

 その頃から真美ちゃんに遊ばれているのに、未だに海藤君が慣れていないのは性格の所為だと思う。こう見えてすごく真面目だから。海藤君って。

 まぁ、見てて楽しいから良いんだけどね。





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