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それぞれの思惑・鷹野透視点




 第一印象は綺麗な子。話してみたら落ち着いた大人みたいな子に変わった。そんな彼女の名前は清宮璃音。艶やかな黒髪。見事な天使の輪っかが出来上がっている。

 けれど本人自身は全く気にしていないのか、化粧はしていない。この髪も高いシャンプーを使ったというわけではなく、おそらくシャンプーとリンスをあわせて1000円ちょっとの物を家族みんなで使っていそうな気がする。

 時々いるのよね。何もしなくても綺麗な子って。傍から見ていると本当に良い子なのよねぇ。ただ、大人すぎる対応が気になるって所かしら。

 子供時代っていうのかしら。成宮学園の高等部からの付き合いになるけれど、知り合いに聞いてみたら幼等部の頃から他の子の面倒を見たりしていたらしい。今と全く変わらない面倒見の良さ。


 あんなに綺麗で料理も上手。それなのに彼氏が出来たという話は一切聞かない。彼氏が出来ないように邪魔をする子たちがいるのは知っているけど、本人自身が全くその気がないように見える。

 恋愛する気はありません、という空気を醸し出しているような印象を受けた。今の所、その壁を超えられる人間は、私が見た限りではいないのよね。

 どうして恋愛の空気を完全に消し去ってしまっているのかが気になるけど、まだそこまで踏み込めていない私が聞いた所で、興味がないの一言を返されそうな気がするのは私の気のせいかしら。



「何やってるんだ? どうでもいいから離れろ」


 考えていたら、私の直ぐ傍からそんな声が聞こえる。不機嫌さを全く隠さず、その眼差しだけで人を射殺せそうな程物騒な眼差し。

 態々椅子を横に運んで、そこに座るか座らないかの状態で腰をあげ、声の主を抱きしめるように両手を相手の肩や首に絡める。

 見た目だけでいうなら、美男美女だけど実際は違う。


「ふふ。ちょっとしたいじわるよ」


 その言葉とほぼ同時に頬にキスする。勿論リップ音付き。


「だから……」


 頬にキスをされたまま両手で抱きしめられている正人が、私の腕に手をかけた所で失礼します、という目的の人物が控えめにドアが開いた──が、それは直ぐに閉められた。とりあえず計画というのにはおこがましいけれど、こいつは危ないのよ、という事を見せようとタイミングを見計らって、清宮ちゃんに見せたのよ。この分だと上手くいったみたいね。


「離れろ」


 苛立ちを隠さずに正人は私を退かすと、迷わず清宮ちゃんを追いかける。ドアの外で聞こえる声。どうやら引き止めるのに成功したらしく、不本意な表情で清宮ちゃんが正人に引きずられるように歩いてくる。

 でも、逃げる事は諦めていないらしく、準備室内を見渡している。

 廊下に続くドアに鍵を閉めたけど、ここから出られるドアは1つじゃないのよねぇ。あら、正人ってば詰めが甘い。

 全く気付いていない正人にばれないように、くすりと笑いを噛み殺す。清宮ちゃんの視線は、鍵のかけられていないドアへと向けられている。

 本当に冷静な子。でも免疫は全くないみたいね。照れた名残なのか、顔は赤いまま。そんな姿も可愛いわねぇ。


「清宮ちゃんいらっしゃい」


 私がそう言えば、清宮ちゃんは観念したようにトボトボと歩いて私の前に立つ。


「…ハイ…」


「今のはねぇ…正人と同じ子を好きになっちゃったから、既成事実を作ってその子から手をひかせようと思ったのよ」


 私の方もあれだと誤解されたままだから、一応だけど真実を伝えておく。清宮ちゃんはボソボソとだけど、私を美人だから大丈夫と言ってくれる。


「ふふ。美人って言われるの、好きよ」


 言いながら、さっき正人にしたように清宮ちゃんの頬に軽いキスをする。勿論リップ音付きで。


「正人は慣れてて、照れないのよねぇ」


 ちゃんと正人のアピールもしておく。大学時代に遊んでいたのは事実だしねぇ。


「無差別ですか! 水守君と一緒ですね!」


 そんな清宮ちゃんが叫ぶように言うと、失礼しますと言って鍵のかかっていないドアから走り去っていく。正人が今頃間抜けな声をあげたけど、相変わらず詰めが甘いわね。所で去り際に気になる事を言ってたわね。

 水守君っていうと2人いるけど、無差別は兄の方ね。弟の方は贅沢にも清宮ちゃんにお弁当を作ってもらっているのよねぇ……。それで兄の方は清宮ちゃんに口じゃないにしろキスをしていると。

 そんなのと私を一緒にしちゃ駄目よ。流石におそこまで無差別じゃないし、清宮ちゃんだからキスをしたわけだしね。


「…とりあえずお前は出ていけ。清宮に本当に誤解されたらどうしてくれる」


 これでもかという程不機嫌な声。


「大学時代は遊んでたじゃない」


「それは過去で今は遊んでないだろ。俺は疲れた。鷹野もさっさと帰れ」


 これ以上は駄目ね。引き際を間違えるとこっちが損をする事になりそう。


「はいはい。帰りますよ」


 本当に疲れきった表情に、私は素直に頷いておく。

 これ以上ここにいても、何も意味はないものね。




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