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怪我の件は秘密です・1




 少し眠るのが遅かったかも。

 欠伸を堪えながら、今朝の料理と昼食のお弁当を作る。いつも規則正しく同じ時間に眠っているから、それを崩すとかなり辛い状態に陥る。

 濃いめのコーヒーを飲もう。それがいい。

 そう考えた所でオーブンから音が聞こえた。丁度パンが焼きあがった。焼きたてのパンを籠に綺麗に並べ、テーブルの中心に置く。

 トースターとオーブンはフル活動だ。

 さらにはベーコンエッグ、レタス、トマトを盛り付けテーブルへと並べる。今日はかなり手抜かしだったりする。

 パンは作っておいた生地の形を整えて焼いただけ。

 惣菜パンなのは完全に趣味。作り出したら凝ったんだよね。パンの中身をどうするかとか。


「姉さんおはよう」


「おはよう純君。今日はどうする?」


「……コーヒーで」


「うん」


 純夜の分のコーヒーをカップに注ぎ、少し遅れた両親はカフェオレを少し甘めというリクエストだったから、いつもよりも少し多めに砂糖をいれた。


「りっちゃん今日のお勧めは何?」


「卵とマヨネーズは美味しいよね。シーチキンとマヨネーズの組み合わせやブルーベリージャムも美味しいけど、食パンは小さめに作ってあるから、とりあえず色々な味を食べてみて」


 ブルーベリーは買うと高いから、庭で苗木を買ってきて育てているんだよね。まだ小さいけど、今年は少しでも収穫出来るといいなぁ。


「姉さん。少しパンも持っていっていい?」


「良いけどお昼?」


 純夜は細いけど、結構な量を食べるんだよね。

 そんな純夜のお弁当には、大きめのおにぎり4つを入れてある。


「ううん。おやつ」


「適当でいい?」


「うん。お願い」


 籠に入りきらなかったパンを袋につめる。龍貴も食べるだろうから、少し多めに入れても大丈夫だよね。

 今度ミニパンでも作って学校に持っていこうかな。ミニパンならおやつに丁度良いだろうし。


「姉さん。寝不足? クマがあるよ」


「……そう?」


 席に腰を下ろした瞬間、純夜から心配そうな声をかけられる。

 流石純夜。観察眼が鋭いね。

 誤魔化せてはいないけど、勉強は程ほどにって言われたから、昨日の一件はばれてはいないみたいで安心した。

 ばれていたら怖いというか、なんというか。とりあえず今朝ののんびりとした会話は一切なかっただろう。

 そして過保護な純夜は、暫くは同じ部屋で寝ると言いかねない。そして通学も帰宅も一緒状態になるんだろうと、軽く予想がつく。

 心配性で、近くにいないと落ち着かなくなるみたいなんだよね。何か事件が起こると。

 ……純夜のほうが年上っぽく私の面倒を見てくれるんだよね。中身は私の方が相当年上のはずなのに。

 

 順調にご飯を食べ終わり、食器類を水につけておく。テーブルを拭いたら3人分のお弁当を上に置き、水筒に温かいお茶を入れる。勿論事前のリクエスト通りのお茶だ。

 お父さんはウーロン茶。お母さんは黒豆茶。お茶の種類は私が凝ったから、結構な種類があるんだよね。

 黒豆茶は女性のアレに効果があったりするんだよね。血をサラサラにするっていうのかな。まぁ、個人差はあるだろうけど。


「純君はどうする?」


 残りは純夜の飲み物だけ。


「コーヒーはまだある?」


「あるよ」


「じゃぁコーヒーがいいな。ブラックで」


「ん。わかった」


 2人分あるかな。私も今日はコーヒーを飲みたいし。トポトポと音をたてながら、水筒にコーヒーをいれていく。コーヒーは丁度2人分だったらしく、最後に私の水筒にいれたら丁度よく終わった。

 これで準備は完了。鞄を肩にかけ、純夜と一緒に家を出る。

 いつもの光景。昨日の事が嘘のように感じてしまう。



「そうそう。姉さんに言ってなかった事があってさ…」


「何?」


「ストーカーに付きまとわれていたんだけど、解決したから報告しておくね」


「へぇ……」


 あっさり言われたけど、何て返せばいいんだろう。龍貴から聞いて知っているし、手の平の怪我はその子が原因だし。でも初めて聞きましたとばかりに、不安そうに純夜を見上げた。


「姉さんに害が及ぶ前で良かったよ」


「んー。そうだねって言うべき? でも、もっと早く聞きたかったな」


 色々と手遅れなんだけどね。


「姉さんを巻き込みたくなかったんだ。ごめんね。でも姉さんに被害が出てたら……」


 両手の怪我の理由は墓場まで持っていこう。固く心に刻み込む。


「純君は大丈夫だったの? 先週怪我したのって…」


「俺はそのぐらいだったから大丈夫。後はラブレターしか送ってこなかったし」


「そっか……」


 だから破裂しちゃったのかな。下駄箱事件とか。その子は凄く怖かったけど、純夜が好き過ぎたっていうのもあるんだろうし。私には理解したくない所まで突っ走っていってしまったけど。


「龍と佐山先生が隠しカメラを設置してくれてね。昨日で全てが終わったんだ」


「そっかぁ」


 本当にね。昨日で終わったんだと思うよ。


「純君の怪我がたいした事無くて良かった」


「姉さんにもね。所で、その両手の怪我はどうしたの?」


 純夜からの突然の質問に、身体がビクリと揺れそうになったけど、表には出さずに留めておく。この辺りは流石年の功っていうのかな。


「昨日は聞きそびれたし……今日も病院に行くんだよね?」


「行くよ。ちょっとおおげさに見えるけど、これをやると治りが早いんだって」


「そうなんだ」


「うん。昨日転んだ時に両手を突き出して擦りむいただけなんだけどね」


「たいした事がないならいいんだけどさ…」


 内心汗タラタラの状況。これ以上つっこまないでくれると非常に助かるんだけどね。なんか尋問されているようで内心落ち着かない。当然のように表には出さないけどね。出せば純夜は直ぐに感づくだろうし。

 あ、龍貴だ。


「おはよう」


 これで話題を変えれると思っていたら…。


「おはよう! で、璃音はその手どうした??」


 ……龍貴。君もですか。2人揃って心配し過ぎだし過保護過ぎ。


「ただ転んだだけだよ。2人とも心配し過ぎ。嬉しいんだけどね」


 そろそろ辛くなってきたから、本当に話題をすっごく変えたいんだけどね。


「姉さんは今月、すごくついてないよね」


「そうだな。運動神経は悪くないどころか良いのにな」


「そうだね。どうしてかな。ちょっと油断してたのかも……」


 視線が泳ぎそうになるのを何とか堪え、困ったような表情を浮かべる。本当はここまで怪我をするつもりも予定もなかったんだけどね。


「ご飯作るのも問題ないし、あまり気にしないでね」


 ストーカーの話題も、怪我の話題も隠さなきゃいけない事が多くて直ぐにいっぱいいっぱいになっちゃうんだよね。

 本当の事は絶対に話さないけど。



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