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ストーカー事件・11


 月明かりの下で見た瀬川君はイケメンでした。

 攻略キャラにいても、何の違和感もない。そんな容姿をしている。イケメンが多すぎて既にお腹いっぱいって感じもするんだけどね。


「すごく助かりました。ありがとうございます。あのままじゃ自宅にも帰れなかっただろうし」


 統矢君と合流した後、何度も頭を下げた。自分の見通しの甘さで引き起こした身の危険だったのに、統矢君に尻拭いをさせてしまった。

 頭を下げて礼の言葉を言うだけじゃ全然足りない。


「5人ぐらいだったから軽かった。怪我もしてない。それより……少し考えなしだったな」


「耳が痛いです…」


 本当に耳に痛い言葉です。ゲームだと、こんなふうな行動をする女の子じゃなかったんだけど、私という人間が璃音になる事によって、こんな事をやるような子になってしまったとしみじみと思う。


「助けてもらったのは凄く有難かったんだけど、どうしてこういう状況になってるってわかったの?」


 私は河野さんからメールで呼び出された。それは誰にも言わずに待ち合わせ場所まで行った。この件に関しては疑問でしかない。ひょっとしたら、純夜や龍貴にばれてるんじゃないかと思うと、背中に冷たいものが走り抜ける。


「今朝、清宮は気付かなかったが、近くに俺がいたんだ。その時、あの女が清宮を殺すって言いながら歩いて通り過ぎてった」


 つまり、私が突き飛ばされたのも見ちゃってるかもしれない。


「……そんな物騒な事を言ってたんですね」


 全く気付かなかったな。というか、河野さんが既に穴だらけというか。計画以前の問題なんだね。


「あぁ、声をかけようとしたんだけどな」


「私のクラスメイトが来たから話しかけ難いですね」


 見たかどうかを確認するのも怖いといえば怖い。見たら口止めをしなきゃいけないんだけどね。


「幸い、瀬川の家が清宮の家に近いから、そこを借りて見てたら清宮が歩いて公園に入ってく姿を見てな……」


 本人的には言い難そうだった。言い難い理由もわかるけど、それで助かった私としては何も言えない。


「河野さんはどうしました?」


 男たちを片付けてくれたなら、残された河野さんが気になった。純夜の所に突撃なんかしてないよね。刃物を持っていても不思議じゃない剣幕だっただけに、余計に心配になる。

 でも、そうじゃなくても気になるは気になる。私が言えた事ではないけど、やっぱりこの時間に若い女の子の一人歩きは危険だと思うんだ。

 そんな事を考えながら言ってみたら、2人からおもいっきりため息をつかれた。


「あの女は両親に迎えに来てもらって帰した。一人のまま放置していたら、清宮の家に行きそうだったからな」


「重ね重ねありがとうございます」


 やっぱり皆思うんだね。純夜の所に突撃しそうだって。

 本日何度目かになるけど、頭を下げる事しか出来ない。

 足を向けて眠れないし、隣を歩くんじゃなくて三歩後ろに下がって影を踏まないようにして歩かなきゃ、なんて思う程感謝の言葉を言う事しか出来なかった。

 本当に河野さんの事を言えないぐらい、穴だらけだ。

 そう思って頭を下げていたんだけど、すぐに額に手を当てられ、上を向かせられた。どうやら頭を下げられるのは好きじゃないらしい。

 本人のストップが入ったので頭はそのままにして、改めて2人の顔を見た。この存在感はやっぱり攻略キャラにしか見えない。後日、学校か何処かで私を間に挟みつつ接点を持つんだろうか。

 しかし、新学期が始まってからそんなに経ってないのに、イベントがこれでもかという程詰め込まれているような気がする。

 基本的に出会いの時期だから詰め込まれているんだろうけど。


「手は大丈夫? 少し汚れちゃったね」


 瀬川君が汚れてしまった手袋を気にしてくれるけど、その点は大丈夫。


「部屋にあと2セットはあるから大丈夫」

 

 ハンドクリームを塗った後、手袋をつけて眠る習慣が身についているから、予備があるんだよね。明日は明日で病院に行って見てもらうし。

 大丈夫と言いながら汚れを払っていたら、少し痛かった。ちょっと強く払いすぎた。


「清宮。家まで送る」


 そんな私の間抜けな姿を見ながら、統矢君が言ってくれる。若い子なら兎も角、私は大丈夫だと思うんだよね。


「え……と、大丈夫だよ。近いし」


 あの男たちはもう心配いらないみたいだし。そう思って断ったら、もう一度ため息を疲れた。最近、ため息疲れるの多いような。そんな残念な子に見える行動したっけ。


「こういう時、女一人で帰せると思うか?」


 統矢君の一言。

 口数は少ないけど、的確についてくるんだよね。色々。


「そうだね……うん、ごめん。家まで送ってもらってもいい?」


「勿論」


 そうでした。見た目は高校三年生の女の子だったね。

 けれどこうやって会話を続けていくと、兄とは正反対というか。だから仲が悪いのだろうかと思ったけど、自分が口を出す事ではないからそのまま流した。

 ここから自宅までは徒歩五分。本当に近い。

 誰一人口を開く事なく無言で歩いていく。夜だから暗いは暗いけど、街灯はは明るいし、さっきのアレが嘘のような静けさだった。

 これが純夜と龍貴にばれたら、多分というか絶対に怒られる。それは怖いなと、ぶるりと身体を震わせたけど、それに瀬川君がどうしたの?と聞いてきた。


「弟と幼馴染みにばれたら怒られるなって思って……」


 純夜も龍貴も怒ると長いんだよね。その後はもういいって思う程過保護にくっついてくる。


「怒られた方が良いんじゃないか?」


「そうだね」


 ……統矢君も瀬川君も容赦ないというか……。

 反省は勿論しているんだけどね。やっぱり甘かったと自覚があるだけに耳が痛いんだ。

 家まで送ってもらい、小さな声でお礼を言いながら頭を下げた後、こっそりと部屋に戻った。うん。誰かが部屋に来た痕跡はない。鍵を閉めてあるから開けられる心配はないけど、その代わり入り口にメッセージが書けるようにボードをかけてある。

 そこにも何のメッセージも書かれていない。

 やっぱり一人だけ自室が1階って便利。こんな事で便利だと思ってもどうするんだろうという気がしなくもないけど。


「(ありがとう)」


 窓から見てみると、2人が心配そうに見てたから、声には出さずに口を動かしお礼を言う。その後、ジェスチャーでばれていない事も報告する。

 統矢君と瀬川君が頷き、こっちに背を向けて歩き出した。その2人の背中は、曲がり角の所であっさりと見えなくなった。

 その後姿を見送った後、カーテンをしめて椅子に深く腰掛けた。力が抜けたのもあるけど、自分の部屋がものすごく落ち着く。

 けれど目の前には宿題の山。

 今日の授業の大半が潰れたとはいえ、この山もりの宿題はちょっと酷いんじゃないだろうか。しかも期限は殆どが明日だったりする。

 0時にアラームが鳴る様に設定し、宿題と向かい合い問題を解いていく。

 アラームが鳴るまでやり、残りは朝やって学校でも休み時間を使ってやっていこう。奥の手で真美ちゃんと分担するのもありだなと、メールを送っておく。

 苦手分野が違うから、お互い得意分野をやれば時間短縮にはなる。すると、真美ちゃんも宿題をしていたのか、おっけー。助かるといったメールが直ぐに届いた。

 助かるのは私も同じ。

 一時間にも満たないやりとりだったけど、疲れた──…がこの二時間が勝負。

 私はこの一件の事を奥に押し込め、今度こそ集中してシャーペンを動かした。





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