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ストーカー事件・9


 ビニール手袋を使えば料理が作れる。

 良かった。擦りむいただけで済んで。

 転んだ際、骨までいったら家庭が崩壊する所だった。何たって清宮家の食事を担っているのは私。

 料理が破滅的に出来ない両親は当てにならない。

 惣菜を買ってくるのは確かに楽だし、家庭状況を見た時にそのぐらいの出費だったら十分賄えるぐらい稼いでる両親だけど、それでエンゲル係数が上がってしまうのは私が却下したい。

  台所に立ちながら、心底そう思っていた。





「姉さんこれは?」


「それは丸くして小麦粉、卵、パン粉で」


「わかった」


「璃音。こっちは?」


「それは味見をして、その結果次第」


 手袋をつけて料理をする私を心配して、純夜と龍貴が手伝ってくれるから凄く楽な状況。幼い頃から二人には料理を教えていたから手際がいい。

 男だって台所に立って料理を作れる方がいい!をコンセプトに教えてきたから、2人揃って料理はそれなりにだけど作れる。

 メインは私だけど。


「少し薄いな」


「ん。本当だ。お塩かな」


 コンソメスープは何かが足りない状態。塩を一つまみで丁度良くなったからこれで大丈夫。

 後はコロッケを揚げて皿に盛り付けるだけ。

 既にキャベツは切ってあるし。

 あぁ、でもベーコンを少し厚めに切って焼こうかな。自宅で桜チップを使って作ったベーコン。厚切りで焼いたのが美味しいんだよね。

 冷蔵庫の中身と睨めっこしながら、付け合せに悩む。

 ポテトサラダでいいか。コロッケと被る材料はあるけど、厚切りベーコンと混ぜて作ってしまおう。余ったら明日のお弁当のおかずにして、早々と作り始めた。

 夕食の余りがあるち、お弁当作りはちょっと手抜きをしちゃうんだよね。この分でいくと明日のお弁当は相当楽になりそうな感じ。後はトマトと卵焼きでも作って完成させてしまおう。


「璃音ー。携帯が光ってるわよ」


「ん……なんだろ」


 この時間帯は夕食を作ってるって知ってるから、あまりこないんだけど珍しいな。急ぎだったら困るから、手を洗って携帯を確認する。

 知らない番号から電話とメール。

 何だろうと思いながら内容を確認した後、携帯を閉じた。

 これは後回しにした方がいいよね。


「どうしたの?」


「何が?」


「ううん。無言だったから何かあったのかなって」


「そっか、今日の事と手は大丈夫?っていうメール」


「……本当に大丈夫だった?」


 純夜が見る前に包帯が巻かれているから、怪我の状態を把握していない純夜が辛そうに聞いてくる。


「うん。大丈夫。病院にも行ったし。処置してもらったらずいぶんと痛みが薄れたよ。普段は行かないんだけど、やっぱ病院に行くと治りが早い気がするね」


 明日も行くんだけど、本当に痛くないんだよね。


「明日、荷物持ちするから」


「俺にも頼ってな」


 2人から言われ、少し笑い声を漏らしながら礼を言った。


「2人ともありがと」


 こんなに可愛い弟と幼馴染がいてくれて本当に良かった。

 居てくれるだけで癒される。


 その日の夕食は龍貴を交えた5人で食べた。

 2人とも料理の腕はあがってるなぁ。知らない間に。でも美味しいし、この分でいくと明日のお弁当は彩り良く作れて楽に済むね。

 この後は忙しくなりそうだから、明日の朝は楽をしたい。


 夕食を食べた後、いつも通りにお風呂に入った。

 お気に入りの入浴剤をいれて、身体も心もリラックス。


「それじゃ部屋に戻るね。おやすみー」


 その後はリビングに顔を出し、いつものように声をかけてから部屋に戻る。

 Rion roomの小さい看板の下にはフックをつけてあり、そこに別の看板をかける。

 “ただ今勉強中。用件は携帯にお願いします”の手作り看板。この看板をかけている時は凄く集中したい時だから、誰も部屋に入ろうとはしない。

 鍵をかけてあるから開ける事も出来ないし、イヤホンで音楽を聴いているから扉を叩く音にも気づかない。


「久しぶりだね。その看板」


 お風呂上りの純夜に言われたが、それに苦笑しながらもうなづく。


「今日のアレで、宿題が沢山出たの」


 扉を開けて、純夜に机の上を見せる。


「うわ…」


「純君のクラスは?」


「俺の所は少し出たけど、そんなには出てないや」


「学年の違いかな。純君、風邪をひかないようにね。ちょっと濡れてるし」


 それに今までストーカー事件で大変だったと思うしね。精神的にも疲れてると思うんだ。


「気をつけるよ。姉さんも程々にね」


「うん。程々にやっとく。それじゃあおやすみ」


「おやすみ」


 2階に上がっていく純夜を見送りながら、私も部屋の中に入り鍵を閉める。私の部屋は1階。純夜と両親の部屋は2階。

 この配置は、こういう場合凄く助かる。まぁ……こういう事態は初めてなんだけどね。

 私の部屋から外に出ると、ちょっとした畑がある。趣味で手軽に収穫出来るものを作ってるんだ。畑の管理と、台所から近いという理由で私の部屋が1階にしてくれた。

 しかもここの真上は物置用の部屋になっているから、純夜や両親が2階の窓を開けても私が庭で作業している姿は一切見えない。

 こういう時は凄く楽だと再確認しながら、メールの内容を確認する。



 PM21:00。公園まで来い。 江里佳。



「……」


 何処から私のアドレスを入手したのかわからないけど、今回の犯人からの呼び出しに、私は機嫌の悪さを隠さずに携帯を閉じた。

 今回の犯人はただ純夜が好きだっただけなのかもしれない。

 でも、私の友人に危害を加えようとした事も、純夜に怪我をさせたのも許せない。

 多分だけど、真美ちゃんと私の会話も盗み聞きをしたんだと思う。私と真美ちゃんの靴箱はペンキ以外のものを仕掛けられていたから。


「格好はこれでいいかな」


 ジーパンにTシャツ。その上には長袖のパーカーを羽織る。髪は一まとめにして縛り、帽子の中に押し込めた。


 やっぱり、こういう状況だと動きやすい格好の方が良いと思うんだよね。 




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