ストーカー事件・河野江里佳視点
その人に出会ったのは今から1年前の事。
新入生たちの中に彼はいた。
まるで出会う事が運命だったかのように私を追いかけてきてくれた。
彼の名は清宮純夜。
私と想いあう為に、私と出会った純夜。
「新入生ですね。この花をつけて下さい」
そう言った私に純夜はありがとうございます、と答え、私にだけ微笑んでくれた。
貴方も焦がれていたのね。私と同じように。
運命の相手と出会う事を。
大丈夫よ。
ここには私がいるから。私と出会ったから。
もう寂しい思いはしなくてもいいわ。
それなのに、彼は中々来てくれない。
自分が私の元に来る事によって、私の邪魔をすると考えてしまっているのね。友達と呼べる存在なんて貴方との時間に比べると、その辺りの塵芥と変わりないのに。
それでも、それが貴方の心遣い。
大丈夫よ。
私に会いに来ても大丈夫。
私の事を愛しすぎた貴方は、廊下ですれ違うと照れているのかそっと目を伏せる。けれど私は知っている。
私には気づかれていないと思っているでしょうけど、ずっとずっと私を見ていた事を、私は知ってるわ。
渇望するかのように、熱い眼差しを私に向けてきている。その熱さが、もう我慢できないと訴えている事もわかっている。
私もそうだもの。
けれど求め過ぎて壊す事を恐れる貴方は、中々私に触れられないでいる。
大丈夫。
大丈夫よ。
二人でいれば、後は満ちるだけ。
その証拠に、私の行く場所に彼は来る。
私を見つめる為に。
ほら。いつものように熱い眼差しを向けてきてくれる。
わかっているわ。
私に会いに来るのは、焦がれて仕方ないって。
どうしようもないって。
私も、同じ気持ちよ。
「純夜」
いつでもいいのよ。
抱きしめて、私だけを愛してくれて。
あぁ、愛しい純夜。
今日も彼は、私に会いに来る。
「姉さん」
棚をはさんで私だけを想う純夜。
彼は優しいから、姉を迎えに来たらしい。
私は大丈夫よ。貴方に愛されている事をわかっているから。
本当は身内なんてほっておいて、私と愛し合いたいんでしょう。
でも彼は優しすぎるから、図書館で眠ってしまった身内をほっておけず、姉に声をかけた。
本当は私と会う為に来た図書館。
私と出会ってから一年。
彼は私にプロポーズされる為に図書館に来たはずだった。
結婚は彼が卒業してからだけど、彼は私を愛しすぎて我慢出来ないみたい。それは私も同じ想いよ。
「姉さん起きて」
純夜が身内だからって、甘えて彼に色目を使う女。
貴方何て彼に時間を使わせる事自体身の程知らずなのに、それには気づかずに彼に迷惑をかけてくる邪魔な女。
「起きないね…」
そんな女、ほっておいていいのよ。
身内だからとばかりに貴方を束縛する女なんて、貴方が面倒を見る必要なんてない。
「璃音……」
ねぇ純夜。こっちに来て。
いつものように私を抱きしめて。
「好きだよ」
棚をはさんで私と向かい合う純夜。
何故かいつも呼ぶ私の名前じゃない女の名を呼び、頬に口付ける。
「璃音」
姉なのに。
姉弟なのに。
彼に色目を使う女。
貴方はいつまで彼に……純夜に甘えているの?
いい加減に気づきなさいよ。
迷惑をかけてるだけって。
ブスな女が彼の姉だと浮かれまくって、束縛している身の程知らずな馬鹿な女。
土下座して彼に謝ってよ。
「ん──…あれ?」
「姉さん。家に帰ろっか」
「…もうこんな時間なんだ……ん。帰る」
私に会いたがっている純夜を無理やり連れ帰る女。
死んでお詫びすればいいのに。
死ねばいいのに。
「貴方なんて大嫌いッッ!!」
彼の優しさに付け込んで、キスまでさせて。
貴方なんて消えてしまえばいい。
私はその背中を、勢いよく押してその場から駆け去った。
早く早く早く早く早く。
私を迎えに来て!!
もう待たなくていい。
遠慮なんてしなくていい。
人目なんか気にしないで愛している私を抱きしめて。
ねぇ、純夜。




