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ストーカー事件・8



 病院で両手の治療を終えてから学校へ戻ると、学校全体で掃除をしていた。罠の殆どがペンキで、既に掃除の依頼はしているらしいんだけど、その前に出来る事をしているらしい。

 先生たちは全員会議に入ってしまっているし、靴はペンキで汚れて使い物にならない。一応落とす努力をしているのだが、新しく購入する羽目になりそうだ。ビニールの手袋をつけて片付けに掃除に参加してみる。


「状況はどんな感じ?」


 こっそり真美ちゃんの隣に入り、情報を聞こうとしたんだけど頬を掴まれた。


「…どうしたの?」


 あまり掴む肉はないとは思うんだけど。


「この怪我……一人にしてごめんね」


 突然謝られ、驚きの表情をしてしまう。


「ううん。これは私の不注意だから」


 私の両手の怪我を気にしている真美ちゃんに、首を横にふる。しかも真美ちゃんに先生に知らせてきて、と言ったのは私の方だ。


「武長先生にばれてるのよ。こっそり教えてもらったの」


「……」


 どうやら鷹野先生の言う通り一部始終が撮れていたらしい。

 純夜と龍貴の耳に入るのも時間の問題ないなのかもしれないけど、出来ればここでストップしておいてほしい。


「それでね璃音」


「うん」


「怪我人はおとなしく保健室で休んでなさい」


「片付け…」


「怪我人はおとなしくしてるの!」


「……はい」


 真美ちゃんの迫力に押され、結局掃除は手伝えずにもう一度保健室で休む事になった。ちゃんと外気に触れないようにしてもらったから、痛みは殆どないんだけどね。

 教室じゃない理由は、一人の時に何かあったら困るから、と言われ何の反応も返せずに言われたまま保健室の扉をくぐる。


「お邪魔します。先生、怪我人は保健室で待機って言われました」


「そうでしょうねぇ。折角だからコーヒーを煎れてあげるわ」


「ありがとうございます。いただきます」


 コーヒーは好き。

 鷹野先生が煎れてくれるコーヒーは美味しいんだよね。

 椅子に腰をおろし、ボーとしながら窓の外を見つめる。こうやっていると、下駄箱事件があったとは思えない程日常の風景だ。

 聞いて間もないストーカー事件がこんな風に襲い掛かってくるなんて、想像もしていなかった。


「先生……どうなるんでしょうか?」


 何が、とは言わず、聞いてみる。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 鷹野先生に礼を言い、コーヒーを受け取る。カップは温かく、一口飲めばほんのりだけど身体が温かくなったような気がした。


「転校でしょうね。退学にしても良いぐらいよ。怪我人までだして」


「他にも居たんですか?」


 鷹野先生の口調が、私の事だけを言っている口調には思えず尋ねてみる。すると、鷹野先生がため息を吐き出した。


「二年生の子たちがね。ペンキが顔にかかって大変だったのよ。三年生はあなたが気づいてくれたから、被害者は貴方だけだったけど」


 どうやら私が一番に学校に来ていたらしい。いつもより少し早めに出たのが良かったのかな。


「そうなんですか」


 ペンキが顔に……。あれは勢いがあったから、目や鼻、口にも入ったのかもしれない。大騒ぎになったんだろうなと、今更ながらため息を落とした。


「今回の被害者の一人が問題でね。家は大手チェーン店の社長の娘なの。今は校長室に怒鳴り込んでる最中だったりするのよね」


 アハハと笑い声をもらす鷹野先生だけど、それって全く笑えない事態に陥っているんじゃなかなと思うけど、口に出す事はやめておいた。


「今回の犯人の子は……」


「明日から来れないでしょうね。自業自得よ。何もかもね」


「……」


 心底楽しんでいる鷹野先生。何も言えずに口を噤む事しか出来なかった。改めて、鷹野先生が怖いとも感じた。

 そう思うものの、コーヒーの美味しさと、先生の綺麗な笑みを見るのは好きだったりする。今回の件は、加害者に対しての笑いだろう。

 私は、椅子に深く腰掛け、後味の悪さを感じながらも別の事を考え始める。

 そういえば、佐山先生のフラグはどうなったんだろう。

 佐山先生は純夜のクラスだから、問題なくフラグはたったとは思うんだけどね。思うんだけど心配というか。

 龍貴からのメールが来てから数日で解決するって事は、裏ではずっと動いていたんだろうし。私の危険には過保護なのに、純夜も龍貴も自分の事は殆ど話してくれない。

 それは私が頼りない部分が多いからだろう。

 もっとしっかりしないと。そう決意を固めていたら、鷹野先生に笑われた。


「相変わらず色々と背負っちゃう子よね」


 言っている間も笑いは止まらないらしい。そんなにツボだったんだろうか。


「もう少し肩の力を抜きなさい。折角美人に生まれたんだから、それを活用すると楽よ」


「結構肩の力は抜いていると思っているのですが……」


「重症ねぇ。根っからのお姉さん体質なのかしら」


 真面目な表情の鷹野先生もやっぱり美人でかっこいい。

 顔も当然のように美人なんだけど、表情や仕草も綺麗で非の打ち所がないっていうのは、こういう人の事を言ってるんかもしれない。

 ストレートな黒紫の髪を一まとめに縛り、下へと垂らしているけど、天使の輪っかは当たり前のように綺麗に輝いている。

 先生をジィッと見ていたら、今度は甘めのカフェオレを作ってくれた。


「甘いのでも飲んで、少しは力を抜きなさい」


「……ありがとうございます」


 どうやら相当心配をかけたらしく、二杯目の飲み物も貰えた。鷹野先生に飲み物を煎れてもらえる生徒の数はそこまで多くない。

 仲の良い人限定で煎れてもらえるある意味レアなイベント?だ。

 イベントといえば、今回のイベントの結末には驚いた。まさか隠しカメラを設置しているとは思わなかった。しかも下駄箱にペンキやら薬品の罠を設置するのも、大体の人はやらないだろう。

 力を注ぎ込む方向性は兎も角、それをやってしまえる精神状態と根性に脱帽するのか苦笑いを浮かべるのか。私は後者だけど。


「(そういえばストーカーイベントってこんなに早い時期だっけ…)」


 GWの前だったのは覚えているけど、もう少しGWに近かったような気がする。

 大まかに覚えているだけだから、自信は全くないけど。

 このイベントに璃音は関係なかったから、蚊帳の外状態だったんだよね。それなのにイベントの裏では怪我をしていたなんて思わなかった。

 というか、璃音の怪我のイベントが多いような気がするんだけど、このまま一年間もつんだろうか。実はそっちも心配だったりする。

 ただ単に私が注意すればいいだけなんだけどね。


「(あぁ……でも、これで純夜が付きまとわれずに済む)」


 とりあえず、ストーカーのイベントが終わって良かった。それだけは心底思う。







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