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ストーカー事件・7



 3-Cは他のクラスと比べても仲が良い。イベントをやるにしても参加率は高い。打ち上げの欠席者は全員参加が珍しくもない。

 皆でパッと盛り上がる。イベントが大好きで団結力で勝利をもぎ取っていく。

 いざという時は男の子は頼りになるし、このクラスで良かったと思うのは私だけではなく、他にも沢山いる。

 そんな3-Cと、純夜の2-Cは全部。2-Aと2-Bは全部ではないけど、幾つか仕掛けられていた。2年については時間が足りなかったのか、道具が足りなかったのか、全員ではなく一割程度の被害で済んだ。 

 急遽教師たちは会議を開き、下駄箱は業者を呼んでやってもらっている。そんな理由で自習となった1時間目。私は武長先生の許可を取る前に久美子ちゃんに問答無用に保健室へ行きなさいと送り出された。

 


「そこまで深いわけじゃないけど、病院で見てもらった方が良いわね」


 保健室の鷹野透先生。

 とっても美人で女装が似合う人だったりする。親しくならない限り本来の性別には気付かないだろう。


「そうですか……早退して行ってきた方が良いですよね」


「そうねぇ……ちょっと待ってなさい」


「はい…」


 鷹野先生の言う事には逆らってはいけない。

 これは暗黙のルールになっている。

 何処かに内線電話をかけ、鷹野先生は私をどうするかを話しているらしい。


「その間保健室頼むわよ」


 どうやら結論が出たらしく、鷹野先生が病院に連れて行く事になったみたいだ。


「行くわよ」


「はい…」


 鞄を肩にかけ、扉を開けてくれる。どうやら手を使うな、という事らしい。折角なので鷹野先生に甘え、やってもらう事にした。


「こっちに座ってね」


「はい」


 助手席に座った後、ふと思うのはクラスの事。今頃、教室では凄い事になっているんだろうなぁ。こんな事を体験するなんてほぼないだろうし。私の怪我を心配して押し付けるように渡された袋の中には、絆創膏や消毒液に始まり、ガムや飴や小腹が満たされそうなちょっとしたお菓子たちが入っている。

 その後武長先生に保健室に押し込まれたわけだけど、このそれなりに大きい袋パンパンのお菓子たちをどうしろというのか。勿論食べてという意味だろうけど、一人では食べれそうにない量。

 家で家族と一緒に食べようと思いながら、私は前を見つめていた。早めに治れば良いんだけど。食事は私が作らなければ、どうなるかわからない不器用な両親2人。

 落ち着いてきたら手の平は痛いし顔もちょっとヒリヒリするし。顔については保健室ではひたすら水で洗い流してたから随分マシになったけど。

 でもあの子の表情は恐かった。今まで見た人の中で1番恐かったと思う。

 仕掛けられたのは、主にペンキだったらしいけど、その中でも多分純夜の近くにいる私に対しては、ある意味特別だったのかもしれない。だからこそ私の下駄箱には他の薬品が使われていたんだろう。


「……」


 イベントでは龍貴が証拠を集めて、佐山先生とタッグを組んで犯人の子を追い詰めたような気がする。

 純夜本人に害がなければ良かったんだけど、害があったんだよね。もう殆ど治ってるけど、ストーカー被害だよね。その件については私の中での怒りは収まっていないけど。


「気になる?」


「…え…と……」


 鷹野先生に突然言われ、咄嗟に答えられず言葉が詰まる。

 気になり過ぎて、怪我をしてしまった自分の間の悪さをどうにかしたい程度には気になってる。

 今学校の中ではどうなっているんだろうって。

 私の表情を見た鷹野先生が笑みを浮かべた。

 意味ありげな表情。


「犯人はねぇ、もう撮れてるのよ」


「……え?」


 鷹野先生が行った言葉の意味を理解出来ず、私は間抜けな表情を浮かべ先生の顔を見てしまう。


「少し前からあったのよ。今日程大掛かりなモノではなかったけど」


「それ、私に話しちゃっていいんですか?」


 撮れているという事は、先生たちは今頃犯人の子をどうするか話し合ってるという事かな…。


「ふふ。良いわよ。貴方は犯人の顔を見たものね」


「……ノーコメントでお願いします」


 3年専用の玄関にカメラが仕掛けられたかはわからないけど、仮に仕掛けられたとしても鷹野先生が確認出来る時間はなかったはず。それなのに断定出来るってどれだけ観察力が凄いのか、それとも私の表情を読んでいるのか。


「相変わらず意地っ張りね」


「……」


 鷹野先生は、人の内面を見透かすようで少し怖い。


「怖がらなくて良いわよ。

 貴方の事を可愛がっているから、不利な事はしないし、両手の件も隠しておくわ」


 だからそれにどう反応すればいいのか。

 私の心配を読み取り、正確に言葉を伝えてくる。


「……」


 どんな言葉を返して良いか分からず、鷹野先生を見つめた。


「鷹野先生はもっと自分自身の事を理解して下さい。綺麗で美人でかっこいい先生にそんな風に言われたら、緊張して何も言えなくなります」


 結局、喉から出掛かった言葉は飲み込み、別の事を言ってみる。


「貴方は言ってる方だと思うわよ」


「でも、言うだけしか出来ません」


 見た目はものすごく美人な先生。

 美しいものには棘があるを地で行く人だと思う。確か資料集で見たけど、男でも構わないと言う生徒が結構いるんだよね。


「ふぅん……まだ足りてないのにね」


 クスリ、と笑いを滲ませながら、先生が笑った。

 綺麗な笑み。綺麗過ぎる微笑み。

 思わず、背筋に冷たいものが走り抜けたと同時に、見惚れてしまった。この鷹野先生の笑みに言葉を詰まらせるのはきっと、私だけじゃないはずだ。






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