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ストーカー事件・5




 ドキドキとしながら授業を受けていたけど、特に問題もなく時間だけが流れていく。でも、それは当たり前か。授業中に仕掛けたら犯人は自分だと宣言しているようなものだし。

 一応授業に集中しようとボードの方を見ているんだけど、やっぱりというべきか頭の片隅にはストーカー事件の事がある。

 これから悪化するのか。どうなるのか。正直にいえば覚えていない。純夜に危害を加えたのは1回だけ。他は龍貴と佐山先生にガードされて危害は加えられなかったはず。純夜サイドで見ていても、相手も知らずに転校していってしまった。

 調べようと思えば調べられたんだけど、ゲームではあえて目を瞑ったんだったよね。龍貴や佐山先生に負担をかけないように忘れようとしたんだっけ。


「(その子はどういう気持ち私の靴を隠したんだろう)」


 それで純夜にすかれるわけではないのに。

 考えていたら気分が沈んでいく。って私が沈んでどうするの。あくまで被害にあってるのは純夜だ。私はおまけに過ぎない。

 それにもうじき解決するから、龍貴もメールを送ってきたんだろうし。最後の足掻きを心配してただけだろうし。

 寧ろこれで終わって欲しい。純夜に対して危害が1回。それはまだ起こっていない。ゲームの中で璃音が純夜を心配するシーンがあった。誰の好感度が1番か聞いた時、『純君。怪我は大丈夫? 無理しないでね』と、誰かの名前を言う前に璃音がそれを言ったのだ。


 “怪我”。


 可愛い可愛い大切な弟。その弟である純夜が怪我を負う。出来たらソレは阻止したい。好き好んで家族が怪我を負うことを良しとする人は殆どいないだろう。

 ポキッと芯が折れた。どうやら力を加えすぎたっみたい。目立つ音じゃないから気付いた人はいないだろうけど。


 放課後になって恐る恐ると下駄箱を開けてみたけど、帰りは大丈夫らしい。やっぱり人の眼が多いから罠を設置しにくいんだろうね。見られたらやっぱり即ばれるだろうし。

 今日の帰りは武長先生が恐いので、真美ちゃんと一緒に帰りましたとも。

 武長先生も恐いけど、真美ちゃんの方が恐いからね。恐さの度合いでいったら真美ちゃんが最強です……。






 まだ人が少ない職員室の扉を開けた。朝一番で渡したかったモノを渡すために相良先生の姿を探す。探すといっても職員室には相良先生しかいなかったけど。


「おはようございます。相良先生」


 事前のリサーチは十分。真美ちゃんの情報網で相良先生はベリー系のタルトが好きらしい。それとシンプルなクッキーを焼いてここに来た。

 勿論、渡す相手は相良先生。昨日の件で迷惑をかけたお詫びとしてラッピングして持ってきたけど、受け取ってくれるかはわからない、


「おはよう清宮さん。今日は早いんだね」


「はい。相良先生に昨日のお礼です」


 袋を先生に見せると、相良先生が口を開く前に畳み掛ける。


「ベリーのタルトにココナッツクッキーです」


 相良先生の好みを正確に把握したお菓子を前に迷う相良先生。


「受け取ってくれないと、武長先生のお腹のな……」


「ありがたくいただくよ」


 私の言葉を遮り、相良先生が口を開く。

 相変わらず武長先生がネックなんですね。わかります。武長先生には負けたくはないですよね。

 武長先生の迷惑の被害者は間違いなく相良先生だろう。

 あの自由奔放な武長先生のフォローは大変だろうと思うが、昨日は私の話しを聞く為に相良先生に動いてもらった。


「今日は大丈夫だった?」


「はい。何もなかったです」


 そうなんだよね。何もなくて逆に吃驚。それが表情に出ていたのか、袋を持っている逆の手で私の頭を撫でてくれる。

 あ……すごく優しい表情。いつもは無表情に近いから珍しい。可愛いなぁ……なんて年上視点でそんなふうにおもってしまう。

 武長先生は純夜の攻略相手だけど、相良先生は違うんだよね。何でだろ。そんな疑問が浮かぶ程攻略相手であっても不思議ではない相良先生。


「相良先生はホッとします」


 本当に和み系。いいよね。この和む感じ。

 心底謎。こんなにこんなにかっこよくげ優しい先生なのに。不思議に思いながらも職員室を出て教室に戻る。

 今朝、何もないからといって油断していたのかもしれない。仕掛けを作るのは下駄箱だけじゃない。純夜の事を気にしていたのに気付かなかった。

 それは1時間目が始まって直ぐ、武長先生が教室に顔を出し私を呼んだ。荷物を持ってこいと言われた。何だろう。何かあったのかな。嫌な感じがする。

 胸がドキドキする。嫌な予感をひしひしと感じながら、私は保健室へと連れて行かれた。保健室……。ひょっとして純夜が怪我をしたんじゃ……。恐る恐る保健室を見ると、手に包帯を巻かれた純夜の姿が見えた。


 ストン、と漸く落ちてきた。

 これだ。今日下駄箱の中も机の中も私は大丈夫だった。今日もある事を覚悟していたから、逆に何もなくて拍子抜けしたぐらいだ。机の鍵ぐらいは壊されても不思議じゃないと思っていたし。

 純夜も気をつけていただろうけど、まるで自分だけのモノだと所有印を付けられた気がした。


「純君大丈夫? 怪我はどのぐらい?」


 包帯が巻かれていて、怪我の程度がわからない。

 不安な表情か隠せず、純夜に駆け寄る。すると、鷹野先生が『大丈夫よ。傷は深くないから』とフォローの言葉を言ってくれた。


「そうだよ姉さん。少し血は出たけど、深くはないんだ」


「用心と、犯人にこんなに怪我をさせたんだぞっていう脅しよ」


 あっさりと鷹野先生が言ってのけた。

 そうなんだ、良かった。情けない事にホッとしたら力が抜けて、その場に座り込んでしまった。あぁ、立てなさそう。


「相変わらず心配性ねぇ」


 なんて言いつつ、私を立たせてくれた鷹野先生。美人だけどやっぱり男の人なんですね。この腕力。


「ありがとうございます」


 椅子に座らせてくれたので、へたり込まずに済んだので、頭を下げながらお礼を言う。


「少し、何かを考えなかった?」


 その時、にっこりと笑った高野先生。笑顔なのにすごい恐いというか……お願いですから心を読まないで下さい。


「すいません。やっぱ力はあるんだなと思ってしまいました」


 私と変わりがあるようには見えないんだけど、脂肪と筋肉の差ですね。若干というか、その言葉で収まらない程触った感じが違うんだよね。

 いいなぁ、何て見てたら何故か背を向けられた。

 ……不穏な視線を無意識に送っていたらしく、純夜が笑った。あ、良かった。笑ってくれた。不自然じゃない、純夜の楽しげな表情。

 その表情が出たなら本当に良かった。


「見つめ合ってる所悪いんだけど、今日は二人一緒に帰って良いわよ。弟君の荷物は璃音が持つのよ。

 見せ付けたいから」


 鷹野先生の言葉に頷き、自分と純夜の荷物を肩にかける。


 純夜の怪我はこれで最後にしてほしい。

 大切な弟の怪我なんて見たくもないよ。本当に。




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