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ストーカー事件・4


 2時間目の授業が終わり、私と真美ちゃんは教室に戻った。散々怒られて心配されて、先生と携帯のアドレスと番号を交換したりとか、中々濃い2時間だった。

 主に心配が9割だったと思うけど。


 イベントを思い出そうとしても、解かるのは純夜と龍貴と佐山先生の大まかな行動だけ。璃音は一度も絡む事なく終わった印象しかない。

 それなのにターゲットにされた私。

 今回の件は武長先生から知らせるらしい。それについて思った事はただ一つ。怪我をしなくて本当に良かった。怪我をしていたらどうなっていたか。

 ただでさえ過保護にに守られ過ぎているのに、それが悪化するのは間違いない。休み時間の度にメールを頂戴、なんて事を言いかねない。

 本当に良かった。下敷きでガード出来たのもあるけど、お水で良かった。少しかかったけど、水だからもう乾いているし問題ない。

 真美ちゃんと一緒に教室に戻り、三時間目と四時間目も問題なく無事終了。

 授業中に何か仕掛けてきたら逆に吃驚するけどね。一人にはならないって約束したから、椅子から立たずに待っていた。今日は統矢君と最初から最後までご飯を食べよう。

 そんなふうに思っていたら、いつものように統矢君が私の前まで歩いてきた。が、少し手前で止まった。


「……何かあったのか?」


 一応いつものように統矢君のお弁当も机の上に置いて、お茶を用意してみたんだけど、何かに感づいたらしい。凄く感がいい。それにはいつも驚かされる。


「一人になるなというお願いを聞いた結果でこうなったの。心配性が多いからね。心配してくれるのは嬉しいんだけど、心配のされ過ぎは逆にこっちも不安になるんだよね」


 何か無性に私が無事なら良いと言われている気分になるというか。

 優しい人たちが多くて、本当に逆に心配になってしまう。


「そうか。それじゃあ教室に誰かが戻ってくるまでここにいる」


「ありがと。これで武長先生と真美ちゃんに怒られずに済む」


 この2人というか、武長先生と食べると、やっぱり先生と生徒が──…なんて言ってくる人がいるから、武長先生とは食べれない。

 真美ちゃんは昼休みは許可をとって家に戻っているから、一緒には無理。

 純夜と食べるのはストーカーさんを煽る事になるから無理なんだよね。統矢君の優しさに付け込む形になってしまったけど、明日にお礼のお菓子を焼いてこよう。クールで無口そうな外見とは裏腹に、甘いものが好きで私が作ってくると、嬉しそうに受けとってくれる。

 心底とばかりの賞賛を受けるとは思ってもいなかった。

 ただの趣味で、プロとは程遠い味なのに、売ってるものと同じぐらい好きって言われたから、ちょっと何処ろじゃなくかなり照れたけど。


「そういえば当たり前のように弁当を受け取ってたけど、大丈夫か?」


 ずっと気にしていたのか、申し訳なさそうに聞いてくる。


「気にさせてたんだ……でも大丈夫。4人も5人もかわらないから」


 自宅で出来る仕事をやっているのに、何故かお弁当を要求してくる両親。おかずを皿の上に乗せて。冷蔵庫に入れて置きたいというかそっちの方がはるかに楽なのに、お弁当箱で食べるのが好きだという両親の為に、毎朝お弁当箱に詰めている。それを考えると、4つから5つに増えたお弁当作りなんて苦にもならない。

 お弁当の件だって私から言ったわけだし。


「統矢君は真面目だね。朝食から始まって10時と3時のおやつに昼食夕食。果てに夜食なんて数年前から作ってるから、全然気にしなくても大丈夫」


 ぱくぱくとご飯を口に運びながら答えると、統矢君に何故か可哀想なとばかりの眼差しを向けられた。

 ……理由はわかるので、あえてそれには触れないでおく。


「受験勉強出来てるか?」


 思わずとばかりに聞いてしまった統矢君に、とりあえず笑っておく。璃音の頭脳は前世の私なんかが足元に及ばないほど基本性能が良い。元々出来ないなりに勉強はやっていた。その他の事に色々手を出していたら多趣味になっていただけ。それは今も変わらない。

 勉強も問題なく出来ている。それに家族が私の手料理を食べて美味しいって言ってくれる事が嬉しくて、私も何も言わずに作ってるから問題ない。


「受験勉強も出来てるから大丈夫」


 ガサゴソと手提げ鞄の中から幾つかの袋を取り出す。袋が透明なので中に何か入ってるかは一目瞭然。


「“も”……なんだな。所で、嬉しいけど最近多いな」


 私のお菓子は何故か有名になっていて、よく友人に頼まれる。統矢君にもそのついでだけどお菓子を押し付けるから、気になっているのもしれない。


「勉強はやっているから大丈夫だよ。本当に。焼いてる時間は暇だし」


「……出来るのは知っているんだけどな」


 模試の結果だけ見るなら、余裕の合格圏内だろう。ただ、最近お菓子作りを頼まれる回数が多いから、気になるんだろう。


「そろそろ飽きてきた?」


 最低でも3日に一度は渡しているから、いつ飽きてもおかしくはない。


「飽きてはいないが……志望大学は何処なんだ?」


 どうやら飽きてはいないらしい。

 まぁ、1、2年の頃は一ヶ月に数回。でも2年の頃。もうじき3年になる頃に他の大学を受験するという話をしたら、頼まれる回数は確かに増えた。

 材料代を受け取るんじゃなく、既に購入済みの材料を受け取ってガッツリと作るから、費用の心配は一切ない。ラッピングは希望者のみで原価で受け取ってる。それにリクエスト分を超えたお菓子は私の好きにして良いって許可を受け取っているから、他にこうやってあげる分にも問題はなし。


「第一希望は東理。第二は聖清女学園」


「どっちも高いな。が、余裕の合格圏内か」


 お互い模試の結果を知っているから、あまり心配はしてない。


「統矢君は?」


「第一は同じだな。そこしか受けるつもりもないが」


「そっか」


 統矢君はお兄さんと離れたがっている。お兄さんは私も苦手なんだけどね──…距離感が近すぎるんだよね。初対面でもほっぺにキスとか平気でやっちゃうし。

 ただ、統矢君が外部受験をする理由は嫌っている兄──桐矢君と距離を取る為と、第一希望に東理を選んだ理由は誰にも文句を言わせない為だろう。

 確か、桐矢君は成宮学園の大学を卒業するって言っていたような気がするから、統矢君とは離れ離れになるのは確か決定してるはず。うろ覚えだけど。

 そんな事を考えていたら、いつの間にか帰ってきた真美ちゃんが大量の袋の中から5つぐらいを両手で持ち、私の隣の席に座る。


「これ、お店で売れるんじゃない?」


「俺も思う」


「……」


 いっきに話がずれた気がする。

 ワザとだろうけど。

 話をしながら食べ終わったお弁当をしまい込み、統矢君に3袋渡して教室を出て行くその背中を見送った後、残りの袋を机の上に並べる。


「近くで見た事なかったけど、兄の方とは随分雰囲気が違うのね」


「あぁ。うん。表情も違うし、別人に見えるよね」


 一卵性のはずなんだけど、どっちがどっちでしょう、なんてゲームをやったら、10回中全て当てる自信がある。


「そう」


「うん」


 真美ちゃんの苦笑いに、とりあえず笑顔で応えておく。

 取り合え得ず笑っておけばいいかなぁ、とか軽い気持ちだったけど。






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