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ストーカー事件・2




 ドナドナでした。本当に二対の眼差しが突き刺さりそうですよ。冗談抜きで。てっきり真美ちゃんだけに詰め寄られるかと思っていたら、連れてこられた場所は準備室。科目は理科です。

 何も武長先生とタッグを組まなくてもいいのになぁ、何て思っていたら2人の笑顔が濃くなった。どうやら私が何を考えているかわかったらしい。

 そんなに表情に表れやすいのかなぁ。今度鏡で確認してみよう。


「1時間目と2時間目は自習よ。だから心置きなく話し合いましょうね」


 突然の真美ちゃんの言葉。


「え? 自習って……」


 自習になりそうにない先生方なんだけど。


「先生方とは穏便に話したから大丈夫。ちょっと課題をやるって事で特別免除。武長先生と佐山先生にお礼は言ったから、璃音は気にしなくていいから」


 自主的な自習をもぎ取ったという事だね。いきなり準備室に押し込まれたと思ったら、武長先生に一筆書いてもらって準備室を出て行った。一体何をやっているのかと思ったんだけどそれだったんだ。


「さて、順番に机の上に並べ、分かりやすいように付箋で番号を貼り付けたけど、何かわかる?」


 真美ちゃんが私と武長先生を交互に見ながら言う。


「下敷きは飛んできたものを弾いて、そのタオルは私の下駄箱を拭いて汚れたやつだよね」


「正解」


「正解って……目の前で起こった事だから流石に分かるよ?」


 真美ちゃんが満足気に頷き、武長先生の眉間に皺が寄る。何処となく口がへの字に曲がっているような気がするけど、気のせいという事にしておこう。


「ナンバー1と2は璃音の言う通り。3以降の場所は教室。ナンバー3は壊された引き出しの鍵。4は色々書かれたメモ帳。5は切り裂かれたハンドタオル。6は真っ黒に塗られたノート1冊」


「新品ノートで何も書いてなかったから置いてったんだよね。メモもまだ何も書いてなくて、ハンドタオルは常に何枚か置いてある。タオルは今日補充分をまとめて持ってきたから、今日じゃなくて良かった」


 真美ちゃんが戻ってくるのがちょっと遅いなとは思ってたんだけど、それもやってたんだね。


「机は綺麗に拭いといたから大丈夫。鍵が壊されてる話をしたら、佐山先生が放課後直しておくって言ってたからそれも大丈夫」


「ありがと。汚れたままだとクラスメイトにばれちゃうだろうし」


 あまり被害を大きくしたくはないなぁ。というか、璃音に嫌がらせした記憶がないんだけど、ゲームの世界に似た異世界なのかなぁ」


 それなら、璃音が璃音ではなく、ゲームをプレイした事のある私が璃音になっちゃったからかな。その程度の認識だったんだけど、真美ちゃんと武長先生は顔を見合わせ、分かりやすい溜息をついた。


「どうしたの?」


 2人とも普段は仲が良いとはいえないのに、今見ると不思議だね。抜群のコンビネーションなような気がする。


「璃音。分かりきった事を宣言するけど、私は担任教師が大ッ嫌いなの。この下心丸分かりの顔。担任の本性を知らない子たちがこの顔につられてきゃーきゃー喚くけど、そっちにターゲットを変えてくれれば良いのに!と常に思っているからね。

 でも今回は、璃音の事だから真面目に動いてくれるっていう事はわかる。だから頼ったの。息なんかあってないし、相性が抜群になったわけでもないから勘違いしないようにね。わかった?」


 真美ちゃんの長台詞。舌も噛まずに一息で言い切る。すごいなぁ。


「変な所で関心しない。で、情報は?」


 情報。つまり、今朝龍貴からもらったメールの内容の事だよね。

 困ったように眉尻を下げ、右人差し指で頬を掻く。あまり喋りたい事じゃないなっていう意思表示。

 なんだけど、どうやら話さない限り解放してくれなさそうだし、このままだと純夜や龍貴に直接聞きかねない。


「璃音。貴方がね、人からこんなふうに恨まれるタイプじゃないのは皆知ってるわ。けれどたった一つ。貴方を妬む女がいるとしたら、それは弟関係ね」


「……」


「そうだな。あの綺麗な顔をした弟関係しか思いつかない、な。俺が小耳に挟んだ事といえば、2年の間でちょっとした問題が起きてるって事ぐらいか。本人さえも曖昧なノートが足りないような気がする、とか。シャープペンシルが一本ないとか。花瓶が割れていたとかその程度だけどな」


「………」


 武長先生は誰から聞いたのかな。佐山先生は確か純夜と龍貴の3人で片付けようと思ってるはずだから除外して…。

 でも組を限定しないって事は、二年生全体で起きてる事を先生たちがまとめたのかもしれない。一件一件はたいした事のない件でも、それを何回も聞けば先生たちだって怪しむ。

 私が話さないという選択肢はほぼ削られ、猛獣の巣穴に迷い込んだかのような恐さをこの2人から感じるとは思ってなかった。

 これでも中身は40歳以上なのに。


「被害が大きくなれば、弟君にも害は及ぶ可能性が高い。璃音。知ってる事は早めに話せ。俺は気が長いつもりではいるが、今回の件について、長くはいられないかもしれないな」


 にっこりと、ものすごく爽やかに笑ってくれました。武長先生が。あの腹黒そうな武長先生の爽やかな笑顔。

 正直いって恐い。腹に一物だけじゃなく二物も三物も溜めてそうな笑顔ってこんなに恐いんだ。一見爽やかに見える武長先生の笑顔だけど。

 私は両手を上げて、降参のポーズを取る。


「龍君から聞いたのは純君のストーカーがいる、っていう事と、私に嫌がらせがいくかも。だけだよ。そろそろ解決しそうだから、最後の悪あがきを警戒してるんだと思うんだ」


 ゲームでは割合あっさりと片付いたイベントだったんだけどね。BLなのに女の子のストーカーネタだったから。

 現実になるとこうなるんだね。


「「最後の悪あがき、ねぇ」」


 真美ちゃんと先生の声がはもる。お互い嫌な表情を浮かべたけど、どうやらこれを話題に出すつもりはなさそうだ。


「璃音。靴や私物は暫く持ち帰る事。解決するまで一人にならない事」


「避難するならここに駆け込む。もしくは俺を頼れ。わかったな」


 迫力のある2人に言われ、頷く事しか出来なかった。本当に、今日は2人とも迫力あるなぁ…。






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