0話・プロローグ
「大丈夫! 純君ならいけるよ。自信もっていってらっしゃい」
そう言って、BLゲーム主人公の男前の姉は笑う。
画面の前で、「アネゴーーー!!!」と叫んだのは私だけじゃないだろう。
何せこのお姉さま。アネゴと言いたくなるような綺麗でかっこいい女性。しかし、この瞬間叫びたい理由は他にある。
この後、主人公である純夜は、アネゴが片思いしていた男の元へと駆け寄り告白。見事なBLカップル成立を果たすのだ。
純夜が主人公であり、BLゲームでは男同士くっつくのは当たり前の展開。寧ろ王道。だがしかし、片思い暦に焦点を当てたい。
弟の彼氏になる男は、二人の幼馴染だったりする。
アネゴの片思い暦18年の結末は結ばれる事なく失恋。
しかも相手は一歳年下の弟。設定上は義理の弟だったりするが、それがゲームで表に出る事はなかった。この情報は資料集にしか反映されない裏設定。
資料集を購入するようなファンの為だけに書かれた膨大な設定。このゲーム。Lienが好きならば読む価値があり過ぎる200ページA3サイズ定価3000円。
普段ならば女の子主人公の逆ハーゲーム専門だった私が、資料集の裏表紙に描かれたアネゴと名高い、主人公の報われない姉の璃音があまりにかっこよく、つい手を出してしまったゲームだ。
資料集から手を出してしまったが、設定を知りながらやるゲームも中々楽しかった。だがやはり物心ついた時からずっと好きだった相手が、弟とラブラブになってしまった。しかも送り出したのは綺麗でかっこいい笑みを浮かべた璃音――の場面を見た時は、アネゴはかっこよすぎ! 男前だ!!とつい涙が出てしまった。
私は資料から入ったが、ゲームをやり終えた後に設定集を見た女子たちからも、私と同じような声が上がり、ついには裏表紙を飾るような人気者になった璃音。
だがしかし、所詮はBLゲーム。
璃音の恋は音もなく崩れ落ちた。
哀れすぎる。
哀れすぎるが、BLゲームの女性キャラ的にいえば、まだというか相当マシな扱いを受けていた。女子が憧れるような女子。運動神経抜群のナイスバディ。しかも頭脳明晰。純夜のよき相談相手であり、性格は男前。
主人公の攻略キャラからもアネゴと慕われ、相談されたりアドバイスしたり交友関係は広く広く、どこまででも広い。攻略キャラの男からも煙たがれないよき相談相手。
純夜はそんな姉を尊敬し、なんでも相談する間柄。姉弟仲は良好。
だからあんな悲劇が起こるんだよね、と言われていたりもするが……それもシナリオ。仕方ないと泣く泣く目を瞑ろう。
ちなみに、私が気に入ったエンディングはノーマルエンドだ。このEDは、主人公の純夜が誰ともくっつかず、全攻略キャラの好感度が50%の時のみ見れる。
その内容は、あまりに良い人過ぎる姉を心配し、ほっとけなくなってしまった純夜が、誰ともくっつかずに姉に寄り添うのだ。恋愛ではない。家族愛でもない。裏表。陰と陽。お互いのパーツがいびつながらもぴったりと当てはまってしまった璃音と純夜。
激情もなく、哀愁もなく、ただ当たり前の日常を楽しむ二人。
弟とくっつかない幼馴染とは付き合えないと、ある意味報われないが、それでも笑う璃音が好きだった。
「純君。朝だよ。朝食作ってるから顔洗ってきて」
こんな立場になるまでは。