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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第9話 『干上がる空』

 黒い雲は、翌朝には消えていた。


 まるでからかわれたかのように。


 ラグナ村の空は、再び白く乾いている。


 畑の麦は、昨日よりさらに色を失っていた。


「……降らねぇな」


 ナディアが吐き捨てる。


 エリシアは板の前に立ち、数字を修正する。


 南の畑の減収予測を、さらに引き下げる。


 板に刻まれる数字が、小さくなる。


 それを見つめる村人たちの顔も、曇る。


「三分の一袋分、足りないままです」


 静かに告げる。


「保水対策の効果は出ていますが、天候が追いつきません」


「結局、天頼みか」


 若者が言う。


「はい」


 エリシアは認める。


「農業は、天候に逆らえません」


「じゃあ何のために……」


 言葉が途切れる。


 希望と現実の間で、揺れている。


 そのとき、村の外れから荷車の音が聞こえた。


 全員の視線が向く。


 商人の一団だ。


 先頭に立つ男は、にやりと笑う。


「ご機嫌よう、ラグナの皆さん」


 乾いた声。


「今年も前借りの時期ですね?」


 ガイアの顔が強張る。


 エリシアは一歩前に出る。


「契約書を確認させてください」


 商人は眉を上げる。


「おや、例の令嬢ですか」


「今は、ラグナ村の代表です」


 静かに言う。


 商人は羊皮紙を差し出す。


 エリシアは受け取り、目を走らせる。


 やはり利率が高い。


 遅延時の加算も曖昧。


「この条項は無効です」


「何を言う」


「返済期限が明確でない」


 板に書いた数字を示す。


「現在の収穫予測では、今年の返済は不可能です」


 ざわめき。


 商人は笑う。


「なら土地を差し出すしかありませんね」


 その言葉に、村人たちの顔色が変わる。


 土地は、命だ。


 エリシアは一瞬、目を閉じる。


 計算。


 収穫、備蓄、借金、労働力。


 選択肢は少ない。


「返済は、半分を来年へ繰り延べます」


「断る」


「利子は再計算を」


「断る」


 商人の態度は強硬だ。


 エリシアは板の前に立つ。


「この村の収穫量は、周辺村と比べて三割低い」


「だから何だ」


「改善余地があるということです」


 商人は鼻で笑う。


「夢物語だ」


「違います」


 エリシアは真っ直ぐに見据える。


「来年、穀倉同盟を結びます」


 ガイアが驚く。


「同盟?」


「近隣村と共同で交渉します」


 商人の目がわずかに揺れる。


 単独の村は弱い。


 だが、複数なら話は違う。


「今年は半分返済。来年、改善分から残りを返す」


「保証は?」


 エリシアは迷わない。


「私が保証します」


 空気が凍る。


「嬢!」


 ガイアが声を上げる。


「どう保証する」


「王都に戻り、資金を調達します」


 嘘ではない。


 だが、簡単でもない。


 商人はじっと彼女を見る。


「……面白い」


 低く笑う。


「今年は半分で手を打ちましょう。ただし」


 指を立てる。


「来年、倍にします」


 ざわ、と空気が揺れる。


 エリシアは計算する。


 来年倍。


 改善しなければ破綻。


「分かりました」


 ガイアが息を呑む。


「嬢、無茶だ」


「無茶です」


 エリシアは認める。


「ですが、今土地を失えば終わりです」


 商人は契約書を差し出す。


「署名を」


 エリシアは受け取り、ためらいなく名前を書く。


 その手が、わずかに震える。


 商人たちは去る。


 静寂が落ちる。


「倍だぞ」


 若者が言う。


「失敗すれば、全て持っていかれる」


「はい」


 エリシアは板を見つめる。


 来年の必要収穫量を書き足す。


 数字が跳ね上がる。


 重い。


 だが、道は残った。


 ナディアが隣に立つ。


「賭けがでかくなったな」


「はい」


「後悔してるか?」


 エリシアは首を振る。


「いいえ」


 空を見上げる。


 相変わらず白い空。


「干ばつは来ます」


「来なきゃ?」


「備蓄が増えます」


 ナディアが笑う。


「強ぇな」


 エリシアは小さく息を吐く。


 強いのではない。


 怖いのだ。


 だが、止まれない。


 干上がる空の下、数字は動く。


 賭けは、もう始まっている。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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