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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第7話 『責任』

 夜が、重く落ちていた。


 ラグナ村の広場には、焚き火がひとつだけ灯っている。


 昼間の衝突の余韻が、まだ空気に残っていた。


 誰も大きな声では話さない。


 だが、視線は集まっている。


 エリシアは、広場の中央に立った。


 肩の打撲は鈍く痛むが、外套で隠せる程度だ。


「話があります」


 静かな声。


 村人たちが、ゆっくりと集まる。


 ガイア、ナディア、若者たち、サラの母。


 子供たちは、親の後ろに隠れている。


 エリシアは、深く頭を下げた。


 ざわ、と空気が揺れる。


「私の見積もりが甘かった」


 はっきりと言う。


「土壌の状態を、数字だけで判断しました。実際の劣化を、正確に把握できていませんでした」


 沈黙。


「その結果、南の畑の半分が枯れました」


 胸が痛む。


「責任は、私にあります」


 若者の一人が、苛立ちを隠さず言う。


「謝って済むのかよ」


「済みません」


 即答。


 ざわめきが止まる。


「だから、修正します」


 顔を上げる。


「明日から作業配分を変えます。南の畑は保水対策を最優先。堆肥の確保のため、家畜の糞を集約します。足りない分は、落ち葉と藁を混ぜて即席堆肥を作る」


 ナディアが眉を上げる。


「そんなもんで間に合うのか」


「完璧ではありません」


「じゃあ何でやる」


「何もしないより、ましだからです」


 焚き火の火が揺れる。


 エリシアは一歩前に出た。


「そして、種籾の管理体制を変更します。倉庫は二重鍵。夜間は交代で見張りを立てます」


 サラの母が、申し訳なさそうに頭を下げる。


「……ごめんなさい」


「いいえ」


 エリシアは優しく言う。


「悪いのは、飢えです」


 その言葉に、何人かが息を呑む。


「飢えは、人を追い詰めます。だからこそ、仕組みで守らなければならない」


 ガイアが腕を組む。


「嬢ちゃん」


「はい」


「逃げねぇんだな」


「逃げません」


 短い沈黙。


 ガイアは焚き火を見つめたまま言う。


「……村長として、続行を認める」


 ざわ、と空気が変わる。


 若者の一人が不満げに口を開く。


「まだ信用はできねぇ」


「それで構いません」


 エリシアは頷く。


「信用は、結果で示します」


 その言葉に、ナディアが低く笑う。


「いいねぇ。その顔だ」


 焚き火の火が、ぱちりと弾けた。


 エリシアは視線を巡らせる。


 怒りは消えていない。


 疑念も消えていない。


 だが、完全な拒絶はない。


 それで十分だ。


 その夜、エリシアは倉庫の前に立った。


 ナディアと並んで見張りをする。


「王都のお嬢様が、夜番とはな」


「王都では、机の番でした」


 ナディアが鼻で笑う。


「机は裏切らねぇか?」


「数字は裏切りません。でも、前提が間違っていれば、意味がありません」


「今回みたいにな」


「はい」


 素直に認める。


 ナディアは少し驚いたように目を細めた。


「普通は言い訳する」


「言い訳しても、畑は戻りません」


 夜風が冷たい。


 星は出ているが、湿り気はない。


「嬢」


「はい」


「本当に干ばつ、来るのか」


 低い問い。


 エリシアは空を見上げる。


「来ます」


「絶対か」


「絶対はありません。でも、確率は高い」


「数字か」


「数字です」


 ナディアはしばらく黙っていたが、やがて言った。


「なら、賭けてやる」


「賭け、ですか」


「嬢の数字に」


 その言葉は、不器用な信頼だった。


 エリシアの胸が、わずかに温かくなる。


「ありがとうございます」


 夜が更ける。


 遠くで犬が吠える。


 倉庫の扉は閉ざされ、二つの鍵がかかっている。


 失敗はした。


 だが、終わってはいない。


 責任とは、逃げないこと。


 エリシアは焚き火の残り火を見つめながら、静かに決意を固める。


 明日、もう一度やり直す。


 数字を、現実に合わせる。


 人を、数字に合わせない。


 悪役令嬢と呼ばれた女は、少しずつ。


 本当の“領主”になろうとしていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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