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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第6話 『最初の失敗』

 労働交換制度が始まって、三日が過ぎた。


 水路の掘り直しは進み、畑の区画整理も形になり始めている。


 だが、土は乾いたままだ。


 鍬を入れても、硬く、深くは掘れない。


「嬢、これ以上は無理だ」


 若者の一人が汗をぬぐいながら言う。


「土が死んでる」


 エリシアはしゃがみ込み、指で土をすくう。


 細かく砕け、すぐにさらさらと崩れる。


 水分がない。


 腐葉土も足りない。


「堆肥は?」


「去年は余裕がなかった」


 ガイアが低く答える。


 家畜も減っている。糞を集める量も少ない。


 エリシアは唇を噛む。


 計算では、労働力を集中すれば改善できるはずだった。


 だが、前提条件が違う。


 王都で扱っていたのは“数字の村”だった。


 ここは、“現実の村”だ。


 その夜、倉庫で問題が起きた。


「種籾が減ってる!」


 叫び声が響く。


 村人たちが駆けつける。


 三袋あったはずの種籾が、一袋、明らかに減っている。


 空気が張り詰める。


「誰だ」


 低い声。


 視線が互いを疑い始める。


 エリシアの胸が冷える。


 最悪の事態。


 種籾は、絶対に守らなければならない。


「正直に言ってください」


 静かに言う。


「責めません」


 だが、沈黙しか返らない。


 そのとき、倉庫の隅で小さな影が震えていた。


 サラだ。


 腕に、小さな布袋を抱えている。


 中身が、こぼれる。


 種籾。


 母親が青ざめる。


「サラ……!」


 少女の目は涙でいっぱいだった。


「おなか、すいたの……」


 エリシアの胸が、強く締めつけられる。


 誰も責められない。


 飢えは理性を奪う。


 ナディアが歯を食いしばる。


「だから言ったろ、今年を削るってのはこういうことだ」


 村人の視線が、エリシアへ向く。


 冷たい、問いかけるような視線。


 エリシアは膝をつき、サラと目を合わせた。


「食べた?」


 サラは首を振る。


「まだ……」


 袋を受け取り、倉庫へ戻す。


 そして、立ち上がる。


「私の判断です」


 静かに言う。


「種籾の管理を甘く見ました」


 ざわ、と空気が揺れる。


「嬢のせいじゃない!」


 母親が叫ぶ。


 だがエリシアは首を振る。


「私が、守ると言いました」


 胸の奥が焼けるように痛い。


 制度は始まったばかりだ。


 だが、もう亀裂が入っている。


「明日から、種籾は二重管理にします」


「二重?」


「鍵を二つに分けます。村長と、運搬隊長に一つずつ」


 ナディアが目を細める。


「信用しねぇってことか」


「信用しています」


 エリシアはまっすぐ言う。


「だからこそ、疑いを生まない仕組みにします」


 沈黙。


 ナディアはやがて、鼻を鳴らした。


「……嫌いじゃねぇ」


 だが、問題はそれだけではない。


 翌日、さらに悪い知らせが入る。


「南の畑、半分枯れた」


 若者が息を切らして駆け込む。


 エリシアは畑へ走った。


 麦の葉が黄色く変色している。


 水路はまだ十分に機能していない。


 計算より、乾燥が早い。


「……間に合わない」


 思わず漏れる。


 ガイアが横に立つ。


「嬢、どうする」


 責める声ではない。


 問う声だ。


 エリシアは歯を食いしばる。


 頭の中で、数字が崩れていく。


 想定より収穫はさらに減る。


 備蓄計画も、見直さなければならない。


 そのとき、若者の一人が叫んだ。


「だから言ったんだ! パンを止めるからこうなる!」


 怒りが爆発する。


「嬢のせいだ!」


 石が飛ぶ。


 今度は、肩に当たった。


 痛みが走る。


 だが、エリシアは逃げない。


「……そうかもしれません」


 その言葉に、全員が固まる。


「私の見積もりが甘かった」


 震える声。


「でも、やめません」


 目を上げる。


「ここで諦めれば、来年はゼロです」


 涙がこぼれる。


 だが、拭わない。


「私は、責任を取ります」


 沈黙。


 風が吹く。


 乾いた土が舞う。


 ナディアが前に出る。


「責任ってのは、逃げねぇことだ」


 エリシアを見る。


「逃げる気あるか?」


「ありません」


 即答。


 ナディアは村人を睨む。


「だったら黙って鍬を振れ!」


 空気が揺れる。


 若者は悔しげに拳を握るが、やがて視線を逸らした。


 完全な信頼はない。


 だが、完全な拒絶でもない。


 エリシアは空を見上げる。


 白い空。


 雨は、まだ来ない。


 最初の失敗。


 制度は、簡単ではない。


 それでも。


 ここで折れれば、本当に終わる。


 悪役令嬢と呼ばれた女は、静かに息を吸う。


 まだ、終わっていない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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これからもどうぞよろしくお願いします!

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