表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/24

第5話 『施しの終わり』

 その日の夕刻、村の広場に小さな机が置かれた。


 その上に並ぶのは、エリシアが持参した乾燥パンと、干し肉がわずか。


 村人たちが集まってくる。


 空腹は理屈を待たない。


 エリシアは立ち上がった。


「これが、私の持っているすべてです」


 ざわめきが起きる。


「今日は、全員に分けます」


 ほっとしたような空気が広がる。


 だが彼女は続けた。


「ですが――今日で終わりです」


 一瞬で、空気が凍った。


「……は?」


 若者の一人が声を上げる。


「明日からは、労働交換制度を始めます。畑の再整備、倉庫の修繕、共同備蓄の準備。それに参加した者に、食料を分配します」


「ふざけるな!」


 怒号が飛ぶ。


「働けない者はどうする!」

「子供は?」

「年寄りは?」


 エリシアは一つひとつ、目を見て答える。


「働けない者は、できる者が支えます。そのための制度です」


「綺麗ごとだ!」


 石が投げられた。


 足元に転がる。


 胸の奥が、ひやりと冷える。


 だが視線は逸らさない。


「施しは、依存を生みます」


 低く、しかしはっきりと。


「今日のパンを配り続ければ、来年の種籾がなくなります」


「来年なんて、知らねぇよ! 今がつらいんだ!」


 その叫びが、胸を抉る。


 エリシアは一歩前に出た。


「私も、今を救いたい」


 声が震える。


「でも、今だけでは、足りない」


 広場の端で、サラが母親の手を握っている。


 あの小さな命を思う。


 今日の優しさで、明日を奪いたくない。


「私は、この村を飢えさせません」


「ならパンを寄越せ!」


「その代わりに、働いてください」


 沈黙が落ちる。


 怒りと戸惑いが入り混じる。


 ガイアが前に出る。


「嬢ちゃん、本気でやる気か」


「はい」


「今年を削るんだぞ」


「はい」


 ガイアは深く息を吐いた。


「……村人全員で話し合う」


 エリシアは頷く。


「私は逃げません」


 その夜。


 広場には重たい空気が漂っていた。


 パンは分けられ、ほんの少しの満腹が訪れる。


 だが、安心はない。


 エリシアは集会小屋に戻り、手帳を開く。


 今日の分配量を書き込む。


 残量を計算する。


 あと三日。


 それが限界だ。


 手が止まる。


 窓の外で、誰かの泣き声が聞こえる。


 子供だ。


 胸が締めつけられる。


 自分は冷たいのか。


 王都で言われた言葉が蘇る。


 悪役令嬢。


 冷酷な女。


 目を閉じる。


 涙が一筋、頬を伝う。


「……今日だけなら、救えるのに」


 だが、種籾は守らなければならない。


 机に突っ伏し、拳を握る。


「私は、明日を選ぶ」


 静かな決意。


 翌朝。


 広場に再び人が集まる。


 顔は険しい。


 ガイアが口を開いた。


「話し合った」


 短い沈黙。


「……やる」


 ざわ、と空気が揺れる。


「全員で、やる。ただし」


 ガイアの目が鋭く光る。


「失敗したら、お前が責任を取れ」


 視線が一斉に集まる。


 エリシアは、まっすぐ頷いた。


「取ります」


 迷いはない。


 その言葉に、ナディアが笑った。


「いい顔してやがる」


 若者の一人が舌打ちする。


「どうせ机上の空論だ」


「なら、証明します」


 エリシアは板を指さす。


「今日から、畑を三区画に分けます。水路の掘り直し、土壌の入れ替え、種の選別。全員に役割を割り振ります」


「指図するな!」


「指図ではありません。提案です」


 そして、静かに付け加える。


「嫌なら、断ってください」


 挑発ではない。


 本気だ。


 逃げ道を用意した上での提案。


 それが、少しだけ村人の警戒を和らげる。


 ナディアが前に出る。


「運搬隊は水路をやる」


「ありがとう」


 若者たちも、渋々うなずく。


「……やるしかねぇだろ」


 動きが生まれる。


 鍬が土に刺さる。


 乾いた音。


 白い空の下、汗が落ちる。


 エリシアも外套を脱ぎ、土を掘る。


 柔らかい手のひらに、すぐに水ぶくれができる。


「嬢、無理すんな」


 ナディアが言う。


「無理ではありません」


 息を切らしながら笑う。


 その姿に、村人たちの視線が変わる。


 ただ命じるだけではない。


 一緒に泥をかぶる。


 それが、わずかな信頼を生む。


 だが。


 遠くの空で、雷鳴が鳴った。


 音だけ。


 雨は降らない。


 エリシアは空を見上げる。


 時間は、待ってくれない。


 施しは終わった。


 ここからが、本当の戦いだ。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ