第40話 『象徴』
王都公開審問――三日後。
通達は南部全域に広がった。
連盟は解散しなかった。
代わりに、代表が立つ。
その事実は、静かに波を生んでいた。
「本当に行くのか」
ブレイン村代表が問う。
「はい」
エリシアは迷わない。
「一人で背負う必要はない」
アデルが言う。
「連盟は共同責任だ」
「ですが、象徴は一人で十分です」
静かな言葉。
象徴。
それは守る盾にもなり、
叩く標的にもなる。
リリアナが前に出る。
「教会は声明を出します」
「ありがとうございます」
「制度と施しは敵ではない、と」
南部の空気が、少しだけ和らぐ。
そのとき、クラフト村から数名が訪れる。
痩せた母親と、少女。
少女は無言でエリシアを見る。
「……ルナ」
リリアナが名を呼ぶ。
難民の少女。
家族を干ばつで失い、流れ着いた。
「王都へ行くの?」
小さな声。
「はい」
「悪い人と戦うの?」
エリシアは一瞬だけ迷う。
「戦うというより」
視線を合わせる。
「説明しに行きます」
「どうして?」
「責任だから」
ルナは首をかしげる。
「責任って、なに?」
静かな沈黙。
広場の全員が聞いている。
「選んだことを、最後まで引き受けること」
ルナは少し考え、
「じゃあ、ルナも行く」
ざわ、と空気が揺れる。
「だめだ」
ナディアが即答する。
「危険だ」
「危険でも行く」
少女の目は真っ直ぐだ。
「お腹すいたの、話す」
誰も言葉を出せない。
制度の外側。
数字では測れない存在。
アデルが低く言う。
「連れていけ」
全員が見る。
「象徴は一人では足りない」
エリシアは静かに頷く。
「同行します」
ミレイアが呟く。
「王都は揺れます」
その夜。
王都、商人ギルド本館。
「理事カイル・ヴァルグレンを一時職務停止とする」
理事会決議。
バルドが静かに笑う。
「連盟と距離を取れ」
「拒否する」
カイルは短く言う。
「職を失うぞ」
「承知している」
空気が張り詰める。
「南部は市場を壊した」
「市場が南部を壊した」
視線がぶつかる。
だが多数決は冷酷だ。
「職務停止」
木槌が鳴る。
カイルは静かに席を立つ。
夜の廊下。
私信を書く。
『私は外れる。だが討論の場は確保した』
ラグナ村。
エリシアはその手紙を読む。
短い。
だが重い。
「……あなたが倒れたら困ります」
小さな呟き。
ミレイアが聞く。
「利益が減るからですか」
一瞬の間。
「……それだけではありません」
それ以上は言わない。
夜明け。
出立の日。
連盟代表団が並ぶ。
アデル、ミレイア、リリアナ、レオン。
そしてルナ。
「帰ってくる」
エリシアは言う。
「必ず」
干上がった風が吹く。
南部は揺れている。
だが、崩れてはいない。
連盟は象徴を送り出す。
王都へ。
制度を背負って。
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