第37話 『揺れる信頼』
南部穀物価格――前日比、九%下落。
板に書かれた数字を見て、広場にどよめきが広がる。
「……落ちた」
誰かが呟く。
頂点を打った。
市場は、利確に動いた。
「暴落です」
ミレイアが静かに言う。
「売りが集中」
価格は炎だった。
だが今は灰が舞う。
「備蓄価値が……」
ブレイン村代表が顔を青ざめさせる。
「下がります」
エリシアは冷静に答える。
「想定内です」
想定はしていた。
だが。
問題はそこではない。
伝令が駆け込む。
「クラフト村、暴動」
沈黙。
「施し倉庫が襲撃」
「被害は」
「軽微」
だが象徴的だ。
罰則が続く中、暴落。
売れなかった村は後悔し、
売った村は孤立する。
信頼が、揺れる。
「嬢」
ナディアが低く言う。
「ブレインが動きそうだ」
視線が集まる。
ブレイン村代表は汗を浮かべている。
「我々は……」
言葉を濁す。
「内部で売却案が出ている」
ざわ、と空気が張り詰める。
「今売れば、まだ利益が出る」
「規約違反です」
ミレイアが即座に言う。
「だが暴落が続けば、損だ」
揺らぎ。
連盟は、信頼でできている。
「売ればどうなる」
エリシアが問う。
「短期的には救われる」
「長期的には」
沈黙。
「……崩れます」
自分で答える。
レオンが前に出る。
「嬢の半袋、忘れたか」
静かな声。
「切ったから生きた」
ブレイン村代表は拳を握る。
「だが餓死者が出れば」
「教会が支える」
リリアナが言う。
「連盟は市場を止める枠」
役割分担。
アデルが低く言う。
「信頼を守れ」
視線が交わる。
「一村でも崩れれば、連盟は終わる」
そのとき、ミレイアが新たな報告を読む。
「内部リーク確認」
「リーク?」
「連盟会合の内容が王都市場に流れている」
沈黙。
空気が冷える。
「……誰だ」
ナディアが唸る。
疑心暗鬼。
これが一番危険だ。
連盟は外敵より、内部不信で崩れる。
「証拠は」
エリシアが問う。
「不十分」
ミレイアは首を振る。
「だが一致する」
バルド派は連盟の動きを把握している。
「内部に耳がある」
アデルが言う。
「疑えば終わる」
エリシアは静かに言う。
「疑いません」
全員が見る。
「証拠が出るまでは」
揺れる空気を、押さえ込む。
夜。
エリシアは板の前に立つ。
価格――下落。
連盟――揺らぎ。
暴動――発生。
リーク――疑惑。
信頼は数字で測れない。
だが崩れれば、一瞬だ。
外で足音。
ミレイアが戻る。
「新情報」
「はい」
「リークの出所、王都ギルド内部の可能性」
目が細くなる。
「カイルではない」
「根拠は」
「彼の派閥が圧力を受けている」
バルドが動いている。
市場は外からも、内からも揺らす。
「……揺らしているのは価格ではない」
エリシアは呟く。
「信頼だ」
暴落は始まった。
だが本当に崩れかけているのは、
連盟の心。
次に揺れるのは、どこか。
市場か。
それとも、人か。
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