第36話 『罰則の代償』
翌朝。
南部穀物価格――前日比、三%上昇。
上昇幅は鈍化。
だが高止まり。
「……頂点付近」
ミレイアが呟く。
「売り圧が出始めています」
投機資金が利確に動く兆し。
市場は天井を探している。
だがそのとき、別の報告が入る。
「クラフト村で餓死者一名」
静かな声。
広場の空気が凍る。
リリアナが目を伏せる。
「施しが追いつかなかった」
罰則による融通停止。
連盟の規約は守られた。
だが、人は死んだ。
エリシアの喉が締まる。
「……年齢は」
「六歳」
難民少女ルナと同じくらい。
小さな沈黙。
ナディアが低く言う。
「嬢」
「分かっています」
責任。
規約は正しかったか。
正しくなかったか。
「罰則を緩めるべきだ」
ブレイン村代表が言う。
「もう一人死ねば、暴動になる」
アデルが冷静に返す。
「緩めれば規約は崩れる」
「だが人が死ぬ!」
「規約が死ねば、もっと死ぬ」
激しい衝突。
リリアナが静かに言う。
「教会は施しを増やします」
「それは連盟の枠外だ」
アデルが言う。
「はい」
リリアナは頷く。
「枠外で支えます」
制度と祈りの分担。
エリシアは板の前に立つ。
罰則――継続。
施し――拡充。
「罰則は維持します」
静かな決断。
ざわめき。
「冷酷だ」
誰かが呟く。
「はい」
エリシアは否定しない。
「冷酷です」
空気が止まる。
「ですが、設計です」
震える指で板に線を引く。
「連盟は市場を止める枠組み」
「感情で動けば、崩れます」
レオンが低く言う。
「俺たちは切った」
南区画。
半袋。
「だから今がある」
痛みを知っている声。
エリシアは続ける。
「罰則の代わりに、情報を出します」
「情報?」
「クラフト村の失敗、餓死も含めて」
ざわ、と空気が揺れる。
「出すのか」
「はい」
隠せば、歪む。
「連盟は、痛みも共有する」
アデルがじっと見る。
「弱みを晒す」
「信頼のために」
沈黙。
そのとき、ミレイアが板を指す。
「価格、横ばい」
頂点。
市場は天井を打った。
「売りが出ます」
「はい」
エリシアは息を吸う。
「暴落に備えます」
暴落は安堵をもたらす。
だが同時に、
売り遅れた者を破壊する。
王都。
バルドは報告を受ける。
「価格、停滞」
「連盟の内部統制が効いています」
セリオが言う。
「崩れないか」
「一部崩れました」
「足りない」
バルドは窓の外を見る。
「もう一押しだ」
再びラグナ村。
夕刻。
エリシアは一人、南区画の跡に立つ。
「……また、切った」
呟く。
罰則は維持した。
その結果、命が一つ消えた。
背後に足音。
リリアナだ。
「あなたは、神ではない」
「知っています」
「それでも背負うのですか」
「はい」
震えない声。
リリアナは小さく言う。
「私は祈ります」
「ありがとうございます」
夜。
板に新しい数字。
価格――横ばい。
連盟――維持。
罰則――継続。
死者――一。
制度は冷たい。
だが崩れていない。
嵐はまだ終わらない。
価格は、明日。
動く。
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