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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第28話 『半袋の証明』

 ラグナ村へ戻ったとき、空気は張り詰めていた。


 中央区画の麦は、収穫期を迎えている。


 だが量は少ない。


 村人たちは無言で鎌を振るっていた。


 エリシアが馬車から降りると、ナディアが駆け寄る。


「嬢」


「戻りました」


「どうだった」


「資金は確保しました」


 一瞬、空気が緩む。


「本当か」


「はい。ただし」


 全員が息を呑む。


「来年、数字で証明します」


 意味は伝わる。


 失敗すれば、終わりだ。


 ガイアがゆっくり頷く。


「なら、やるだけだ」


 収穫は三日続いた。


 籠に積まれていく麦。


 例年より明らかに少ない。


 だが、ゼロではない。


 板の前に全員が集まる。


 エリシアが数字を書き込む。


 収穫量――予測の八割。


 不足――縮小。


 備蓄――維持。


 来年返済可能額――半分達成。


 沈黙。


 そして、ざわ、と空気が揺れる。


「……足りてる」


 誰かが呟く。


「全部じゃねぇけど」


「生き残れる」


 ナディアが笑う。


「半袋だな」


 エリシアは頷く。


「半袋です」


 倍返済には届かない。


 だが、破綻は回避した。


 例外は、崩れなかった。


 そのとき、小屋の扉が開く。


 レオンだ。


 顔色はまだ白い。


 だが、立っている。


「……間に合ったか」


 かすれた声。


 母が駆け寄る。


「無理しないで」


「してねぇ」


 ゆっくり歩き、板を見る。


 半袋。


 彼は、小さく笑う。


「……賭け、外れてねぇな」


 エリシアの胸が熱くなる。


「まだ途中です」


「知ってる」


 レオンは板に触れる。


「でも、ゼロじゃねぇ」


 あの言葉。


 最初に彼が笑ったときと同じ。


 村人たちが少しずつ笑い始める。


 完全な勝利ではない。


 だが、生き残った。


 夜。


 焚き火の前。


 ガイアが言う。


「嬢ちゃん」


「はい」


「例外になったな」


「はい」


「王都はどう見る」


 エリシアは空を見上げる。


「試されます」


 ミレイアが静かに言う。


「すでに噂は広がっています」


「噂?」


「南部で唯一、破綻しなかった村」


 リリアナも頷く。


「教会内でも話題です」


 ナディアが笑う。


「目立っちまったな」


 エリシアは小さく息を吐く。


 目立つということは、狙われるということ。


 ギルド。


 王都。


 教会。


 干ばつは、これから本番だ。


 だが、ラグナ村は証明した。


 半袋でも、生き残れる。


 制度は、壊れなかった。


 若者は、立ち上がった。


 例外は、現実になった。


 その夜、遠くの空で雷が鳴った。


 今度は、本格的な乾きの季節が来る。


 だが、もう違う。


 ラグナ村は、孤立していない。


 王都と繋がった。


 市場と繋がった。


 祈りとも、繋がった。


 エリシアは板を見つめる。


 南――停止。


 中央――維持。


 北――維持。


 半袋。


 それは敗北ではない。


 証明だ。


 そして物語は、次の段階へ進む。


 干ばつとの戦いは終わらない。


 今度は、南部全体を巻き込む。


 例外は、波になる。


 静かに、しかし確実に。

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