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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第22話 『倒れる未来』

 レオンは三日、目を覚まさなかった。


 命に別状はないとリリアナは言った。


 だが、衰弱は深刻だった。


「過労と栄養不足」


 静かな診断。


「このままでは、後遺症が残るかもしれません」


 母親の顔が青ざめる。


 エリシアは、寝台の傍らに立ったまま動けなかった。


 彼は、最初に制度に賛成した一人だった。


 “未来に賭ける”と、真っ先に言った若者。


 その未来が、今、倒れている。


 外では、村人たちがひそひそと話している。


「やっぱり無理だったんだ」

「若いのに……」

「制度が追い詰めたんじゃないか」


 痛い。


 その言葉は、全部、事実の一部だ。


 ミレイアが低く言う。


「過負荷が原因です」


「はい」


「制度設計に問題があります」


「……はい」


 エリシアは認める。


 逃げない。


「修正が必要です」


 淡々とした声。


 だが、その瞳はわずかに揺れている。


 リリアナが立ち上がる。


「あなたは、泣かないのですか」


 唐突な問い。


 エリシアは一瞬、目を伏せる。


「泣きたいです」


「なら、泣きなさい」


「泣いても、数字は変わりません」


「変わります」


 リリアナの声が、珍しく強い。


「人が、変わります」


 沈黙。


 エリシアの喉が震える。


 だが、今は泣けない。


 夜。


 広場に村人が集まる。


 空気は重い。


 ガイアが言う。


「レオンが倒れた」


 静かな事実。


「制度を続けるのか」


 誰かが問う。


 視線がエリシアに集まる。


 胸が締めつけられる。


「……続けます」


 小さく、しかしはっきりと。


 ざわ、と空気が動く。


「でも」


 続ける。


「設計を変えます」


「どう変える」


「負荷を分散します」


 板を持ち出し、数字を書く。


 作業時間短縮。


 若年層への過集中を解消。


 高齢者の補助作業の拡充。


 施しの即日分配比率増加。


「倍返済のための作業量は?」


 ナディアが問う。


「下げます」


 その言葉に、空気が凍る。


「下げる?」


「来年の目標値を修正します」


 ミレイアが目を細める。


「返済不能の可能性が上がります」


「はい」


「合理的ではありません」


「合理的です」


 エリシアは、真っ直ぐに言う。


「未来を担う若者を壊せば、返済以前に終わります」


 静寂。


 リリアナが小さく頷く。


「人を守る」


「はい」


 ガイアが深く息を吐く。


「倍は無理か」


「無理かもしれません」


「なら、どうする」


 エリシアは空を見上げる。


 雲は薄い。


 干ばつの本番は、まだ来ていない。


「王都へ行きます」


 ざわ、と空気が揺れる。


「資金を調達します」


「王都に?」


「はい」


 ミレイアの瞳が鋭く光る。


「容易ではありません」


「分かっています」


「断罪された身で?」


「だからこそです」


 エリシアは、拳を握る。


「この村を、例外で終わらせません」


 沈黙。


 ナディアが笑う。


「でかいな」


「はい」


「でも、嬢らしい」


 レオンの母が、涙を拭いながら言う。


「……あの子を守ってください」


 その言葉が、胸に刺さる。


「守ります」


 静かな誓い。


 夜、エリシアは一人、南区画の跡に立つ。


 倒れた麦は、泥に埋もれている。


「未来を守る」


 小さく呟く。


 だが、守りきれない現実もある。


 レオンはまだ目を覚まさない。


 制度は揺れた。


 倍返済は遠のいた。


 干ばつは、確実に近づいている。


 それでも。


 エリシアは、立ち止まらない。


 選び続ける。


 守るために。


 背負うために。


 明日を。

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