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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第15話 『白衣の微笑み』

 風害の翌朝、ラグナ村は沈んでいた。


 南区画の麦は、半分以上が倒れたまま。


 起こせたものもあるが、根は弱り、収穫量の回復は望めない。


 エリシアは板の前に立ち、数字を修正する。


 不足、さらに拡大。


 来年の倍返済が、現実味を帯びて迫る。


「……厳しいですね」


 背後から、柔らかな声。


 振り向くと、リリアナが立っていた。


 白衣は昨日と変わらず清らかで、泥一つついていない。


「厳しいです」


 エリシアは認める。


「だからこそ、今こそ施しが必要です」


「施しは、制度の穴を広げます」


「穴を埋める時間を与えます」


 静かな応酬。


 リリアナは村の子供たちを見やる。


 サラは、倒れた麦を起こそうと小さな手で土を掴んでいる。


「子供に、賭けを背負わせるのですか」


 問いは、優しいが鋭い。


 エリシアは言葉を選ぶ。


「背負わせているのは、私です」


「違います」


 リリアナは首を振る。


「あなたは選択を迫っています」


 胸の奥が、わずかに痛む。


 否定できない。


「全員は救えません」


 エリシアは静かに言う。


「だから、選びます」


「神は、選びません」


「人は、選びます」


 再び、視線がぶつかる。


 そのとき、ミレイアが集会小屋から出てきた。


「風害による減収、予測通りです」


 冷静な声。


「予測通り、ですか」


 リリアナが問い返す。


「はい」


 ミレイアは板を指す。


「保水対策で被害は三割に抑えられた」


 村人たちがざわめく。


「何もしなければ、五割以上だった」


 エリシアは息を呑む。


 数字が、証明する。


「……それでも、不足は拡大しています」


 ミレイアは淡々と続ける。


「成功とは言えない」


 ナディアが低く笑う。


「容赦ねぇな」


「事実です」


 ミレイアは感情を挟まない。


 リリアナはエリシアを見つめる。


「それでも、施しは拒みますか」


 エリシアは板を見る。


 不足、拡大。


 来年、倍。


 そして、村人たちの顔。


 疲労、恐怖、迷い。


 選択は、重い。


「拒みません」


 ゆっくりと答える。


「ですが、条件があります」


 リリアナの目がわずかに細まる。


「共同備蓄への組み込み」


「また、それですか」


「はい」


「主の慈悲を、制度の枠に入れると?」


「慈悲を、継続させます」


 沈黙。


 リリアナはしばらく考え、やがて微笑んだ。


「あなたは、頑固ですね」


「そうかもしれません」


「嫌いではありません」


 白衣の微笑みが、ほんの少しだけ変わる。


 柔らかさの奥に、対抗心が見える。


「ですが、私は民衆を守ります」


「私もです」


 同じ言葉。


 だが、道は違う。


 その日の午後、教会のパンが再び届く。


 村人たちは列を作る。


 エリシアは、板に数字を加える。


 備蓄、微増。


 だが、心は揺れている。


 若者の一人が、エリシアに近づく。


「なあ、嬢」


「はい」


「もし、全部教会に任せたらどうなる」


 正直な問い。


「今年は楽になります」


「来年は?」


「分かりません」


 若者は拳を握る。


「俺は……賭けたんだ」


「はい」


「裏切るなよ」


 その言葉が、胸を打つ。


「裏切りません」


 即答。


 夜、エリシアは一人、板の前に立つ。


 数字を見つめる。


 不足、拡大。


 備蓄、微増。


 賭け、継続。


 背後から足音。


 ミレイアだ。


「あなたは、なぜそこまで背負うのですか」


 静かな問い。


「断罪されたからですか」


「違います」


 エリシアは首を振る。


「断罪は、関係ありません」


「では?」


「干ばつが来るからです」


 ミレイアはしばらく黙る。


「もし来なかったら?」


「笑われます」


「それでも?」


「備蓄が増えます」


 ミレイアは小さく息をつく。


「合理的ですね」


「感情的です」


 エリシアは微笑む。


「守りたいから」


 ミレイアはその言葉を、否定しない。


 遠くで雷鳴が響く。


 だが、雨はまだ落ちない。


 白衣の微笑みと、冷徹な視線。


 そして、泥だらけの決意。


 ラグナ村は、静かに揺れている。


 干ばつは、もうすぐそこだ。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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これからもどうぞよろしくお願いします!

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