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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第12話 『冷徹な監査官』

 ミレイア・クロスフォードの滞在は、村に静かな緊張をもたらした。


 翌朝から、彼女は休むことなく動き回った。


 畑を視察し、水路の勾配を確認し、倉庫の在庫を数え、板に記された数字を一つひとつ照合する。


 無駄な言葉はない。


「この数字、誰が計算しましたか」


「私と……」


 若者が一歩前に出る。


「俺です」


「途中式は?」


「……途中式?」


 ミレイアは眉をひそめる。


「計算過程を残さなければ、検証ができません」


 若者は口を閉ざす。


 エリシアが口を開く。


「今日から残します」


「今日から、では遅い場合もあります」


 冷たい指摘。


 だが声は責める調子ではない。


 事実を述べているだけだ。


 ナディアが腕を組んで呟く。


「容赦ねぇな」


 ミレイアは振り向きもせず答える。


「制度に容赦は不要です」


 エリシアはその言葉を受け止める。


「ですが、人には必要です」


 ミレイアが初めて、正面から彼女を見た。


「感情は誤差を生みます」


「感情がなければ、誤差は放置されます」


 再び、視線がぶつかる。


 村人たちは固唾を呑む。


 午後、ミレイアは集会小屋でエリシアと向かい合った。


 机の上に帳簿を広げる。


「商人との契約変更。利率半減、返済繰り延べ。来年倍返済」


「はい」


「無謀です」


 即断。


「承知しています」


「承知して、署名した?」


「土地を守るために」


 ミレイアは指先で紙を叩く。


「感情的判断です」


「合理的判断です」


 エリシアは静かに返す。


「土地を失えば、将来の生産性はゼロになります」


 ミレイアの瞳が、わずかに揺れる。


「……理屈は通っています」


「ですが?」


「成功確率が低い」


「はい」


 即答。


「それでも、ゼロではありません」


 沈黙。


 外から鍬の音が聞こえる。


 村人たちは作業を続けている。


 ミレイアは窓の外を見る。


「王都では、施しを拡大する案が検討されています」


 エリシアの指が、わずかに止まる。


「干ばつ予測が広まり始めている。民衆は不安を抱いている」


「施しは、一時的な鎮静剤です」


「それが政治です」


 冷たい声。


「民は今日を求める」


「明日がなければ、今日もありません」


「理想論です」


「現実です」


 再び沈黙。


 ミレイアは書類を閉じる。


「あなたは、断罪をどう思っていますか」


 突然の問い。


 エリシアは一瞬、言葉を失う。


「……必要だったのかもしれません」


 ミレイアの眉がわずかに動く。


「民衆の不安を抑えるためには」


「では、恨んでいない?」


「恨んでも、雨は降りません」


 静かな返答。


 ミレイアは初めて、ほんのわずかに息をついた。


「感情に振り回されないのですね」


「振り回されています」


 エリシアは正直に言う。


「ですが、選びます」


 その言葉に、ミレイアの目が細くなる。


「選ぶ?」


「全員は救えません」


 胸の奥が、わずかに痛む。


「だから、選びます」


 それはまだ、現実になっていない言葉。


 だが、近い未来に迫っている。


 ミレイアは立ち上がる。


「しばらく滞在します」


「歓迎します」


「結果が出なければ、王都へ報告します」


「構いません」


 強がりではない。


 本心だ。


 外へ出ると、ナディアが待っていた。


「どうだ、あの女」


「優秀です」


「敵か?」


「まだ分かりません」


 ナディアは鼻を鳴らす。


「敵なら厄介だな」


「はい」


「味方なら?」


 エリシアは空を見上げる。


 相変わらず白い空。


「……頼もしいです」


 その頃、村の入り口に別の影が現れていた。


 白い修道服。


 穏やかな微笑み。


 手にはパンの籠。


 教会の紋章。


「主の恵みを」


 柔らかな声が、風に乗る。


 村人たちが振り向く。


 エリシアはその気配に気づき、ゆっくりと目を細めた。


 施しが、戻ってくる。


 思想の衝突は、避けられない。


 干上がる空の下、もう一つの選択が迫っていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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