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断罪後から始まる泣き虫悪役令嬢の泥だらけ領地再生記 ―追放先の辺境村で干ばつを止めたら、商人ギルドに目をつけられました―  作者: 夜凪ユリエ


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第10話 『それでも、明日を選ぶ』

 商人たちが去った後の広場は、異様な静けさに包まれていた。


 倍。


 来年、倍返し。


 その言葉が、村人たちの胸に重くのしかかっている。


「無茶だ」


 若者が呟く。


「来年、倍なんて無理だ」


 誰も否定できない。


 エリシアは板の前に立った。


 白い空の下、黒い数字が浮かび上がる。


 今年の収穫予測。


 半分返済。


 残る備蓄。


 そして――来年必要な収穫量。


 数字は、残酷だ。


「無理だと思う人は、手を挙げてください」


 ざわめきが走る。


 何人かが、迷いながら手を挙げた。


「……正直だな」


 ナディアが小さく笑う。


 エリシアは頷く。


「無理だと思うのは、正しいです」


 その言葉に、村人たちが顔を上げる。


「ですが、土地を失えば、確実に終わります」


 ガイアが低く言う。


「選択肢は二つか」


「はい」


 エリシアは指を立てる。


「一つ。今、土地を差し出す」


 村人たちの顔が強張る。


「二つ。来年に賭ける」


 沈黙。


 風が吹き、板がきしむ。


 サラが母親の袖を引く。


「おかあさん、パンなくなるの?」


 母親は答えられない。


 エリシアは膝をつき、サラの目を見る。


「なくならないように、頑張るの」


「ほんと?」


「ほんと」


 そのやり取りに、何人かの視線が揺れる。


 エリシアは立ち上がる。


「私は、明日を選びます」


 はっきりと。


「でも、強制はしません」


 ガイアが目を細める。


「強制しない?」


「この制度は、全員の合意がなければ意味がありません」


 沈黙が落ちる。


 やがて、ナディアが一歩前に出た。


「私は賭ける」


 腕を組む。


「嬢の数字に」


 若者の一人が舌打ちする。


「……俺も」


 別の者が続く。


「どうせ、ここで終わりたくねぇ」


 次々と、声が上がる。


 最後に、ガイアが言った。


「村長として、来年に賭ける」


 エリシアは、深く息を吐く。


「ありがとうございます」


 胸の奥が、熱くなる。


 だが、浮かれてはいられない。


「では、来年のために動きます」


 板に新たな計画を書き出す。


 堆肥強化。


 近隣村への接触。


 共同倉庫の拡張。


 商人との再交渉準備。


 やるべきことは山積みだ。


 そのとき、遠くで低い雷鳴が響いた。


 全員が空を見上げる。


 黒い雲が、ゆっくりと広がっている。


 誰も、声を出さない。


 一滴。


 ぽつりと、土に落ちる。


 もう一滴。


 サラが笑う。


「雨!」


 村人たちの間に、ざわめきが走る。


 だが、エリシアは空を見つめたまま動かない。


 数分後、雨は止んだ。


 ほんのわずか。


 土を湿らせるには足りない。


 期待と失望が、同時に胸を刺す。


 ナディアが肩をすくめる。


「焦らすなぁ」


 エリシアは、小さく笑った。


「雨も、賭けです」


「賭けだらけだな」


「はい」


 村人たちは、静かに散っていく。


 それぞれの家へ。


 それぞれの不安と希望を抱えて。


 エリシアは板の前に残る。


 数字を見つめる。


 今年の不足。


 来年の倍。


 雨の確率。


 すべてが、重い。


 それでも。


「私は、明日を選んだ」


 小さく呟く。


 悪役令嬢と呼ばれた女は、今日も泥だらけだ。


 だが、その泥の中で。


 確かに、種は守られた。


 干ばつは、まだ来ていない。


 だが、必ず来る。


 そのとき、今日の選択が意味を持つかどうか。


 答えは、未来にある。


 それでも。


 エリシアは、迷わない。


 施しではなく。


 恐怖でもなく。


 明日を、選ぶ。


 その決意だけが、今の彼女のすべてだった。


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