第七章 scene11 未成年
翌日。
厨房の隅。
サーヤは、女将と料理長の前で
妙に背筋を伸ばしていた。
サーヤ
「……じゃあ、わたしが行ってきます」
料理長
「どこへ?」
サーヤ
「もちろん、酒探し。
街で《香り》《軽やか》《締め》の三種類の酒を――」
女将、すぱーん、と手を上げて遮る。
女将
「却下。」
サーヤ
「え、なぜ」
女将
「なぜってあなた。
“10代の少女”が“酒を探してるんですけど” は、この街じゃ通報案件よ」
料理長、うんうん頷く。
サーヤ
「……………。
(いや、中身40過ぎですが?)
(なんで転生世界でまで年齢と戦ってるの?私)」
女将
「ため息ついてもダメ」
サーヤ
「……じゃあ、どうするんですか」
女将はニヤっと笑い、
女将
「持ってきてもらえばいいじゃない」
料理長
「あの商会だな。酒を扱ってる老舗がある」
サーヤ
「……なるほど(正攻法……!)」
――――――――――――――――――
翌週――
厨房裏の倉庫は、軽い祭り状態だった。
樽。
瓶。
木箱。
香り。
サーヤ
「うわぁぁぁぁ……!」
テンションが上がる。
純粋にテンションが上がる。
だが、そこにすっと伸びた手。
女将
「ダーメ」
サーヤ
「なんで!?!?」
女将
「あなた、何歳?」
サーヤ
「17歳です、そろそろ18?」
女将
「樽の前でそんな宣言しないで」
料理長、別方向で追撃。
「プロの舌は鍛えられてる。
未成年の好奇心で混ぜ物するな」
サーヤ
「……ううう……飲みたいわけじゃないもん……
“方向性を見たい”だけだもん……」
女将、にこやかに言う。
女将
「その方向性を“見る舌”が、今あなたにないの」
サーヤ
(ぐうの音も出ない……悔しい……
でも正しい……くそぉ……
アラフォーの尊厳……)
――――――――――――――――――
女将と料理長が静かにグラスを持つ。
まずは《香り》。
白いワイン。
薬草酒。
花の香りを重ねた淡い酒。
女将
「……これは香りが主張しすぎるわね。料理が負ける」
料理長
「これは香りが消える。
“料理と並んで立てる酒”がいい」
選ばれる一本。
――
次、《楽しい酒》。
柑橘の香り。
軽く跳ねる泡。
口の中が明るくなる。
料理長
「これだな」
女将
「“笑顔が早くなる”味ね」
――
最後、《締め》。
樽香。
余韻。
包み込む温かさ。
女将は、目を細めて言う。
「……これを、“今日の終わり”に飲んでほしいわね」
料理長
「うむ。宿の責任で出す酒だ」
決まった。
三本。
それはただの酒じゃない。
《この宿の夜を完成させるピース》
――――――――――――――――――
ペアリングの夜は
大成功だった。
静かな夜。
少し笑い声のある夜。
ひとを眠りへ送る夜。
その全部に、
酒が最後の「一歩」を添えた。
客
「……料理と酒ってこんなふうに楽しむものなんですね」
女将は笑っていた。
料理長も何も言わないけど、背中が誇らしげだった。
サーヤは――
「……よし」
――――――――――――――――――
夜が深くなった厨房。
料理長
「次は――」
女将
「持ち帰れる幸せ、だったわね?」
サーヤ
「……はい!」
静かに燃える。
“温泉街”
“湯宿”
“この街でしかない味”
次の戦いが、ゆっくり浮かび上がる。




