第七章 scene8 おやすみ処
湯を出ると、
そこに――ただの「通過点」だったスペースが、まるで別世界みたいに息をしていた。
石造りの壁に、やさしい灯り。
空気は冷たくなく、温かすぎもせず、ちょうどいい。
ほんのり湯の残り香と、清潔なリネンの香りが混ざる。
料理長が腕を組んで見守り、
女将は、ほんの少しだけ誇らしそうに微笑んでいた。
これはただの改装じゃない。
メイドみんなで知恵を出し合って作りあげた、“至福の場所”
ドリンクゾーン ――
《湯上がりの一杯 完成》
棚に並ぶ三杯。
《ローズフィズ》
ほんのり酸っぱく、薄いピンクが灯みたいに透ける
→ 美しくありたいあなたに
《サンライトクラッシュ》
黄金色、軽く揺らすと光が踊る
→ 今日をまだ終わらせたくないあなたに
《ホワイトビア・ドリフト》
麦の香り、柔らかい泡が喉にほどける
→ 「あぁ、生き返った」って言いたいあなたに
それとは別に――
透きとおる冷水。
香りだけ柑橘。
魔導冷却石の水差し。
⸻
■ 女性が喜ぶアメニティ ――
・髪ゴム(新品個包装)
・櫛
・軽いブランケット
・手鏡
・肌に優しいタオル(ふわふわ!)
・ほのかに香るリネンウォーター
女将
「…無駄がひとつもないわね」
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ソファと椅子 ―― 「座る」のではなく「落ちる」
柔らかすぎない。
でも、包まれる。
サーヤ(あれ、これって、あれよね?)
ルカが座って数秒――
ルカ
「……あ……帰れない」
料理長
「仕事戻れ」
外気浴スペース ――
湯の匂いが消えない風。
石畳のひんやり。
ほんのり夜の匂い。
椅子が三脚。
視線が気にならない高さの囲い。
客が、ただ黙って空を見上げる。
誰も急がない。
時間が優しく歩く。
没入感 ―― “魔道具をあえて使わない”
外気浴スペースに続く灯りは――
油ランプ。
揺れる火。
影が優しく伸びる。
メイドたちがぽつり。
「これ、本当に……わたしたちが作ったの?」
女将は何も言わない。
ただ、目尻をぬぐった。
サーヤの胸の奥が、ぽっと灯る。
── この日を境に、
《ルフナ湯館》は、
“至福の湯宿”と呼ばれるようになる、かも?




